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2019.9.5

管理会社社員、株主総会へゆく。

理事会・総会

管理会社社員、株主総会へゆく。

皆さんは「総会」に出席したことがあるだろうか。このコラムを読んでおられる皆さんであれば、総会と聞けば真っ先に「管理組合の総会」を連想するだろう。

とはいえ、世間一般的には「株主総会」を思い浮かべる人が多いはずだ。かくいう私は、勉強半分、興味半分で年に数回、株主総会に足を運ぶ。

いずれにしても、両者共、同じ「総会」という名称で呼ばれている。

ちなみに私が株主総会に興味を持ったのは、かつて担当していた管理組合の理事長との出会いがきっかけだ。その理事長は、勤め先の上場企業にて株主総会の準備を担っておられた。

管理組合の年に1回の総会は理事長が招集する。管理会社は総会支援業務を行う。標準管理委託契約書を例にとると、管理会社の総会支援業務は、総会開催日程等の調整、次年度の事業計画案の作成、会場の手配、招集通知および議案書の配付、出欠の集計など多岐に渡るが、議長としての当日の進行は理事長が行う。

その理事長の総会進行は見事だった。滞りのない時間配分、事前に寄せられた質問への回答を交えた議案の説明、当日の質問への切り返しやその場での判断などなど。その裏には念入りな事前準備があった。

理事長からの総会議案に関する質問とそれに対する私からの回答メールの往復は、連日にわたっていた。総会当日の朝には理事長指揮のもと、会の全体の流れを全役員と確認し、想定問答を行った。その甲斐あって、総会は白熱した議論の場となったが、予定時刻内にすべての議案を終え無事に閉会となった。

この経験こそが、私を株主総会に向かわせるようになったきっかけだ。同じ「総会」を扱う者として、あの進行の秘訣に迫りたくなったのだ。

余談ではあるが、管理会社で管理組合を担当する仕事の醍醐味は、さまざまな職業や経験を持った方と一緒に「事業」を遂行できることだと思っている。最も接点が多いのは理事長である。

管理組合運営という一つの事業を遂行される理事長を、黒衣(くろご)のような距離感で支援するのが私たち管理会社担当者の業務。総会だけに限らず、理事会支援業務の過程においても、勉強になることがたくさんある。それは、管理組合運営とは畑違いのご職業の方であっても、リタイアされている人生の大先輩であっても、主婦をされている方であっても同様だ。

例えば、主婦の方が理事長になられた場合は、昼間のマンション内の様子をよくご存知で地に足がついたアイディアを出されたり、さらにはマンション内のコミュニティネットワークを生かして理事会の考えを啓蒙してくださったり、それらのアプローチの仕方に脱帽したことがある。十人十色な理事長と同じ方向を向いて事業を進める、この経験での発見は管理会社の私に充実感を与えてくれる。

さて、株主総会訪問。今回お邪魔したのは、決算期は3桁に及ぶ伝統あるメーカーの株主総会だ。冒頭で取締役社長が議長に就任し、挨拶に始まり、監査報告、事業報告・決算書類の説明と、この辺りは管理組合総会と同じだ。異なるのは、「管理規約」ではなく「定款」に従いといわれる点くらいだ。

事業報告の説明は、数百人が収容できる大きなホールの前方2箇所に設置された大型画面の映像に合わせて、議長がスラスラと原稿を読み上げていく。百聞は一見にしかずとは良くいったもので、事前に読んだ総会通知の文字だけの説明の何倍も分かり易かった。管理組合の総会も、映像ツールが普及すれば、震災訓練などのイベントの様子や、大規模修繕工事の検討経緯など、映像を使った総会運営をする日はそう遠くはないだろう。

総会進行とは離れるが、議長からの一連の事業報告を聞く中で、私自身メモをしたことといえば、主に以下の3点だ。1点目は、積極的なIT化と設備投資を行い生産性の向上を図ったということ。どの企業においても、人よりもテクノロジーの方が優れているものは、今後ますます仕事が取って代わられると実感する。

2点目は、「健康」をテーマにした商品の開発を行っているということ。老舗のメーカーであるから誰もが知る看板商品があるが、そのロングヒットに甘えずに、日々研鑽を続けている姿勢が感じ取れた。また、何気なく店舗で目にしていた商品が顧客の「健康」ニーズに応えたものだったと知り、合点がいった。

最後に、働き方改革の実践を報告していた点。これはこのメーカー以外にも、株主総会の招集通知に数値目標とその結果を載せている企業は複数見受けられる。これも時代の変化に乗り遅れていないところが垣間見える。

複数用意されていた議案の説明が続けて行われ、その後の一時間半近くは、株主からの質疑応答の時間。そこで私は、あの理事長に負けずとも劣らない議長の臨機応変さを目撃することになる。もちろん、一企業の株主総会であるから想定問答は念入りに準備されているに違いない。それを加味したとしても、株主の熱のこもった意見や手厳しい質問に真摯に回答する議長の姿に、私は感服してしまったのだ。

挙手をして議長から指名された株主は、ひとり2問までの質問が可能だ。会では合計8名ほどが順番に指名された。マイクが手に渡ると、受付番号と氏名を伝え、質問を行う。中にはつい長くお話しされてしまう株主もおられたが、議長は丁寧にうなずきながらメモを取り、質問の後には、アナウンサー並みのソフトな口調で、まずは質問・意見の要約を会場の参加者に伝える。その後に、間髪入れずに滑らかに回答を述べ始める。中には、企業として断言しかねる内容もあったが、それについては個人的な意見という前置きも忘れずに、言葉を選びながらも確実に答えていた。その所作の一つ一つから、企業のトップとしての誇りと誠実さが伝わってきた。

途中、女性の活躍についての質問が出た。企業内での女性管理職の割合を問う株主がいたのだ。私の席からは議長の後方に座る、サポート部隊の動きがよく見えた。複数台のパソコンを並べており、素早く手が動いていた。議長とは阿吽の呼吸で、議長が質問・意見の要約をしている間に、後方の一名がさっとメモ用紙を渡す姿が見えた。その用紙を見ながら、議長は「2月末時点の数値ですが、●.●●%です」と回答を口にした。その隙のない一連の対応に、私は勝手ながら総会の黒衣としての共感を覚えたのだった。



ここで私の頭の中は、目の前の株主総会を管理組合の総会へと勝手に変換し、妄想を始めていた。

組合員:先ほどの決算報告で未収金の滞納者が1名いるとの説明でしたが、理事会としてどういった対応をしたのですか。

理事長(議長):はい、議案書10ページにある貸借対照表およびその次ページの財産目録に記載のある未収金へのご質問ですね。今期理事会ではこの長期滞納の件を深刻に考え、毎月の支払状況を理事会の場で確認しながら、管理会社の協力を得て、駐車場解約の通知や理事長名での内容証明郵便の発送を行いました。それにより一度振込はありましたが、また翌月から滞ってしまったため、再度理事会で話し合いを行い、その対象者に理事会へ出席のうえ支払計画を提出するよう依頼しました。最終的には、理事会の場で対象者と話ができ、それ以降2ケ月分ずつの支払が計画通り行われております。

組合員:そうですか、支払完了はいつの予定ですか?

理事長(議長):3月から2ケ月分ずつ支払を進めておりますので、7月で完了の予定です。

このやりとりを聞きながら、黒衣の私は後方から、議長である理事長にさっとメモ用紙を指しだす。理事長はそのメモを見て、こう続ける。

理事長(議長):今月の引落結果においても、2ケ月分の引落ができたことを確認しております。議案書の決算書類は当管理組合の決算月末時点の金額であり、今月現在の未収金は53,000円です。本件については次期理事会へも経過観察の課題として申し送りをする予定です。

組合員:わかりました。引き続き、対応をお願いしたいです。

理事長(議長):他にご質問はございますか?

質問をした組合員の納得した表情と、理事長が落ち着いた様子で進行を続ける姿に、ほっと胸をなでおろす私。そして、次の質問は何だろうと見守るーー。

こうして管理組合の総会を妄想しているうちに、目の前の株主総会は本日の議決権行使数の発表へと進んでいた。決議は会場の拍手によるもので、全議案が承認された。そして閉会の挨拶にて議長である取締役社長がマイクの前で深々とお辞儀をする姿を見て、私は精一杯の拍手を送った。このときにはすっかりその企業に愛着が湧いてしまっていた。企業の取り組みや想い、努力を知ることで、グッと身近な存在となったのだ。


管理組合の総会もそういう場であって欲しいと願う。そして私は、これからも管理組合の総会を懸命にサポートする黒衣のひとりでありたいものだ。

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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