2020.2.18

もう「想定外の事態」なんて言わない。「想定内」にする取り組み

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その日、5万基のエレベーターが一斉に停止した

2018年6月18日7時58分、大阪府北部を震源とする大阪北部地震が発生した。最大震度6弱、M6.1を記録。その時の私はというと、仕事休みの朝で、妻と共に朝食を食べ終わったばかりだった。

最初はグラッと揺れた程度だったため「いつもの地震だろう」と高を括っていた。しかしそれも束の間、一瞬の静寂を破る大きな揺れが襲い、私は食卓のテーブルにしがみつくのが精一杯という状態に。食器棚の扉が勢いよく開くと中からガラス類が飛び出し、床に叩きつけられて粉々になる。自宅2階の洋服ダンスの類いはすべて10センチ程移動しており、本棚は倒れていた。これが戸建てに住む、我が家の被害状況だ。

TVのニュースで知ったことだが、通勤時間帯を襲ったこの地震により列車の各線では急停止などの混乱が起きた上、翌日まで全線運休となった。また、市内のビルでは鉄筋がむき出しになった他、アスファルトの道路の繋ぎ目部分などに亀裂が入るなど、都市インフラがダメージを受けていることが報じられていた。

驚いたことに、「エレベーターでの閉じ込めが339件、停止が5万基を超える」という被害が発生した。国土交通省によると、エレベーターは全国に約73万5千基、そのうち大阪府には約7万4千基あるというが、今回の地震で、7割近いエレベーターが停止したことになる。

とはいえ、そもそもエレベーターが停止することは問題ではない。平成21年に、揺れを感知すると最寄り階で自動停止する「地震時管制運転装置」の導入が義務化されている。問題なのは依然として未整備の旧型が多く残っていることであり、それが閉じ込めの一因となっていることだ。

この地震により、市内のとあるマンションで発生した「閉じ込め事故」の一部始終を紹介する。

エレベーター内に、登校前の子どもたちが閉じ込められた

当該マンションは、築34年の地上14階建て、221世帯。地震発生直後、8階に居合わせたという方」が、慌てて防災委員会の事務局長宅に向かい、ドアを激しく叩きながら「大変だ! 8階のエレベーター付近で子どもたちの声がする! 閉じ込められているかもしれない、すぐに来てくれ!!」と救助の必要を伝えに来たという。

2人で駆けつけてみると、エレベーターは7階と8階の間で停止しており、小学生と思われる子どもたちが中で不安そうな声をあげていた。「大丈夫だから、すぐに出してやるから」と声をかけ、とにかく落ち着かせた。人数を確認すると小学生7人と付き添いのお母さんの計8名だった。

救出のために4人集まった。全員がエレベーターの救出訓練を受けた委員会メンバーだ。まずひとりが管理事務所からエレベーター機械室の鍵を持ってきた。もうひとりは、事務局長と手順をおさらいし、最上階(14階のさらに上階)に走ってもらった。エレベーターの電源が「切」の状態であり、ロックされ籠の落下などの危険性がないかなど、安全に問題がないことを確認した上で、2名が専用の治具を使って少しずつドアをこじ開けていく作業を開始した。

ドアを開けてみると、エレベーターは8階床部分よりも下に止まっており7階床部分よりも上に1メートル以上高い位置にあった。高さもあるため慎重にひとりずつ足の先から救いだしていく。この間わずか20分弱であった。初めての実際の救出とは思えないほど、スムーズな手際を見せ、ひとりのけが人も出すことなく救出は成功した。

もちろん、階の途中にエレベーターが停止したままなので、ドアをこじ開けた場合には人が落下する危険性もある。また、救出中にエレベーターが突然落下すれば、体を挟まれ大事故につながる危険性もある。エレベーターのメンテナンス会社による事前の指導や十分な訓練を行い、安全を確保し、かつ確実に手順を守る必要がある。エレベーターからの救出は、本来決して素人がしてはいけないということも付け加えておこう。

地震発生5時間後、警察が救助に

中に閉じ込められていたお母さんの話によると、エレベーターのメンテナンス会社への緊急通話も、管理事務所への緊急通話もつながらずパニックになっていたという。幸いなことに110番は通じたため閉じ込められた状況を伝えたというものの……結局、警察が現場へ到着したのは通報から5時間後のことだった。

もし、自分たちで救出することができなければ、警察が到着するまでの5時間、もしくはエレベーターのメンテナンス会社の技術員がやって来るまで、エレベーターの中に閉じ込められっぱなしであったことだろう。エレベーター専用の防災キャビネット(簡易トイレや水などを収納した椅子状のもの)が設定されていたとしても、8名の閉じ込めではスペース的にも使用は難しく、真夏なら暑さのため急病人が出てもおかしくはない。

混乱する被災状況の中、救助を待っているだけならずいぶん長い間、耐えて待つしかない。しかし住民で救出できるなら20分。このはっきりとした明暗を前にエレベーターの閉じ込めが「想定外だった」という言葉で片付けられるだろうか。

「想定内」の対策を続けてきていた

未曾有の大惨事となった東日本大震災では、「想定外」という言葉が何度も繰り返し使われた。地震の規模も想定外、津波の被害も想定外、福島原発のメルトダウンも想定外……。

それだけに留まらずここ最近では、「想定外」の大型台風が発生するなど、自然災害における想定外が多数発生する状況が続いている。しかしそれを「想定内」に収めることができるならどうだろう。被害状況は大きく変わるはずではないだろうか。

私は、東日本大震災から2年後の2013年に「防災士」の資格を取得した。また、京都大学の矢守教授がおっしゃる「想定内対策を進める」ことへの重要性も強く共感している。停電になった、怪我をした、水がなくなった、トイレが使えなくなった、エレベーターが止まって閉じ込められたなど、平時こそ「想定内」の対策を学ぶべきではないかと思う。

「想定内の対策を進める」ために、このマンションでは日頃から計画的に活動を行っていた。初年度は半年に1回、最近では毎年1回、定期点検時にエレベーターの点検業者の指導のもと繰り返し訓練を行ってきた。その成果をこんなに早く実践する形になってしまったが、なにはともあれ「想定内」のこととして、的確で落ち着いた対処ができたのだ。

「防災力のあるマンション」が重要な時代

私とこのマンションの関係も少し付け足しておこう。

私がこのマンションに防災士としてこのマンションにお世話になったのは、2014年5月から。委員会の設立当初から関わらせてもらった。ひとり、またひとりと耳を傾けてくれる人を増やしていき、その年の8月30日、管理組合の創立30周年を記念するイベント、「サマーフェスタ」をきっかけにコアメンバーが揃い、防災活動の土俵が整った。翌年には、16名による「防災委員会」が発足。総会で正式に承認され防災予算の確保もできた。

仕事の都合で私の直接的な支援活動は2年半で終了し、すでに3年半が経過しているのだが、今も委員会の方々との個人的なつながりは継続している。事務局長を筆頭に、参加したメンバーの防災に対しての前向きさが、私の心を離さなかったのだ。

発足前の防災訓練は数十名程度の参加だったにも関わらず、委員会発足の初年度は100名を超える参加規模となり、2018年度は175名、2019年度は215名と初年度の2倍以上の参加率となった。さらに同年5月には独自の「防災マニュアル」も全戸配布が完了している。防災への意識と知識が高いマンションへと生まれ変わっていったのだ。

「想定外」を「想定内」に変える備え

大阪北部地震では、震源地が近い直下型でエレベーターの安全装置ともいえる最寄り階停止ができないという事態が余りにも多く発生した。2009年のエレベーターの安全に係る技術基準に適合したエレベーターなら、およそ震度4~5弱程度の揺れで地震時管制運転装置が作動し、管制運転に入るはずなのだが、そういう「想定外」もある。

しかし、その事態を「想定内」にした住民による救出は、まさに訓練の賜といえる。エレベーターのメンテナンス業者から操作手順や理屈などの手ほどきを受け「本番」に備えてきた。繰り返し定期的に学び、「できる」というスキルをコンピテンシー(スキルを実績に繋げた能力)として昇華させられたことは素晴らしいと思う。

人任せでは安全が守れない時代なのかも知れない。今一度、ご自身が住むマンションの防災力を確認していただき、想定外を想定内にする対策を講じてもらいたい。

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