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2020.1.20

「管理組合でお金儲け」をコミュニティで考えてみる

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会計・資金

「管理組合でお金儲け」をコミュニティで考えてみる

分譲マンションは、住めば住むほどお金がかかる?

「家賃などの居住費を払い続けるぐらいなら、資産として残せる分譲マンションを購入しよう」と考える方もいる。一方で「分譲マンションは何かとお金がかかるのでは」という話もよく聞く。お金がかかるとは、いったいどういうことだろう。

マンションを購入後、かかる経費といえば月々のローン返済や水光熱費くらいのはず。あとは、将来自分が住む専有部分をリフォームするのにお金がかかる程度だろうと思っている人は多いだろう。 しかし分譲マンションには、「管理費」や「修繕積立金」を管理組合に納めなくてはならない。意外と経費として組み込むのを忘れがちになる。
「管理費」は、共用部分を維持するための管理組合の経費だ。一般的には月々1万円以上。また、カウンターであなたの帰りを迎えてくれるコンシェルジュを置いているようなホテル並みのサービスがあると、2万円を軽く超えていくだろう。
「修繕積立金」は、共用部分の修繕など建物の維持のためには必要不可欠な管理組合の資金だ。より購入しやすい金額設定にするためにも、当初は5,000円~8,000円程度と低く抑えられているケースも多いのだが、将来の修繕工事の費用に不足が出るようなら、数年ごとに段階的に増額する必要も出てくる。築20年も経てば新築購入時の2倍程度にまで跳ね上がるケースも珍しくはない。

戸建て住宅と分譲マンションの最大の違いは、区分所有者の共有財産であるかどうかということ。いわゆる、居室以外のほぼすべての部分、壁や共用廊下、エレベーター、給排水や消防設備などを、区分所有者全員でお金を出し合って維持していかなくてはならない。マンションの価値が低下してしまわないようにコストをかけて維持していくわけだ。
マンションの管理組合とは、区分所有者全員で構成し、マンションを維持管理し、価値を守るための組織だ。管理組合は区分所有者から管理費や修繕積立金などを徴収し、毎年管理組合の総会でその使い道を予算として決定していくことになる。
修繕積立金は、中長期の予定を組んで積立てても、建物や設備の劣化状況によっては予定以上に費用がかさむ、または予定を前倒しして実施しなくてはならない場合もあるだろう。さらに近年では消費税の改定に加え、人件費や水光熱費も値上がり傾向にある。収支はどんどん悪化していく傾向にあるのだ。

収支は、収入が増えればプラスに、支出が増えればマイナスになる。当然のことだが収支が悪化した場合は、収入を増やすか、支出を減らすしか対応策はないのだ。

節約策 一辺倒の落とし穴

収入を増やす最も単純な方法は、管理費や修繕積立金を値上げすること。また、住宅金融支援機構が発行する積立型債権「マンションすまい・る債」や国債を購入し、利息で収入を増やす方法などがある。

しかし、月々の負担を増やすことにすぐに賛成できる人は少ないはずだ。また、国債の利息といっても、利率も低く微々たるものだ。そのため、多くの管理組合は支出を減らす方向に舵を切ることになる。
合理的に無駄や無理を省き、マンションの価値を維持向上につなげる節約策は大歓迎だが、節約策の一辺倒には落とし穴もある。管理費等の削減のために「管理委託費の安い管理会社に変更する」「清掃頻度や範囲を単純に減らす」「やるべき修繕を先延ばしにする」「必要な修繕の範囲をカットする」「性能や耐用年数を考慮せず安い部品や設備に交換する」ということをしがちだ。
果たしてそれがベストなのだろうか? 確かに支出は減らせるだろうが、十分な維持や修繕ができず、後からかえって費用がかかることにもなりかねない。また、マンションの景観に影響が生じ、住環境も悪化することもありえる。結果として、マンションの価値を低下させてしまっては、管理組合の本来の目的であるはずの「マンションの価値を守り、維持していく」こととは逆の結果になるかもしれない。

管理組合が稼ぐという発想の難しさ

最近は車離れの傾向も強い。マンション敷地内の空き駐車場が増加し駐車場収入が減少するケースもある。敷地内駐車場の空きスペースを、月極駐車場やカーシェア業者に貸し出し、今まで得ていた収入をなんとか取り戻そうとする管理組合が最近増えてきた。他に、集会室を居住者以外の一般の方々に貸し出す、屋上を携帯用アンテナ基地局の設置場所として貸し出すなどして賃料収入を得ているマンションもある。これらの多くは、管理組合が投資することはほとんどなく、使い方の変更や貸出先の持ち込みで成り立つケースも多い。

もっと積極的なケースを想定するなら、例えば管理員の勤務仕様を住込みから通勤に変更し、管理員住込み居室を管理組合の費用でリフォームして、シェアオフィスや倉庫として貸すことも考えられるかもしれない。とはいえ、実際に使われていないスペースや施設に積極的に手をかけて改良し、外部に貸し出して使用料を得るまでに至る事例は少ない。なぜだろうか。

その要因は幾つかある。
管理組合とは、マンションの維持管理を目的とした団体。そもそも営利事業を目的とする団体ではない。よって、管理組合が投資してまでも、より積極的に外部からの収入を得ていこうとする発想は、管理組合にはなかなか無いといえるだろう。

もう一つは、経理の手間暇と納税の問題だ。収益事業(区分所有者以外から収入を得ている事業を指す)の経理と、収益事業以外の本来の管理組合運営のための経理は、区分しなくてはならない。管理組合は通常の会計帳簿のほかに、収益事業用の会計帳簿を作ることになる。
また、管理組合が収益事業をおこなう場合は税務申告が必要となる。つまり、収益に応じて税金を納める手間が出てくるのだ。税務書類の作成や申請等の業務は、税理士に委託すれば税理士への報酬も発生してしまう。収益が低い場合、税金と税理士費用のために、逆に収支がマイナスになってしまう危険性もある。

管理組合が「稼ぐ」という発想には、なかなか到達できないのが現状なのだ。

住めば住むほど「稼げる」マンションを議論する

このように数々の障壁を挙げていくと、管理組合が収益事業に対して積極的になれなかったことは大いに頷ける。しかし、これらの障壁はまったくクリアできないものではない。

まず、管理組合は確かに非営利団体としての特性を備えてはいるが、収益を上げること自体を禁止されている訳ではない。基本的には、管理組合は契約の主体となることができるので、対個人、対法人と賃貸借契約などを締結することは可能だ。きちんと納めるべき税金さえ納めていれば、収益事業をおこなっても良いのだ。

税理士費用を抑えるだけなら、マンション住民の中に税理士の資格を持つ方がいれば、管理組合の納税業務を安価で手伝ってくれるような場合もあるだろう。しかし、士業の方にボランティアの立場で継続的にやってもらうというのも、いかがなものかと疑問に思う場合もある。王道でいえば、正規に税理士に依頼することだ。どちらにせよ税引き後の収入額が、税理士の費用などの固定的なコストを上回る収益事業となることが何よりも大切である。
確かに、そんな絶対額を稼げる収益事業を創造するのは並大抵のことではないだろう。しかし「マンションの価値を守り、維持していくために稼げるマンションにするには」というフランクな議論は面白いし、節約策の一辺倒で落とし穴にはまってしまうよりは、よっぽどコミュニティの活性化につながりそうだ。

IT技術はどんどん進歩している。多くの企業が様々な事業をスタートさせ、働き方改革を含め事業スキームを見直している。携帯などの5G通信基地局の確保、物流や配達方法の見直しや改善、ドローンの利用など。いずれにしろ、サービスの発信基点となる「場所」や「スペース」が必要であることは間違いない。その「場所」や「スペース」の候補地がマンションであるかもしれないのだ。
そんな変化やニーズも見据えて、マンションの価値の創造のために、住めば住むほど「稼げる」マンションを思考していくことも必要な時代になるのかもしれない。

この記事の執筆者

岸下 真木夫

管理業務主任者。2009年大和ライフネクスト株式会社入社。管理組合の担当として運営補助業務を担当。その後、法人や大学の福利厚生施設の営業担当を経て、現在は新築マンションの管理設計、立ち上げに従事。

岸下 真木夫

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