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2019.10.4

高齢者が大変! 理解なきマンションコミュニティではダメ!

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高齢者が大変! 理解なきマンションコミュニティではダメ!

従来型の対処方法が通じない高齢者が増える?

驚くデータがある。現代の分譲マンションでは、入居者の2人に1人が60歳以上であり、そのうち4割が70歳を超えているというのだ(平成30年度国土交通省のマンション総合調査)。

高齢化社会の真っ只中にある日本において認知症も社会問題であり、発症者は全国で500万人超、2025年には700万人以上に達すると推計されている。

そんな中、認知症の高齢者がいるマンションでは、管理費の滞納、孤独死、徘徊やゴミ屋敷など、さまざまな問題に発展していく可能性がある。こういった対応は、管理規約や細則に定めていると説明しても、書面にて注意したとしても、解決が難しいのが現状。隣人として、また管理組合の役員や管理会社という立場であったとしても、どう関わっていけば良いのかさえわからない。頭を抱える問題が増加していくのは間違いないのだ。

とはいえ、実は解決する手立てがないわけではない。マンションコミュニティとしての3つのキーワード、「気づき」、「つなぎ」、「支える」がポイントになるのだ。

キーワード1 「気付き」が解決のスタート地点

まず、良くない事例から紹介しよう。

ゴミ出しルールを守らない高齢者に対し、役員や管理員が注意を与え続けた結果、注意されることが怖くなったご高齢者はゴミが出せなくなり、次第に室内に溜め込むことになるという。場合によってはゴミを排水溝に流し出すことで、パイプが詰まり室内が水浸しに。あわや、大規模な漏水事故の一歩手前の状態だったというケース。

異臭等から周辺住民が異変を察知し、マンション中の漏水被害を食い止めることはできたものの、早い話がそれ以前から予兆に気付くべきだったのだ。

・ゴミ出しルールの違反者→実は、ゴミの出し方が解らなくなっている?

・廊下に異臭がする→室内がゴミ屋敷状態?

・ベランダに放置物が散乱している→整理ができなくなっている?

・今まで挨拶を交わしていたのに、無言、無表情で通る

・季節に応じていない服装や、汚れた衣服を着ている

・廊下やエントランスでぼんやりと佇んでいる→自分の部屋が分からなくなっている?

・郵便物等がポストに入ったままで長期間放置され溢れている

・水道の使用料が異常に少ない等々

隣人として、また管理組合の役員や管理員など、マンションコミュニティ全体で高齢者を労わる気持ちが少しでもあれば、気付くことは可能なのだ。

キーワード2 「つなぐ」で、管理組合でできないことを可能にする

「気付く」で紹介した事象は、認知症が疑われる、または何らかの支援が必要なケースだ。しかし、このような状態に至ってしまうと、もはや管理組合・管理会社では対応はできない。ご家族、自治会、民生委員、社会福祉協議会、地域包括支援センター、行政などに相談することになる。

つまりこれが「つなぎ」だ。先の漏水事故直前の事例では、地域包括センターに「つなぎ」、ヘルパーさんの手配を行うことで解決している。

あわや大惨事という事態もありうる。ある独居高齢者が、調理中に加熱器具の切り方が解らなくなってしまったという事例。室内外に煙が充満し消防車も出動する騒ぎとなったが、幸い火災には至らなかった。その後、管理組合の役員が地域包括支援センターに「つなぎ」、センターが配食サービスを導入した。配食サービスの利点は、火を使わなくても良いというだけではなく、毎日の安否確認ができる点だ。

さて、そんな日々の見守りが利点ではあるが、ヘルパーさんをはじめ、自宅に赴きサービスを提供する際に、マンションのオートロックが大きな壁となることが多い。マンションのエントランスから呼び出しても、呼び出しに気付かない、聞こえないことも多いというのも事実。外部への「つなぎ」で終わりではなく、管理組合としても管理員に協力を要請し外部との連携を深める必要があるのだ。

「つなぐ」とは個人情報を提供するということ

さて、この「つなぐ」とは個人情報を提供するということとイコールになる。すると、よく耳にする「個人情報保護法」という存在が気になるところだが、実はまったく問題がないのだ。

個人情報保護法は、個人情報を取り扱う事業者に対するルールであり、近所の人が「個人として」地域包括支援センターに連絡しても、個人は同法の対象にはならない。管理組合の役員の場合は、事業者の立場になってしまうが、同意を得られない場合でも個人情報保護法の例外規定、「人の生命、身体または財産の保護の必要がある場合など」にあたる場合は、本人の同意が無くても、情報の提供は可能ということになる。個人情報保護法があるから何もできないと手をこまねいてしまうケースは多いが、例外規定があることを覚えていただき、率先して対象者の安全安心に動いてあげて欲しいと願う。通報を受けた地域包括支援センターなども、誰が連絡したかは、守秘義務がありオープンになることはない。

本人や他の居住者も、コミュニティ全体で安心して暮らせるように、積極的に「つなぎ」を活用すべきだろう。

キーワード3 「支える」とは、素敵なコミュニティの配慮

「支える」は、管理組合運営でも役立つ、高齢者への配慮だ。

例えば、管理組合で大規模修繕工事の説明会を実施した。しかし高齢者にとっては、要領の得ない質問をして笑われてしまわないかなど、大勢の場では質問しにくいことも多い。別途、高齢者向けの個別相談会を設ける、また工事開始前に単身高齢者や高齢ご夫妻のお部屋に役員と工事責任者で訪問して回るなどの対応を行い、工事やバルコニーの片づけ等の具体的な困りごとの相談に応じたというケースだ。

確かに手間はかかるが、実際の工事に入ってからさまざまな問題が浮上してくることを考えれば、よりスマートな方法といえる。マンションに住まう世帯主の約半数が60歳以上、そのうちの4割以上が70歳を超えている今、2回目の大規模修繕を迎える築30年前後のマンションでは、もっと高齢者の比率は高くなるだろう。

大規模修繕工事だけでなく、他にも配慮することはたくさんあるはずだ。日ごろからのマンションコミュニティとしてのつながりを大切にしていれば、できる範囲で「支える」が、自然とできるようになる。

高齢者問題をどうしたら良いかと手をこまねいて何もしない、ではいけない。高齢者に理解なきマンションコミュニティではなく、目線を高齢者において、「気づく」「つなぐ」「支える」ことができるコミュニティにすること。

それが、高齢化時代のマンションコミュニティの当たり前でなければいけないのだ。

この記事の執筆者

牧 泰治

NPO法人マンションサポートネット理事。サラリーマン生活を送りながら、理事長、修繕委員等を歴任し、マンション管理士となる。現在は地域の社会福祉協議会会長、行政区の社会福祉協議会理事を務めるとともに、認知症アドバンスサポーターとして、高齢者向けのカフェの運営、京都市市民後見人としても活動中。

牧 泰治

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