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2020.7.1

「こだわりのルール」こそ、自主管理の障害

管理委託

理事会・総会

「こだわりのルール」こそ、自主管理の障害

かれこれ何十年と管理組合が自主管理を続けていると、管理に関わってきた人たちの想いが「こだわりのルール」となって定着し、脈々と受け継がれている事例がよくある。
高齢化が進み、自分たちで管理業務を行うことがつらくなってきたマンションでは、次第に管理会社に委託しようとする動きも出てくる。だが、この「こだわりのルール」が大きな障害になってしまうことがしばしばある。自治会活動やコミュニティ活動ならマンションの住人で完結できるが、いざ管理業務を管理会社に委託しようとするといままでこだわってきた事柄のすべてを踏襲してやってもらうことは、難しい。そんな具体例を紹介していこう。

管理会社への委託=「委ねる」こと

よくある「こだわりのルール」の中でも、特に「会計」に関することが多い。収支計算書、貸借対照表、その他会計資料など、今まで通りの表記の仕方で作成して欲しいといわれることがある。理事会役員にとっては、それほど難しいことを求めているつもりはないのだが、管理会社からすると受け入れ難い場合がある。
というのも、零細な規模の管理会社は別として、一般的には数千万単位の開発費をかけたシステムで会計処理を行っている。システムへの入力や帳票類の出力は、ほとんど定型化されているため変えることができない。そんな事情でそれぞれの管理組合の要望にあわせて帳票類を修正することは難しいのだ。仮に対応するとしたら、システムを使わず今まで自主管理でやっていたように、エクセルを用いて人が処理をするか、システムから出力した帳票類を管理組合指定の書式に手打ちで入力するしか方法がないのだ。

手間が増えることはもちろんだが、人の手が介在することでヒューマンエラーが生じる可能性が高くなる。このエラーリスクが高くなる要望に対して、管理会社としては業務委託をお断りするのが賢明ということになる。なぜなら、「なんで管理会社の都合に合わせなきゃいけないんだ」「こっちは客だ!客の言うことが聞けない管理会社なんてもってのほかだ」といったクレームに発展しかねないからだ。

融通が利かないという苛立ちもわからないでもないが、この手の要望は的外れな場合も多い。事実、誤った考えに基づいた要求や会計基準に準拠していないケースも多々ある。また、こだわっているルールが実はあまり意味がなかったこともある。発注者である管理組合が管理会社の書式に慣れる必要もあるだろうが、法令や規程を遵守し、それなりに配慮されたものと理解して、むしろ管理会社に委託したタイミングで積極的に受け入れていってはどうだろう。
管理会社に委託するということは、これまで自主管理でそれぞれの流儀で実施していたやり方を「管理会社のやり方に委ねる」ことに他ならない。もちろん、勘違いして欲しくないのは、あくまでも業務要領の話であって「本来の主体性や自主性さえも捨てよ」といっているのではない。

最近の管理会社の事情も知っておくべき

確かに少し前なら、「こだわりのルール」を受け入れて受託してくれた管理会社もあったことだろう。しかし、今は違う。その頃とは、いささか事情が異なっている。
適正化法などに縛られたことなども一つの要因だが、管理会社は今、人手不足の時代だ。長期間管理させていただいたマンションさえも、「管理の打ち切り」を申し出るようなシビアな話しもある。その情勢を知らずして、無理なこだわりを押し通そうとすれば、たちまちに「契約できない」と管理会社からお断わりされてしまうのがオチだ。
骨の折れることかもしれないが、「管理会社の仕組みやルールに合わせること」を前提として、管理組合内部の合意形成を進めていかなければならないのだ。

「お任せする」という意識

管理会社に管理を委託することで、理事会役員の負担が激減することは間違いない。ある自主管理マンションで役員が担当していた業務を書き出し、そのうちどれだけの業務を管理会社に移管できるか確認してみた。結果は、93.5%の業務項目を移管できることがわかった。マンションの住人にとっては、週1回の階段清掃や夏場の草むしりから解放されて楽になったと思われる程度かもしれないが、役員の場合はその比ではない。
日常的な管理業務であれば、役員がいちいち指示しなくても管理委託契約に基づいて粛々と実行される。役員は管理会社が行った業務を報告書などで確認するだけ済む。日頃の実務に忙殺されるのではなく、今までこなして来た自主管理の自主性や積極性をもっと重要な課題、例えばマンションの将来の議論を行う余裕も十分に出てくるのだろう。もちろん役員が高齢化しているなら、なおのこと、やっていける体制ともいえるのだ。
もちろん管理会社との信頼関係は大切だ。管理組合の想いとニーズを十分に理解し、誠実に対応してくれる管理会社をどう選ぶかも重要になるが、それさえ間違えなければ主体性や自主性を確保したまま、高齢化の不安や忙殺される業務量から解放されることになる。

すべてを「自分たちでやる」という覚悟が持てるか

役員を買って出てくれている一部の住人の「責任感」や「好意」に甘えて、自分たちは何もせずに「自主管理から管理会社に委託するのは許せない」と批判に回る人も見かける。また、「これまで自分たちで管理してきたのだから、管理会社のやり方を認めない」という人も出てくる。自主管理を続けることが限界にきている現状をしっかりと受け止めて「管理会社に任せる」のだと意識を変えなければ、何も前に進まない。
それがどうしても嫌だというなら、限界まで自主管理を続けるしかない。そんな覚悟を持てるならまだ良いのだが、「いざとなったら管理会社に」という発想は危険だ。管理会社が、引き受けてくれない可能性の方が高いからだ。
最近では「自主管理のマンション」というだけで、高経年のものが多いことが予測でき、管理会社から敬遠されやすい。「建物」と「住人」がともに高齢化していればいるほど、管理会社としてはさまざまなリスクを抱えることになるからだ。当然のことながらビジネスとして成立しなければ、管理は出来ない、やらないのだ。

自主管理よ、さらば!一歩踏み出す勇気

マンションの耐用年数を「60年、70年ぐらいかな」と漠然と思っている人も多いのではないかと思う。マンションの寿命が尽きる時とは、人が住まなくなり住宅としての存在意義を失った時だ。いくら古くなっても、次世代に引き継がれ、空き家になることなく、区分所有者が管理費、修繕積立金をしっかり払い続ける。
それを原資に修繕や運営ができていれば、マンションは住まいとして存続し続けることになる。そのためには次世代につなげられる、是非住んでみたいと思える魅力や価値があるマンションであり続けることが大切だ。

自主管理か管理会社への委託かは、単に手段であり、目的は魅力や価値があるマンションであり続けることだろう。経年や環境変化の中で事情も変わってくる。例えば高経年マンションでは、理事会役員の負担が軽減され、住人が安心、安全、快適に生活できることだとするなら、管理会社への委託は現実的な選択かもしれない。

「目的」と「手段」を取り違えることなく、先を見据えて一歩踏み出す勇気も必要ではないだろうか。どちらを選択するかはもちろん管理組合の自由だが、個人的にはこだわりを捨てて「お任せする」という「覚悟」、いや「勇気」を持って欲しいのだ。

この記事の執筆者

宮﨑 栄治

マンション管理士。大和ライフネクストにて、管理組合の担当として運営補助業務などを担当後、マンション管理業協会出向。高経年マンション問題などの研究を行う。現在は、経験や知見を活かしセミナー講師や管理組合の相談窓口を行う。

宮﨑 栄治

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