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2019.12.19

どうする? 管理組合の個人情報保護

マンションの法制度

どうする? 管理組合の個人情報保護

管理組合も、例外ではない。
個人情報保護法(以下、保護法という)が改正され、管理組合もその対象になった。今までは、5千人分以下の名簿などを扱う事業者は、この法律の対象外であったが、この5千人の枠が取り払われた。よって、管理組合も遵守する義務が生じたのだ。
さて、どうするか。
法律の理解不足から必要以上に「これって大丈夫だろうか」などと萎縮して、当たり前にやらなければいけないことにブレーキをかけてしまうなど、保護法が運営上の足枷になってしまったケースなどはないだろうか?

個人情報保護法の本当の目的は「個人情報の活用」

あなたの知らないところで、住所や電話番号、生年月日や家族構成、はたまた年収や資産などが漏れていたとしたら……。

ネットでカード情報を入力するだけで、高額な買い物も気軽にできるような便利な時代がゆえに、打ち込んだ個人情報が漏洩していたとしたら怖い話だ。
気軽に引き受けたアンケート、景品目当ての応募、ポイントカード作成。個人情報を開示するタイミングはいくらでもある。不測のトラブルを未然に防ぎ、あなたを守るための個人情報保護法だが、守るだけではなく「活用する」ためでもあるという話をしよう。

改正後、個人データの安全管理規定を管理規約や細則に反映させた管理組合もある。一方で防災のための要支援者名簿の作成を中止してしまったケースもあると聞く。個人情報を持たないことが安全と考えてしまうのもわからないではないが、果たしてその対応で良いのだろうか。保護法には、生命や財産に関わる適用除外が規定されている。せっかくの防災への取り組みの機運をつぶしては意味がない。

そもそも保護法は、新たな産業の創出や活力ある経済社会の実現のために個人情報を適正に活用しようというのが立法目的。そのために個人情報の活用に一定のルールを定めたものだ。(保護法第1条) 保護法は、欧米等の国々が国際経済を協議する国際機関であるOECDが1980年に定めた個人情報の収集制限・利用制限・安全保護などの原則に準拠して、日本はそれに遅れること20年を経て2003年に制定された。グローバル化の流れに沿って定められた法律だ。

経済活動と個人情報の関係はぴんと来ないかもしれないが、いくつか紹介しておこう。
金融機関でお金を借りる申し込みをする。窓口では、指定信用情報機関に登録されている情報を名寄せし、この人は借り過ぎだから貸さないとか、店頭で簡単に審査を行える。不良債権を作らないためということもあるが、借り過ぎてローンで首が回らなくなるような事態ならないためのものだ。指定信用機関に情報開示する承諾をした覚えはないはずだが、金融機関のカウンターの向こう側では、そんな仕組みが動いている。

交通機関も多くの人がSUICAやICOCAなどのカードで乗り降りする。また今後、車もAIを搭載し自動運転が当たり前な時代になるだろう。いつ、どこに行ってどんなことをしたのか、そんな情報を瞬時に吸い上げ、マーケティングに活用される時代がやってくる。匿名情報とはいえ、保護法の規定に基づき運営されていくことになる。

個人情報の利用目的に必要な“範囲”とは

さて、管理組合の運営ではどうだろう。いくつかの切り口で整理してみる。
理事長は、組合員や利害関係人が書面で請求した場合、組合員名簿などの個人情報を閲覧させる義務がある。(標準管理規約第64条)これは、保護法と相反していないかと、いくつか質問をもらったこともある。結論からいえば、第64条は、保護法第15条の利用目的をあらかじめ公表していることになるので問題はない。
むしろ、利用目的に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないという保護法第16条との兼ね合いの方だ。いくつか判例を見てみよう。

1.管理組合の総会の招集権は管理者である理事長となる。そのほかには、一般の組合員でも区分所有者かつ議決権の1/5以上の賛同を集めれば総会を開催できるのだが、名簿がなくては賛同を集めるにも難しい。理事長の利益相反行為について、臨時総会を招集するために当該理事長に名簿を請求した事件(大阪高裁H28.12.9)。

2.役員選任の方法を組合員相互で意見交換をする目的で請求した事件(東京地裁H21.3.23)。

3.管理規約改正の意見送付の目的で請求した事件(福岡地裁H20.12.11)。
いずれも、管理組合内部の対立の中での利用目的の範囲の解釈となる。

理事長の利益相反行為を臨時総会にかけるケースは、利用目的に必要な範囲だろうが、一方で「自分は不正行為をしていない。ありもしないことで個人情報を開示はしないし、自分の名誉を傷つけられたので、刑法第230条の名誉毀損罪で告訴する」など、話はエスカレートしてしまいそうだ。

管理費滞納者の氏名公表は、可能? 不可能?

滞納者の氏名公表が、プライバシー侵害の提訴に至ったケースもある(大阪簡易H22・3・24)。
この事件では、長期滞納者の氏名公表基準を総会で可決させ、その後に確信的滞納者に公表の事前告知などを行ったが、本人からは支払い計画書の提出がなく1年が経過。翌年の総会で氏名を公表したケース。

この裁判では、経緯や手続きにおいて管理組合側の不法行為にはならないとなったが、裏返しでいえば、理事会が氏名公表基準を定めず、支払い計画書の提出まで十分な猶予を与えず公表したとしたら、管理組合側の不法行為とされる可能性もあるということだ。いや、仮に同様な手続きを取って訴訟に勝っても、煩わしさを抱え込むことは、管理組合にとって果たしていいのだろうか?ということだ。

もちろん、管理組合会計の基本は、情報開示と透明性の確保。区分所有者なら誰でも詳細を知る権利はあるようにも思える。一方で、個人情報だけでなく、プライバシー侵害や名誉棄損など、さまざまな兼ね合いをどう考えるかは、大変難しいのだ。
管理組合運営においては、より確かなバランス感覚がもとめられることは確かなのだ。

保護法改正後、何の対策もしていない管理組合も多いと思うが、個人データの安全管理規定を管理規約や細則に反映させるために検討を行うことが、全体をおさらいすることとなり、より確かなバランス感覚を養うことになるのかもしれない。まだという管理組合は、個人データの安全管理規定作りを今後のタスクとして挙げておいても良いのかもしれない。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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