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2019.12.21

「タワーマンション」、管理運営上の課題とは

組合運営のヒント

「タワーマンション」、管理運営上の課題とは

すべてのタワーマンションとはいわないものの、駅前や地域の再開発の中核建造物として位置づけられて建てられたものも少なくはない。
敷地内に広い公開空地が設けられ、地域全体に緑や憩いの場を提供する。また商業施設も組み込まれた複合用途型はさらに利便性が高く、再開発エリア全体のボトムアップの恩恵を一身に受け、近接する既設マンションに段違いの風格を見せつける。
プールやジム、パーティールームなどの共用施設、ホテルのようなサービス、窓の向こうに広がる眺望など、摩天楼へのあこがれと期待が価格を押し上げ、相続対策やインバウンド投資の対象にさえなっている。

さて、この人気のタワーマンションに“リスク”はないのだろうか?
引き渡された後は、ホテルライクな日々が待っているとはいえ、宿泊者のようにコンシェルジュにすべてを任せるわけにはいかない。資産価値の維持という難しい経営は、区分所有者が主体になって行うことになる。タワーマンションにおける管理組合運営の課題を探ってみよう。

購入目的の違いという多様性ーーその意味は!?

まず、外的要因を整理しておこう。
今後、タワーマンションは大量供給時代に突入する。首都圏におけるタワーマンションの供給は、2007年の2万戸弱をピークにその後は減少傾向。近年は8千戸程度で停滞してきた。

ところが、東京オリンピック開催の翌年にあたる2021年には、今までの4・5年分に当たる3万6千戸が供給される予定だという。オリンピック後の経済情勢がどうなるかは何ともいえないが、新築の大量供給で、既設のタワーマンションの希少価値が薄まるのは必至だろう。

また、新築の販売価格も気になるところだ。
安値に転じたら中古価格も引きずられてしまうのは確実。永住する前提で購入した人にとっては、安心・安全、そして快適な住みやすさの方が大切で、中古相場の上がり下がりは気にはならないとは思う。しかし、自分で住むにしても将来の転売益を期待し買替えを前提としている人、国内・海外を問わず投資や相続対策を目的とし賃貸で回す外部区分所有者も多く購入している。この決定的に異なる購入目的の混在、タワーマンションは所有者自身の多様性が高いといえる。結果、管理運営においても価値観の違いが生まれやすい。端的にいえば、積立金の改定や工事の実施、高コスト高サービスの見直しなどの際の合意形成が難しくなる可能性が高いということだ。

また、規模の問題もある。一般的な分譲マンションの1棟あたりの平均戸数は50戸程度(マンション管理業協会調べ)、タワーマンションの平均戸数は6倍の約300戸と大規模が多いという点だ。

タワーマンションの最大のリスクは、「コスト」

スプリンクラーや高速エレベーターなど、一般的なマンションにはない特殊な設備も多いのが、タワーマンション。ハード面のメンテナンス費用は当然、割高となる。

また、高サービスを維持するためのコストもかかる。とあるタワーマンションのコーヒーサービスでは、一杯300円程度を利用者が支払うが、サービスを提供するための人件費は管理費から年間700万円ほど支払われていた。街中にあるカフェとは異なり、マンション内だけの提供では、一杯300円では採算が取れない。焼き立てパンやミニコンビニエンスストアも同様に、人件費分などを管理組合が別途事業者に支払っているケースがほとんどだ。

売主が分譲時に設定したサービスであり、このサービスがあるから購入したという人も少なからずおり、マンションの価値やステータスにつながると考える人もいる。もちろん、利用者負担を原則にするなら、利用する人だけで年間700万円を負担してくれという意見も出てくる。300世帯として年間700万円は、戸あたり約2,000円/月の負担になる。さて、このマンションでその賛否が問われるのはこれからだ。どのような議論に発展していくのだろうか?

価値観や購入目的の違いが、決議に影響

マンションは、定期的に足場を上げて外壁や防水などの修繕工事を行う必要がある。それが「大規模修繕工事」というもの。
問題は、高層であるために、足場ではなくゴンドラなどを使用した工事が必要になるということだ。このゴンドラ足場はどうしても経費がかかってしまい、工事でもコストが跳ね上がりやすい。

タイル張りの建物の場合、10年周期で全面打診調査が義務付けられている。タイルの落下が重大な事故につながるのはまずい。概ね10年ごとに足場を上げて打診調査をするとなると、大規模修繕工事の間隔を少しでも広げ工事費用を調整することもできなくなってしまう。

一方で、新築で分譲された際、これらの工事のための積立金の額を極端に低く抑えて供給されているものも散見される。たとえば、積立金が平米当たり100円程度というマンションもある。少し広め90m²のお部屋でも9千円/月に過ぎない。当然、将来的に積立金は大幅に不足してしまう。極端な段階増額方式で5年ごとに50%アップの積立金改定や10年ごとに100万円の一時金を設定しているケースもある。確かにそれで帳尻は合うのかもしれないが、改定にしても、一時金の徴収にしても、その時の管理組合の総会で決議されることになる。

住まいとして考えている人にとっては、将来の不安よりも、潤沢な資金を望むケースも多いとは思うが、投資などどこかのタイミングで売却を考えている人にとっては、経費のアップは、実質利回りの低下にも直結し転売金額にも影響する。価値観の違い・購入目的の違いが、大切な決議に影響しやすいということになりかねない。

多様性と絶対数の大きさゆえの難しさを乗り越え、適切な管理マネージメントがなされること。投資であれ永住志向であれ、マンションの価値を高めるとは何かを突詰めることが大切になる。
このことに気付き行動していくことが、タワーマンションのリスクを回避する一歩なのだろう。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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