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2019.12.27

北海道全域停電となった「北海道胆振東部地震」 大地震の本当の怖さ

防犯・防災

北海道全域停電となった「北海道胆振東部地震」 大地震の本当の怖さ

2018年9月6日3時7分59秒。
北海道胆振地方を中心とするマグニチュード6.7、最大震度7の大地震が襲った。
これにより、至る所で大規模な山崩れが発生し多くの人が犠牲となった。また、震源地から60kmほども離れているというのに、札幌清田区をはじめとする広範囲で液状化現象が発生。多くの家が、生活ができないほどに大きく傾いた。

この地震の影響で、北海道電力の苫小牧発電所(火力発電所)がストップ。被害は北海道全域が停電に陥るほどの事態となり、ブラックアウト状態が数日間も続いてしまった。

「北海道胆振東部地震」は、2年前に発生した「熊本地震」と同じ内陸型地震だった。それぞれマグニチュード6.5程度であり、「東日本大震災」の9.0と比較するとはるかに小さい。しかし、直下地震の怖さは、地震の規模であるマグニチュードに関わらず、揺れは震度7に達してしまうことだ。今回のように発電所が直撃を受けてしまうと、送電網全域で他の発電所も巻き込み大停電が発生すると、あらためて証明されたのだ。

震災後、私は札幌のNPO団体から「マンションの震災対策」をテーマとしたセミナー講演の依頼をいただいた。札幌は、昔から地震や台風など自然災害が少ない都市。震度5弱以上の揺れや長期間の停電など経験したことがなかった。マンションの建物被害は軽微とはいえ、市内で約8,000台のエレベータが停止し、数日間電気のない生活を強いられたことはショックだったことだろう。その想いから、防災についてしっかり学びたいという声が多く寄せられ、セミナー会場は立ち見が出るほど。北海道新聞やテレビ局の取材も入った。ブラックアウトに至った経緯や仕組みは、専門家たちがニュースで何度も解説しているので、私は防災で最も大切な「被害想定」の切り口から、大停電の問題を深掘りしてみた。

今回、唯一救われたのは、北海道のもっとも穏やかな季節に発生した震災だったということ。北海道は1年のうち約半分が雪や氷に閉ざされる。道内では、12月から2月あたりの極寒期は、毎朝氷点下10度を軽く超え、昼間でも0度を超えない真冬日が続く。昔はどの住宅も石炭を使って暖を取ったものだ。着火剤や薪に火を点け、炎の勢いが良くなったところに石炭をくべる。うまく焚きつけるにもコツが必要で、ストーブに付いている窓を開けたり閉じたりして空気量で火力の調整をする。焚きつけから火力の調整まで、すべて人力。屋根に煙突があり、石炭ストーブからの煙が立ち上っていた。まだまだ、マンションが一般的でない時代の話だ。 マンションが札幌市内に建設され始めたのは、札幌オリンピックが開催された頃。エネルギーセンターで作られる熱水を地域に供給し、マンション内の各住戸はそのお湯を利用したスチームパネルで暖を取っていた。真駒内(まこまない)にはオリンピックの選手村が建てられ、そのまま「五輪団地」としてマンション分譲された。この五輪団地こそ地域暖房を使った先駆けだ。

しかし今は、札幌のマンションの暖房の主力はFF式の石油ストーブ。FF式とは、吸排気ファンで燃焼に必要な空気を屋外から取り入れ、燃焼ガスを再び外に出す仕組み。これなら部屋の空気を汚さず、一酸化炭素中毒の心配もない。点火はスイッチ一つ、火力の調整もワンタッチだ。マンションには共用の石油タンクがあり、各住戸に灯油をポンプで配給する。もちろんそれ以外の暖房システムもあるが、北海道以外の地域では、エアコンや電気ストーブ、電気コタツが主流だろうが、北海道は石油ストーブの火力なしには、マンションでも寒すぎるのだ。

セミナーの中で、停電になり一番困ったことはなにかと聞いてみると、「エレベータの停止」「断水」「真っ暗闇でのランタン生活」など、いろいろな話が出た。話題を変えて、仮に真冬に停電が続いたらどうなるかを問うて初めて「防寒」の問題に気付き、はっとされる方が多かったのも事実だ。

寒さは着込めば何とかなるともいわれるが、仮に停電が3〜4日続いてしまったら、気密性の高いコンクリートのマンションといっても外気温に近づく。マンションでは自宅避難が基本だが、寒さの中では低体温症や肺炎、最悪、凍死にも至る可能性もある。道内全域にもたらされた今回の大停電、もし真冬だったらマンションと比較して気密性の低い古い戸建てでは、もっと多くの人的被害が広がっていたかもしれないのだ。

実は、平時でも凍死による死亡は多い。その数は、自宅での熱中症死亡数と比べると1.5倍にもなる。最近では毎年1千人を超え、東京や西日本でも凍死事故は毎年発生している。山での遭難よりもはるかに、自宅で凍死するケースが多いのだ。

セミナーでは、札幌市が発表している地震の被害想定についても簡単に触れた。それは「月寒断層地震」と呼ばれ、マグネチュード7.3、最大震度7が札幌市の直下で発生する可能性があるというもの。札幌市の被害想定では、冬季の朝5時に発災した場合、死亡者数は13,000人に及ぶとしている。

表 首都直下地震との比較

首都直下地震での死亡者数は23,000人と想定されているが、札幌の人口は首都圏の4.5%に過ぎない。つまり、死亡者数の比率でいうと首都圏の半分以上、人口に対しての死亡者数の比率では12.5倍ということになる。この算出方法だが、発災直後の停電率を18%、復旧により2時間後には6.2%、1日後には2.5%とした前提で、救出にかかる時間帯別に13,000人のうち1万人近くが凍死すると割り出している。

表 戸建てが倒壊し救出するまでの間に凍死する「震災直接死」の推移

衝撃なのは、この数字が主に戸建てが倒壊し救出するまでの間に凍死する「震災直接死」の人数だということだ。参考までに熊本地震の直接死は50名、そして震災関連死は200名超である。札幌市で起きる大地震が再びブラックアウトを引き起こしたとすれば、被災生活期に暖を取れずに凍死する震災関連死の数はどれだけにのぼるのだろう。

いずれにしろ、寒冷地である札幌では、数日の間、暖を取れない状況を想定し対策を立てることが必須となる。マンションでの自宅避難時の暖の取り方としての提案だが、

・カセットコンロで外に積もる雪をお湯にして湯たんぽで暖を取る
・乾電池式のポータブル石油ストーブを用意しておく(ただし、気密性の高いマンションでの換気や灯油を自宅用で保管すること、また灯油の使用期限の管理も必要になる)

ベストな方法かどうかは検証中だが、他にいい案があればぜひお教え願いたい。

さて、震災マニュアルの作成は、地震の規模や時間帯、季節・気候など発災時の条件を定めた上で、マンションの3つの特性から被害を想定することからのスタートになる。3つの特性とは、立地、建物、住民のこと。さらに補足すると、住民の特性とは、高齢者が多い・夫婦で働いており昼間は子供たちだけで家にいる住戸が多いなどとなる。

被害想定はいくつもののパターンを考える必要があるが、例を挙げるとこんな具合だ。

1.真冬に発生した震度7の震災によって大規模停電が発生
2.マンション全住戸で暖房が使えなくなり
3.高齢者などの要支援者の低体温症のリスクが高まった

そのための対策案として、「自助・共助×事前の備え・事後の対処」の掛け合わせで、4つの箱のマトリックスの中に防災対策をまとめていくことになる。

表

北海道胆振東部地震で発生した全域停電は想定外だったといえるだろう。真冬で数週間の停電だったとしたら被害はさらに拡大していたはずだ。
すべてにおいていえることは、「防災」とは被害想定にあわせて対策を整理することだ。しかし、完全な防災はできない。今回のブラックアウトや東日本大震災の津波など、「想定を超えた被害」に至るケースもある。仮に想定できたとしても、そのための準備や備えが、あまりにも大変で現実的でないケースもある。
仮に「想定外」であったとしても、あらかじめ、ある程度の備えがあることで、減災効果は期待できるということも忘れてはいけない。その場合、減災効果をうまく引き出すためにも、被害想定のイメージを拡げる訓練を通し、応用力を養う必要もあるのだ。

首都直下地震も南海トラフ地震も、すでに秒読みに入ったといっていいだろう。ひとつの事例として北海道で起きた全域停電を参考にお話しさせていただいたが、「被害想定なくして防災はありえない」ことを肝に銘じてもらいたいと思う。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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