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2019.12.17

建替え?それとも? 高経年マンションの3つの道

高齢化社会

改修工事

建替え?それとも? 高経年マンションの3つの道

高経年マンションの問題には特徴がある。例えば理事の成り手がいない、資金不足で必要な修繕が満足に行えない、高齢者が多く若い世代がほとんど住んでいない、といった具合だ。
高齢者が、”終の棲家”として、そこで人生を全うすると、当然その住戸は空き家になる。相続されたとしても、別に住まいと所帯を持った子どもたちは住まないだろう。また、建物が古く課題が多いマンションでは、賃貸でも中古でも、若い世代が入ってこない。

このように、若い世代に住みつなぐことができず、一つまた一つと空き家ばかりが目立つマンションになっていくと、建物としての寿命を早めてしまう。こんな状態になると、マンションは、再生するのが極めて困難だ。
その前にどんな手が打てるか。ここでは3つの道として選択肢を紹介する。

マンションの建替えが、300件もない理由

まず1つ目の道が「建替え」だ。
しかし、マンションを建替えるという事例は、現在実施中・準備中も含め実績は300件もない。
区分所有法では、4/5の賛成で建替えの決議が可能となる。しかし、方針決議を経て実際の新しい建物の計画や収支、また事業パートナーを決めるなど、合意形成のために何年も議論を重ねていかなければならない。今まで建替えができたものでも、検討開始から再建築マンションが竣工するまでの平均期間は、なんと9.6年もかかっている。いかに建替えが現実的でないかが伺える。

費用面でいえば、かかるのは再建築費用だけではない。建物の解体費用も発生する。意外と大きな負担なのだ。当たり前だが、建て替えるより更地に新築を建てた方が安上がりということだ。
また、再建築中の居住場所の確保や引越し、抵当権などの第三者の債権の権利変換の手間もかかる。

建替えがうまくいく場合の話をすると、現在の建物面積より数倍の面積が確保できるならば、余剰部分を事業パートナーに売却し、そのお金を解体費用や建築費用に充てることができる。

しかし、そんなケースは極めて稀。実際は、行政が都市計画を見直してしまい、容積率や高さ制限などですでに既存不適格になっている建物は多く、建替えると半分の面積にも満たないケースもあるのだ。
それが、300件にも満たないという理由。建替えという選択肢は、可能性が低そうだ。

第2の道も、結局100%同意しかない!?

建替えに代わる方法は、あと2つある。
2つ目の道として紹介するのが、躯体を残し、新しいコンセプトで共用部分だけでなく専有部分も含め一新させる「リノベーション」だ。最新のデザインを施す大々的な工事により、新築と同水準の空間設計や機能が確保できる。

実施内容にもよるが、建替えとのコスト比較でいえば、6~7割どのコストで済む。たとえば、耐震補強をし、建物全体を断熱材ですっぽりと包み込む外断熱にし、エレベーターを新設する。これは今までの機能性能を回復させ維持していくための改修工事ではない。まったく新しいコンセプトを持たせる処方だ。

リノベーションは改良行為として、3/4以上の特別決議で可決はできるのだが、専有部分への影響ははなはだ大きい。「専有部分の使用に特別の影響を及ぼす場合は専有部分の所有者の承諾が必要」という区分所有法第17条第2項を考慮すれば、実際は全員、100%同意ということになるだろう。

更地一括売却の実現性の乏しさ

3つ目の道は、建物を取り壊し、土地を全員で売却する「更地一括売却」だ。 マンションのデベロッパーに売却し、土地の売却益を元手に新しく建築されたマンションを購入すれば、建替えと同じ効果ともいえる。しかし、ここにもこんな困難が待ち受ける。

1.建替えは区分所有法で4/5の賛成で可能だが、更地にして一括売却を行う行為は共有物の処分行為となる。民法の共有物の処分行為として全員の同意が必要になる。

2.都心の一等地なら別だが、取り壊す費用よりも土地代が安いケースも十分にある。

3.容積が200%の建物の取り壊し費用が建物の坪当たり25万円だったとすると、売却する土地の価格が坪当たり50万円でプラスマイナス0となる。売却価格が50万円を下回れば持ち出し。郊外型マンションの多くは、土地の価格より取り壊し費用が掛かる場合が多い。

4.建替えや旧耐震で、耐震診断の結果脆弱であると認められた場合の更地一括売却は、マンション建替え円滑化法が使える。この法律を活用することで、第三者の抵当権などの権利変換の手続きが可能になるが、それ以外のマンションでは、この権利変換が使えない。

更地一括売却の事例はあるが、その多くは震災で全壊してしまったような場合だ。被災マンション法が適応され、建替えと同様の4/5で決議が可能にはなる。しかし、それでも、実際の建物の取り壊しに際し、取り壊し反対者などに専有部分に残した家具などの所有権を主張されてしまうと、解体もストップせざるを得なくなる。

困難さの軽減は、マンションのポテンシャルを把握することから

実は、3つの道すべてが至難の業なのである。とはいえ、少数ではあるが、それを成功させたマンションがあるのも事実だ。
高経年マンションではさまざまな問題が浮上する。高齢者になってからではマンションの将来に向けた議論はできなくなる。そうなる前に、建物の耐震性・建替えや取り壊しの費用・再建築時に確保できる建物の面積・土地売却した場合の価値・リノベーションを行う場合の費用や範囲など、マンションとしてのポテンシャルをしっかり把握し、早めに議論していくことが必要だ。

それが分かれば、何が可能で何が不可能なのか、また可能な範囲で最も幸せになれるために努力をしようという前向きな議論もコミュニティの中で進めることができる。今からの準備こそ、高経年マンションの将来の困難を少しでも軽減できるはずなのだ。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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