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2019.4.23

災害時の助け合いに「仲良し」は必要ない!?

コミュニティ

防犯・防災

災害時の助け合いに「仲良し」は必要ない!?

生後4ヶ月の赤ちゃん連れ親子と、小学生と一緒に避難

既に8年前になるにも関わらず、未体験の衝撃により、昨日のことのように思い出される「東日本大震災」。当時、日暮里にある「コレクティブハウスかんかん森」という多世代共同住宅に住んでいた私は、2011年3月11日当日、自宅の部屋で大きな揺れに遭遇した。

自分よりも背の高いクローゼットが倒れないように必死で押さえ、少し揺れが収まった所で部屋を飛び出すと、2軒先に住むお母さん・Aさんが生後4ヶ月の赤ちゃんを抱えて飛び出してきた。

「とにかく逃げましょう!」とコレクティブハウス前にある避難公園に、Aさん親子と一緒に逃げようとした瞬間、今度はお隣Bさんのお宅の小学生の男の子が、共用玄関からスキップしながら帰って来たのだ。「田口さん、なんか地震、凄くない?」という無邪気に笑う男の子。「いいから逃げるよ! 余震で家具の下敷きになるかもしれないから、部屋に入ったらダメ!」と、自宅に戻ろうとする彼の手を引っ張り、避難公園へ。そうこうするうちに居住者の多くが、避難公園に集まってきた。

緩やか繋がりの中で、家事や育児をコレクティブ

「コレクティブハウス」とは、1970年代に「日常生活の負担を軽くし、男女平等を促進し、子どもと親の両方にとって住みやすい居住形式」を目的としてスウェーデン・デンマークで始まった住まい方である。目的だけを聞くと、敷居が高そうに聞こえるかもしれないが、1K〜3LDKまでの「バス・トイレ・キッチンが完備された独立した居室」と、「コモンスペース」と呼ばれる「共用スペース」を持つマンション型住居に、単身者やファミリー等、属性や血縁に関わらず多世代が暮らすというもの。「共有スペース」には、コモンキッチン・コモンダイニング・木工ルーム・菜園テラスなども含まれている。

「コミュニティスペース付きマンション」との最大の違いは、自主管理・自主運営の原則のもと、「定例会」での問題解決や活動提案が実施されている点。特に「コモンミール」という住人が住人のために食事を作り合い、一緒に食卓を囲む場が1ヶ月に12〜13回ほどコモンキッチンで開催されているのが大きな違いだ。

このように、住民同士が顔見知りだけでなく、一緒に会議をして、コモンミールを作り合うような仲であったからこそ、被災時に役立ったことが幾つかあった。ということで、コミュニティ暮らしだったからこその防災メリットを整理してみよう。

「災害時に協力できる信頼関係」が、あらかじめあること

当時の「コレクティブハウスかんかん森」には、0〜88歳まで、大人約40名、子ども約10名の居住者が住んでいた。0歳児は一緒に逃げたから良かったとして、88歳の女性は大丈夫なのか?

結局、お隣さん同士で声を掛け合ったようで、こちらも安全確認が取れた。つまり「ひとつのコミュニティとして、入居メンバーが誰で、どこまで安全が確認できているのか?」「確認がとれていないのは誰なのか?」を瞬時に把握できたのは、コミュニティ暮らしの大きなメリットの1つだと思われる。

その際に役に立ったのは「居住者連絡先リスト」だ。これを共有し、居住者全員の名前と電話番号、メールアドレス、SNSアドレスくらいは、携帯電話に入っていたからこそ安否確認が容易だったといえる。

また、この時の教訓で、災害時には電話が通じないことから、すぐに安否確認ができるような「コミュニティグループ」を、SNS上に予め作っておくのも手だと感じた。

しかし「SNSコミュニティ」の落とし穴としては、例えばLINEで「仲良しグループ」を作っている人は多いけれど、「ご近所コミュニティ」をグループ化している人は、ほとんどいない。なぜなら、お隣さん自体が知らない人であることが多いからだ。

コミュニティで暮らすことにおける災害時のメリットは、例え日常時は「あんまり好きじゃないなぁ」「できれば関わりたくないなぁ」と思う人であっても、「災害時位は協力し合える信頼関係が予めある」ということに尽きる。好き嫌い、不平不満は、お互いに助かってから言えばよいことで、まずはお互いに助かることが先決なのだ。

つまるところ、自分の居室の「向こう三軒両隣」とは、「好きか嫌いか」「仲良しか否か」を超えて「災害時に協力できる信頼関係」を作っておくことこそが最大の防災といえる。「安否の確認ができない人」が「自分の子どもだったら?」と考えると、どんなに不安が大きいことか。もし、コミュニティ内の信頼できる他人が自分の子どもの安全を確保してくれるなら、個人情報シェアの不満も、好き嫌いの不満も、容易に乗り越えられるのではないだろうか。命以上に大切なものはないのだから。

普段はどうしても「好き嫌い」が先行してしまうが、そんなことを悠長に述べていられないのが災害だ。人間関係には「仲良し関係」だけでなく「仲は大してよくないけれども、共助の関係」もあり、災害時に役立つのは後者であるというのが、コミュニティで被災をした教訓でもあり、一番の恩恵でもあったと思う。

「恐怖心」を1人で抱えず「必要情報」「必要物資」を迅速に収集できること

東北での大惨事だけでなく、福島原発など未曾有の事態を前に、多くの不透明な情報が行き交い、多くの人が混乱に陥ったのが東日本大震災だったとも思われる。テレビをつけると、見たこともない大津波が東北の町を襲い、千葉のコンビナートは大火災となり、私自身の脳も大パニックを起こしていた。

居住者の安否確認が取れてから、コレクティブハウスでは、居住者の一人が自宅テレビを「コモンリビング」に移動してくれ、皆でテレビ画面を見入っては「次にどの対策をすればよいのか?」を話すことが増えた。とにかく、皆、誰かと何かを話さないと恐怖心が拭えなかったのだろう。

余震の度に、コモンリビングに飛び出すと、とりあえず同じことを考えて居住者数名がやってくる………ということもあって、「恐怖心を1人で抱えずに済んだ」というのは、一番の安心だったように思う。そしてこういう時に限って「普段、あんまり仲良くない人」ともしゃべり明かしてしまうものだ。

そして、当然ながらコミュニティ内で、あれこれ話す機会が多いのだから「必要情報」や「必要物資」の収集も圧倒的に速い。生後4ヶ月の赤ちゃんがいるお母さんは、親子で関西のご実家へすぐに帰省されたが、震災発生間もない頃、東京のスーパ−で「買い占め」が広がった際には、関西のご実家からコレクティブハウス居住者への支援物資を送ってくださった。

私自身が石巻への支援物資トラックに多くの物資を拠出できたのも、自分自身の「貰い」が多かったからに尽きる。「自分の必要物資がなくなってしまったら、誰かに頼もう」と思える「誰か」が多いことは、自分以外の誰かに何かを提供できる最大の心の余裕の源であるからだ。

自分一人では抱えきれない恐怖心を分かち合い、自分一人では集められない「必要情報」「必要物資」を集められる―─これもコミュニティならでは恩恵であった。

自分なりの「ご近所防災コミュニティ」を作るには?

このようなことを書くと「コレクティブハウスに住めない人はどうすればよいのか?」という声が必ず挙がるが、「コミュニティ」というものが予め存在していないのであれば、自分で作ってはどうだろう。

実は今、コレクティブハウスを卒業して一人暮らしをしている。我が家は住居数が12戸と少ないマンションのため、入居時に全員に挨拶をしに行き、「困った時にはご相談させてください」とお願いをした。

やはり基本は「向こう三軒両隣」の人間関係であることは変わりない。「災害時に、自分の身や家族の安全は、人間一人の能力では到底守れない」と、さっさと諦めて「自分なりの防災コミュニティ」を作ることが先決のように思う。

次回以降は「そうはいっても、女性の一人暮らしで、近所挨拶なんて逆に危ない」という方に向けて、「自己開示こそ最大の自己防衛であること」を書いてみたいと思う。開示する内容と手順を間違わなければ、仲良くはなれなくても、災害時くらいは協力できるような人間関係は生まれるように思う。要するに「自分が守られたい防災のイメージ」を持つことが重要なのかもしれない。

この記事の執筆者

田口 歩

ビジネスモデル・デザイナー®。(株)ベネッセコーポレーションでの編集業務、オルビス(株)での、マーケティング、広報、上場準備業務を経て独立。コレクティブハウスでの居住経験を元に、多世代型シェアオフィスを企画運営。現在は、オランダにて、メーカー社外広報、起業家支援コンサルティング、移住相談を実施。

田口 歩

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