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2019.1.7

シリーズ 「もしもあなたが管理組合の役員になったら」〜5年目の困惑〜入居5年目の理事長が乗り越えるべき壁

長期修繕計画

理事会・総会

シリーズ 「もしもあなたが管理組合の役員になったら」〜5年目の困惑〜入居5年目の理事長が乗り越えるべき壁

マンションに入居して5年目。その時、あなたの子どもが幼稚園だったとしたら、もう小学校の高学年になっている。

マンションには我が子と同じ学校に通う子どもが多く、いつの間にか親同士も親しくなる。コミュニティもある程度でき上ってくるタイミングが、その5年目だ。

新築当時は、駐車場が埋まらず管理費会計が赤字になり、またアフター補修もなかなか進まず、輪番の最初にあたった当時の理事長さんは本当にご苦労の連続だったはず。その状態が2期・3期の理事長さんになっても変わらず苦労が続く。やっと4期あたりから落ち着いてはきたものの、その間に駐輪場対策や住民のマナー問題などがでてくる。そうして迎えた5期目に、輪番があなたに巡ってきたとしよう。多少の問題は浮かび上がったとはいえ、大きな問題はこの4年間でなんとか解決している。そんなあなたは「自分の番ではそんなに大きな問題もなく過ごせるだろう」と高を括る。そして互選でめでたく理事長のくじを引いたあなたは、予想通り“楽ができる”1年になるだろうか? 「5年目」という節目を検証してみる。

段階増額設定の長期修繕計画 5年目の課題

実は、5年目は長期修繕計画の見直しや積立金の改定のタイミングにあたる。
販売時に30年間の長期修繕計画を策定し、売主が修繕積立金や積立基金の額を決める。資金計画の立て方は概ね3つの種類がある。

①30年間増額なしで収支が合う「均等方式」
②5年ごとに積立金を30%などの値上げを前提とした「段階増額方式」
③5年や10年ごとに80万円など、一時金を徴収することを管理規約に定めた「一時金方式」

「一時金方式」を採用した売主もないではないが、後々、物議を醸す。おそらく、ほとんどが「段階増額方式」を採用していると思われる。本来なら「均等方式」こそ理想的ともいえるのだが、ほとんどお目にかかったことはない。

「あと千円、月額の支出が抑えられたら」――という、ギリギリでマイホームローン審査が通らなかった残念なケースもある。修繕積立金も支出のうちだ。「均等方式」ではダメだったが「段階増額方式」でローンが組め、マイホームを手に入れられることもある。将来の給与のアップに期待できるなら、一概に「段階増額方式」を悪者扱いする必要はない。問題は、5年目の修繕積立金の値上げをどのように進めていくかという5期目の理事長の悩みどころになる。

毎月1万円の修繕積立金30%アップして、1万3千円にするとなったら、マンションの住民からは、どんな反応が出てくるだろう。たった3千円なら、と思うかもしれないが、年間では3万6千円だ。期待通りに給与がアップしなかった人もいるだろう。なかなか簡単にはいかないのだ。

30%アップの根拠をどうやって説明するか

「当マンションの修繕積立金は、段階増額方式で5年ごとに30%増額させることで不足なく30年間の修繕費をまかなう計画になっております。よって、1万円から1万3千円に値上げいたします」という議案を掲げて、果たしてすんなり可決してもらえるものだろうか?
おそらく、第1段階では、「長期修繕計画ってなんだ」「修繕にそんなにお金がかかるのか」「積立金は何のために必要なのか」「誰が決めたんだ」「5年ごとに30%アップしたら30年目には一体いくらになるんだ」など、次から次へと疑問や抗議が噴出し、いわゆる“そもそも”論として、一から説明を行わなければならなくなる。

第2段階では、「新築時の5年も前に作った長期修繕計画ではないか、物価変動もあるし見直しはしたのか」「必要だという金額に根拠はあるのか、信憑性はあるのか?概算では話しにならないぞ!」「数量は竣工図面から拾ったのか?新築時だから設計図からだろう。数量に差が出ているのではないか?」「どんな修繕方法を想定し、補修単価の根拠はあるのか?」など、建築業界におられる区分所有者からは、そんな突っ込んだ指摘も飛び出してきそうだ。

そして、最後に出てくるのは、「修繕積立金の値上げは致し方ないとしても、管理費を抑えることや管理仕様の見直しなどが先決では?やるべきことをやってから値上げをすべきだ!」という正論。積立金を値上げしなくては将来の修繕費用がまかなえないのも事実だろうが、住民に負担を強いるならやるべきことをやってからだ、という論は説得力がある。

こんな長期修繕計画では説得できない

●図面からの数量が算出されておらず大まかな概数のみで示されている
●具体的な修繕方法が想定されておらず、補修費用の根拠を説明できない
●いくつかの工事項目が漏れてしまっている
●分譲当時の単価や消費税設定のままで、見直しがされていない
●すでに先送りした、または早めて実施した計画修繕を反映していない

こんな根拠を示せない長期修繕計画では、積立金の値上げを起案しても、話はかえって混乱してしまう。分譲時から5年も経過すれば、経済状況も大きく変わっている。例えば、2011年の東日本大震災を境に、仮設足場の費用は30%以上急騰し現在も高止まりだ。オリンピック景気もあり職人不足で工賃も上昇している。消費税だって10%の時代に突入するのだ。

増額しなくても済むように節約を想定するのも当然で、管理費の使われ方や委託費そのものに見直しを入れ始めるケースも多い。決して得策とは思えないが、5年目以降から1回目の大規模修繕工事の計画段階では、修繕積立金の確保だけのために、より安い管理会社へのリプレイスに動き出すことも多いものだ。

5期目の理事長であるあなたがやるべきこと

長期修繕計画の見直しや国土交通省のガイドラインに沿った長期修繕計画の作成提案を受けられればよいが、残念ながら、標準的な管理委託契約では、長期修繕計画の策定は含まれていない。
竣工図から面積や数量を拾い出し、工法や施工単価を想定し積み上げる地道な作業の人工は膨大だ。策定費用は、500戸規模の大型マンションなら、一般的には200万円を超えてしまう。しかし、先にあげた疑問のほぼすべてに応えうるものが完成する。まずは、長期修繕計画の策定の必要性をマンション住民に理解していただき、予算を総会で承認してもらうことが先決なのだ。
策定にはマンションの規模にもよるが、半年以上はかかってしまう。上がってきた長期修繕計画を読み込み、現実的には6期目以降に修繕積立金の値上げを総会にかける段取りになるのだろう。意外と長い道のりなのだが、5期に長期修繕計画とは何かを理解していただき、6期に修繕積立金値上げの必要性を理解してもらう、そんな2段構えの丁寧さが求められることになる。

また、期ごとにゼロからスタートする理事会ではなく、引継ぎや継続性が認識されはじめるのがこの頃でもある。5期の理事長を務めたあなたは、6期も理事を継続するか、長期修繕委員会を作って積立金値上げの活動を続けるかということになりそうだ。

どこに作成してもらうかは、数量を地道にちゃんと拾い出し、また最近の改修方法や単価実績などのデータをしっかり持っているところなら、管理会社でも設計会社でもどこでも良い。長期修繕計画を工事見積と勘違いし、より安い工事費で積算する会社を探そうという人もいるが、同じ数量で同じ単価で積算すればどこでもほぼ同じ数字になってしまう。実際の大規模修繕工事の実施設計段階で、コンペにて費用を絞り込むものであって、1回目の大規模修繕工事さえ終えていないこのタイミングでは、長期修繕計画の数字を低く抑えることを目標にしてはいけない。

管理組合の理事は楽しんだ方が得

引渡し1年目から次から次へと問題は発生する。住民からの要望や事故対応、行政や町会との調整事項など、その他を挙げればきりがない。1年間何事もなく役目を終えられる確率は少なそうだ。
あなたが輪番であろうと推薦であろうと、理事になった以上は、主体的にあなた自身が活動しなくてはかえって大変な思いとストレスを強いられるということ。
理事とは、前向きにとらえ、楽しみに変えるぐらいでちょうどよい役割なのかもしれない。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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