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2019.12.19

高経年マンション、誰が大規模修繕工事を仕切る?

高齢化社会

改修工事

高経年マンション、誰が大規模修繕工事を仕切る?

アンチエイジングという言葉が一般的になり、年齢の割に若々しく見える人が多い気がするものだ。
マンションも例外ではない。若さを保つためのアンチエイジング、つまり維持保全のための定期的な大規模修繕工事はかかせない。

たとえば大規模修繕の周期を15年に設定して考えてみよう。1回目は15年後、2回目は30年後、そして3回目は45年後ということになる。もしあなたが35歳で新築マンションを買ったなら、3回目の時には80歳だ。
想像してみよう。80歳前後の面々が首を揃え、「マンション全体の合意形成はどうしましょう」とか「予算の確保はどうしましょう」とか、さらには専門的な工事仕様の決定や施工会社の選定、はたまた工事中の安全確認や仕上がりのチェックなど、何ともハードルが高すぎる。とはいえ、施工会社や管理会社にすべてお任せというのも不安がよぎる。

高齢者がほとんどを占める築45年のマンションでも、住民の誰かが発注者として大規模修繕工事を仕切る必要が出てくる。それが80歳になったあなたしかいないかもしれない。これは一大事だ。

加速する、高経年マンションの高齢化

マンションに住む人の高齢化は着実に進んでいる。
2013年の段階で、60歳以上の区分所有者の比率は、なんと50%超。年々この比率は高まっており、2025年には、70%に到達するだろうといわれている。
マンションに住まう「人の老い」は、日本全体が高齢化しているのだから当然のことだ。一方で、「建物の老い」も進んでいる。日本のマンションの平均築年数は、2025年には30年を超えていく。これは、現在までに供給されたマンション数と、毎年供給される新築マンション数から、日本全体のマンションの平均築年数を割り出してみた結果だ。

新築に入居してから終の棲家となるまで住み続けよう、という「永住志向」は強い。つまりは、人と建物の老いは、極めて相関関係は高く、すでに今、築30年のマンションの区分所有者の70%は、60歳以上と推定してもおかしくはないことになる。

築30年のマンションで60歳以上が70%なら、単純計算すれば10年後20年後には、70歳・80歳以上が70%を超えてしまう。これからのマンションは、極めて高齢化率の高いコミュニティになっていくことは間違いなさそうだ。

築45年目、80歳。あなたならどうする

中古売買されやすい築年数は、一般的には築20年ごろまでといわれている。
少子化により若い世代が減り続け、同時に住宅余りの傾向が続いているのが、日本の現状だ。中古で購入する若い世代も、住んでみたいと思えるマンションでない限り、たとえ安価であっても、他に魅力がなければ築45年目のマンションに飛びつく人は少ない。そうなってくると、若い世代への住みつなぎや管理運営のバトンタッチができないまま、築45年目の大規模修繕工事を迎えることになる。想像しただけで……恐ろしい。

解決策は、若い世代の住みつなぎ

80歳のあなたが、体力や精神をすり減らし、なんとか3回目の大規模修繕工事を実行したとしよう。若い世代に住みつなぎができないまま、4回目となる60年目の大規模修繕工事は、95歳だ。年齢を考えると、もはやあなたが前面に出て陣頭指揮をとるのは、かなり難しい。

多くの人が介護を受け、認知症を患う人もいるだろう。また、多くの相続も発生するだろうが、子供たちが相続した親のマンションに住むことは稀だ。すでに自分の住まいを持っており、賃貸に出すか、転売するかになるが、若い世代が住みたいと思えるマンションでなければ、売るに売れず、貸すに貸せずで空き家は増加していく。空き家が増え、管理運営や必要な工事を行う人がいなくなり管理不全に陥るマンションが、日本中でどんどん増えて行くことになりかねないのだ。

この問題の解決策は、若い世代が住みつなぎ、管理運営の主役になっていくことしかない。維持保全のための定期的な大規模修繕工事はもちろん大切だが、手遅れになる前に、若い世代が住んでみたいと思えるマンションの価値創りを考えていかなくてはならないということだろう。
問題は、マンションの価値とは何か、価値をどうやって創っていくのか、ということになる。このテーマは、また別のコラムで取り上げていくことにしよう。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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