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2019.6.14

エレベーターの部品生産が終了って、どういうこと?

改修工事

エレベーターの部品生産が終了って、どういうこと?

マンションのエレベーターは日々正常に稼動しているのが当然で、乗っている最中に突然停止し中に閉じ込められるとは、考えたこともないだろう。

その当たり前に稼働しているはずのエレベーターだが、「大阪北部地震」ではなんと66,000台が揺れで停止し、過去最大を記録した。「北海道胆振東部地震」でも8,000台のエレベーターが停止。閉じ込め事故も30件余り発生してしまった。

身の危険を感じるほどの大きな揺れの後、狭いエレベーターのかご内で一人閉じ込められることを想像すると恐怖でしかない。しかも停電で真っ暗闇となったら、助けを呼ぶあなたの恐怖はただならないものだろう。救助してもらえるまでに3時間・4時間と長時間を要したら、精神的なパニックに陥るはずだ。

もちろん地震だけが、閉じ込めに至る原因ではない。地域停電やエレベーター自体の故障なども考えられる。マンションの高さを克服するための文明の利器も、よく考えれば非常時には監獄にもなりうるのだ。

すでに、安全に係る技術水準が見直されているのだが

2000年以降に発生した度重なる震災や人身事故をうけて、「エレベーターの安全に係る技術基準」が2009年と2014年の二度にわたり見直された。代表的なものが以下の4つ。

①扉が開いたままエレベーターが動き出し、人が挟まるなどの重大事故に至らないようにする戸開走行防止機能

②地震発生時には、最初にやって来るわずかな揺れのP波と後からやってくる大きな揺れのS波がある。最初のP波を検知して、自動的に最寄り階に着床し扉を開ける機能、P波センサー

③停電になるとただちに電気で動くモーターは停止してしまう。そんな非常時に設置されたバッテリーでモーターを動かし、最寄り階まで移動し扉を開ける機能、停電時自動着床装置

④大きな揺れが発生しても、機器の倒壊・破損、ワイヤーロープの外れ等が発生しない様に改正された耐震基準

これらの安全機能は、法令改正によって新しく義務化されたもので、法令改正以前に設置されたエレベーターは、機能を追加しない限り、「安全に係る技術基準」を満たすことはできない。念のため、築10年以上のマンションに住まわれている方は、エレベーターの法定点検報告書を確認してもらいたい。これらの機能がついていなければ、エレベーターは「既存不適格」と点検報告書に記載されてしまっていることだろう。

既存不適格とは、設置後に法律が改正され、現在の法律に不適合という状態をいう。遡及して改修する義務までは定められてはいないが、明らかに安全水準としては低い状態であることには間違いはない。築10年以上の多くのマンションが、実は、そんな状態であるということをまずは認識しておくべきだ。

安全基準を満たすためには、どうする?

エレベーターの「安全に係る技術基準」を満たす方法は、2つある。

①必要な機能のみ追加するための改修工事を行う

②エレベーターリニューアル工事を実施する

 ア、制御リニューアル 制御盤・巻上機(駆動部)を中心に更新、その際に必要な機能も追加
 イ、準撤去リニューアル 一部の乗場機器を除き装置を更新、必要な機能は含まれる
 ウ、全撤去リニューアル 全ての乗場機器も含む装置全体を更新、必要な機能は含まれる

①の機能追加は補助金を設ける行政もあるが、②のリニューアル工事の1/4~1/2程度の費用となる。一般的には、長期修繕計画で築30年目あたりに設定されているリニューアル工事に合わせて実施されることが多い。築10年目で、すでに既存不適格であるマンションは、20年も待ってこの機能をつけることになるわけだが、リニューアルの時期を早める、もしくはあえて①の機能追加工事を行うべきか、今後、検討すべきテーマかもしれない。

②のリニューアル工事の場合、既設の方式でリニューアル工事の選択肢が違ってくる。ロープ式エレベーターの場合は一般的に(ア)~(ウ)の全てを選択できるが、油圧式エレベーターは(ア)では既存不適格が解消されず、新規生産されていないのでメーカーは推奨していない。

(イ)や(ウ)は新設工事同様に建築確認申請が必要になるため、安全基準を満たしたものを設置することになる。しかし(ア)と比較するとコストが跳ね上がり、制御リニューアルの1.5倍程度以上のコストになってしまう。一般的にロープ式では、制御リニューアルを選択することになるだろう。

制御リニューアルでは、建築確認申請は不要だ。極論をいえば、安全基準を満たさないでリニューアルを行うこともできてしまう。築30年目あたりといえば、2回目の大規模修繕工事や給排水管更新工事など、もっともお金のかかるタイミングであり、それに加え大きな出費のエレベーターリニューアルのタイミングと重なる。コストを重視し、安全基準を満たさないままリニューアルを検討するケースもあるかもしれない。

しかし、このやり方は推奨しない。ぜひともリニューアルのタイミングで、既存不適格から脱却し、地震や停電に強いマンションという価値を得てもらいたい。

そもそもどうして、リニューアル工事が必要なの?

この話は、リニューアル工事をいつ実施すべきか?という点とも大きく関連する。フルメンテナンスで部品の交換なども含めて整備してくれているのだから、そのままリニューアルなしでやっていけないのという素朴な疑問も浮かんできそうだ。原因は、部品供給が終了してしまうこと。

メーカーが部品の供給を終了してしまう理由は大きく二つある。ひとつはメーカーが調達している半導体などのパーツの生産終了によるもの。メーカーが基板などを物理的に「製造できない」状況に置かれてしまう。もうひとつは、法律が変わりメーカーが今まで生産していたものが、不適格となってしまえば生産を終了せざるを得ないというケースだ。

メーカーのフルメンテナンスで高い保守点検費用を払ってきたのに勝手に生産終了してしまうとは、と憤る人もいるだろうが、致し方ない事情も背後にはあるのだ。いずれにしても、利用者側ではメーカーの部品供給の終了時期を調整しようがないのだ。

長期修繕計画では、一般的に30年目にエレベーターのリニューアルを設定している。エレベーターの「リニューアル工事」は、厳密には「○○までに実施しなければならない」ということはない。30年目とは、先に述べた部品供給を勘案してというのが、より正しいことになる。だから、部品がなくなる前に前倒しして、リニューアルをする必要もある。

エレベーターは、いつまでも動き続けると思うな

部品の供給が終了すると、部品の故障で復旧できなくなるリスクが生じる。万が一そんな状況になってしまったら、急いでリニューアル工事を行うしか手立てがなくなる。総会を開催し修繕積立金を取り崩し、発注をかけるのに最短で1カ月程度。メーカーにもよるが発注から完了まで、4~10ヶ月程度かかることになる。つまり、部品供給が停止した状態で故障になると、復旧まで半年~1年程度停止し続けることになりかねない。

部品供給の終了は致命的だ。その情報を知りながらリニューアル工事を実施しせず、先送りし続けた結果は大変な不便を強いられることになる。エレベーターが動かず、毎日階段で高層階まで行き来する。そんな重労働という目に遭いたくなければ、是非とも計画的なリニューアル工事の実施をお勧めしたい。

この記事の執筆者

上野 英克

1級電気・管工事施工管理技士・東北大学院卒。大和ライフネクスト設備管理部門にて給排水・電気設備、機械式駐車装置・エレベータ等の機械設備の維持・修繕を20年程度担当。現在は、技術者養成や教育なども行う。

上野 英克

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