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2019.12.17

「管理いたしません」──管理会社に断られる時代

管理委託

「管理いたしません」──管理会社に断られる時代

最初は、ある大手の管理会社が、受託している管理組合に対し「次回の契約更新を行わない」という強い姿勢の申入れから始まった。つまり“更新拒否”だ。

マンションの管理の適正化の推進に関する法律(通称:マンション管理適正化法)には、管理委託契約の期間が終了しても自動更新はできないと謳われている。そのため契約終了の3カ月前までに更新の申入れを行い、引き続き管理委託契約を締結する場合であっても、初回契約同様に重要事項説明を行うことが義務づけられている。平たくいえば、契約を続行するのであれば3カ月前までにお知らせくださいということなのだが、この話は“継続”ではなく“更新しない”という通知だったということだ。

標準管理委託契約書に準拠した契約であれば、解約は管理組合・管理会社のどちらかが、3カ月前までに申し入れすればいつでも可能なのだが、このケースの場合、ちょうど契約の満了に合わせ管理会社から解約を申し入れたという格好になる。

同様の話や解約ではないまでも、多くの管理会社が委託費の値上げを管理組合に申し入れるケースが目立ち始めてきた。マンションの管理委託の市場では、今、何が起きているのだろうか。

管理会社ってどんな位置づけ?

そもそも、管理組合と管理会社とは、どんな関係であるべきものなのだろう。

管理組合には、さまざまなリスクが内在しているといっていい。修繕積立金などの資金の確保だけでなく、大規模修繕工事などに向けての合意形成など、コミュニティの醸成も重要課題だ。また、築30年を超えていくと理事の成り手不足や空家問題など、いわゆる“高経年マンション”ならではの問題も浮上してくる。これは、建物と人の“2つの老い”といわれる重い話。とはいえ、それらを乗り越え、マンションの価値を創り出し、安全で安心でき末永い快適な暮らしを確保することが、管理組合の使命だろう。管理会社は、単に管理業務を請負うことだけでなく、マンション管理のプロとして、永続的な価値の創造という重責を負った管理組合の良きパートナーであることが理想になる。

一方で、管理組合にとっての「良きパートナー」とは、どんな関係性だろうか。ひたすら要求を受け入れてくれて、企業とそこに働く人材も働き尽くしてくれることなのか。「いや、それは違う」と当たり前な話として失笑する人は多いだろう。しかしながら、それに近い状態を要求する事実も、けしてないわけではなかった。

企業として適正な収益を上げるのは当然としても、管理組合のために優秀な人材を少しでも多く確保し、マンションの価値を共に創りだそうというのが、管理組合のパートナーとしてのあるべき姿。しかし、もし、そうはできないような環境や関係が生み出されているとするなら、管理組合にとっても不幸なことなのだ。

“3つの劣化”に悩まされる管理会社

管理会社の方から一方的に解約や値上げ要請をしてくるのだとしたら、パートナーとしての自覚はあるのかという思いも浮上する。しかし、そこには深い背景がある。

今、管理会社は極めて厳しい“3つの劣化”に悩まされている。大げさな言い方かもしれないが、このまま突き進めば、中長期的には企業ブランドが崩壊し、持続可能性を喪失しかねないような劣化リスクが存在している。

日本はこの30年間、バブル景気が崩壊し「失われた20年」が続く。リーマンショックも挟み現在に至っている。世の中のデフレムードの中、管理会社は管理組合からの減額要請を受け入れることはあっても、値上げを管理組合にお願いすることはまずなかった。背景には、価格競争やリプレイスされてしまうという強迫観念が強かったからだ。しかし、この30年の間に事業環境は大きく変化した。それが、管理会社を悩ます“3つの劣化”ということだ。

1つは「人材不足」。管理員や清掃員という職業は、60歳定年制の時代には、それなりに人気のある第二の職場であった。しかし、平成25年には65歳定年が完全義務化され、第二の職場を求める多くの人は65歳以上になり、70歳雇用の努力義務化もスタートして、すでに応募は激減している。もちろん、管理現場での労働力の問題だけではない。リーマンショック直後の就職氷河期といわれた時代から、新規求人倍率は2.4倍と売り手市場になっている。フロントマンといわれる若手の管理事務をこなすマンション担当者も、管理業の不人気さも手伝い採用ができないどころか、管理会社の若手中堅の社員が他業種へ転職するケースも増えていると聞く。いわゆる、「人手が確保できない」という劣化だ。

2つ目は「最低賃金の上昇」。この30年間で、最低賃金は180%以上にアップした。管理員や清掃員の給与は、最低賃金水準に近い。30年前から変わらぬ委託費では、逆ザヤになってしまうことも容易に想像できるだろう。管理委託業務の収支は大幅に悪化している。いわゆる、「事業収益」の劣化だ。

3つ目は、受託マンションにおける「2つの老い」の問題だ。すでに日本のマンションの平均築年数は24年程度。あと10年もしたら築30年を超えて行くことになる。区分所有者もすでに半数が60歳以上となった。今後、多くの人が年金受給者になり、「終の棲家」志向がより強まることになる。日本の高齢化問題、いわゆる2025年問題とリンクして、3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上、10人に1人が認知症を患うという時代が目の前に迫っている。必要な工事のための資金も乏しく、理事の成り手不足も深刻化し、人生を全うした後の「終の棲家」が空家になる。そうなると、委託契約を継続していくこと自体、管理会社にとってはさまざまなリスクをはらんだものとなる。いわゆる、「受託マンションの老い」という劣化だ。

管理会社見直し(リプレイス)も様変わり

更新拒否なら新しい管理会社を探すのは当然だろう、また値上げを理由に管理会社の見直しを始めるケースも、この1年急激に増加してきた。

しかし、他の管理会社も人手不足などの事情は同じだ。現行の管理会社が値上げをお願いしなければならないほど現状が安いなら、他の管理会社でも採算が取れない。仮に受託したとしても人手不足の中で人員をシフトできるだろうか、などの事情もあり、見積提出は慎重にならざるを得ない。ましてや更新拒否であった場合は、管理組合の資金が極端に不足している、管理会社に対しての度を超えた要求が当たり前になっている、管理組合自体が機能不全に陥っているなど、敬遠せざるを得ないケースも多いものだ。ヒアリングや裏取り調査を行う時間と経費をかけるぐらいなら、最初からお断りするケースも増えてきたということなのだ。

結果、10社以上に声をかけても、多くの管理会社が見積を辞退するケースは、もはや珍しいことではなくなった。少し前のように、委託費の減額を管理組合から要求すればリプレイスが怖くて減額に応える。また管理会社見直しのコンペを行えば、多くの管理会社が喜んで見積を持ってくる。そんな時代ではなくなったということだ。

先日、マンション管理の業界新聞が、大手30社ほどに値上げや更新拒否について、アンケート調査を行った。すでに多くの管理会社が値上げを行い、場合によっては更新拒否も行っているとのことだ。この30年間めったなことでは、値上げや更新拒否などは行ってこなかった管理会社が、こぞって180度方針を変えてきたということだ。

守るべきは管理組合であることには変わりない

管理会社が悩まされる「3つの劣化」は、企業としての持続可能性を損なうほど破壊力がある。人材不足や収益の悪化が、サービス品質を低下させ、ややもすれば今まで築いてきた企業ブランドにも傷がつく。会計業務などで管理組合の資金を管理する管理会社にとっては、信用や信頼はかけがえのないものだ。

そして何よりも、今、管理させていただいている管理組合を守っていくためにも、自らの持続可能性を失うわけにはいかない。だから、今は、値上げをお願いし事業収支の改善を図らなければならない。

また、人材を集約させなければならない状況に至っているなら、優先順を決め委託契約の継続を断らざるを得ないケースも出てくるわけだ。

価格競争の中で、管理戸数などのボリュームの論理でリプレイスやM&Aを重ねるのが、企業の切磋琢磨だという成長方向が、今までの10年20年だとすれば、今起きている変化は、管理組合をどう守るべきかを真剣に考え出した結果ともいえるのではないかと思う。



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この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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