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2020.2.27

自分たちだけでどこまでできるか――「自主管理マンション」の実態

組合運営のヒント

管理委託

自分たちだけでどこまでできるか――「自主管理マンション」の実態

世の中には、管理会社に頼らず住民たちの力だけで、マンションを管理していく方法もある。このようなマンションを一般的に「自主管理マンション」という。しかしこのような自主管理マンションは、国土交通省「平成30年度マンション総合調査」によれば日本全体のマンションの約7%に過ぎない。部分的であれ、総合的であれ、多くのマンションは管理会社に委託しているケースが圧倒的に多いのだ。自主管理マンションのほとんどが、マンションの黎明期に建てられた日本住宅公団や地方住宅供給公社(いわゆる公団・公社)が供給したもので、建物の引渡しを受け管理組合が発足してから、そのまま自主管理としてスタートしたマンションが少なくない。

自主管理マンションから「これ以上は……」と弱音も

自主管理のメリットは、やはりコストが抑えられること。なぜなら、マンションコミュニティ全体で労働力が提供されているからだ。住民全員で力を合わせ、敷地の草取りから廊下や階段の清掃など、専門会社に任せずに手分けして実施している。特に役員の仕事は、「会計」「修繕工事の手配」さらには「夜間の緊急対応」など、ありとあらゆることを分担して実施している。

それなりに大変ではあるが、マンション管理が「他人事」ではなく「自分事」になるため、自分の想いを注ぎ込むことができる点でいえば、理想的な管理運営といえるかもしれない。とはいえ、あれもこれも自分たちだけでどこまでやっていけるのだろうか。住民の負担が重くなることは容易に想像できる。

最近、自主管理を長年やってきたマンションから、「これ以上続けて行くのは無理かもしれない」と悲鳴が上がりだしたと聞く。その原因の1つが「住民の高齢化」だ。

最初から自主管理でスタートしたマンションは、1970年以前から1980年代に供給されたものが多い。つまり、築年数は40年から50年以上ということになる。自主管理が当たり前で、かつ住民が若かった竣工当時は、さほど苦にはならなかったかもしれない。しかし、時の流れとともに子どもたちは巣立ち、高齢の両親だけが残され、急速に高齢化が進行しているからだ。

ある団地では階段ごとに班を設け、階段の清掃を当番で行うのだが、高齢で足元がおぼつかないため清掃ができない住民が現れ始めた。その方は他の住民から陰口を言われて、とても肩身が狭い思いをしているのだという。

別のマンションでは役員のなり手が少なくなり、輪番制も機能せず、同じメンバーが継続的に役員を務めるようになりはじめた。しかし、頑張ってきた役員たちも80歳近い。誰か1人でも欠けてしまえば、そのあと業務を引き継ぐ人がいないという。

こんな状況が散見されるマンションにおいては、自主管理は限界に近づいてきたといえるのだろう。特に若い世代が少なく、世代交代ができていないマンションでは共通の悩みになっている。このままではどうなってしまうのか、そんな不安から管理会社に問い合わせをする管理組合が近年増えている。

立ちはだかるのは「管理コスト」の問題

管理費を例にとってみる。

一般的なファミリータイプのマンションで、管理会社に委託している場合の管理費は月額10,000円以上というのが相場だろう。ところが、とある総戸数160戸の自主管理のマンションではコストが抑えられ、なんと月額600円だという。駐車場収入が潤沢にあるとはいえ、衝撃的な管理費の金額だ。当然、管理会社に委託するためには、管理費を大幅に値上げする必要がある。しかし、支払うのは大半が高齢者世帯。はたして値上げは可能なのだろうか?

別のマンションの理事長が「月額3,000円の修繕積立金の値上げの議案が通らない」と愚痴をこぼしていたのを思い出す。修繕積立金は管理費と違って建物を維持するための資金。値上げの理解は得やすいものなのだが、それすら難しいという。

修繕積立金の値上げさえも、「冗談じゃない」と反発も大きい。今まで自主管理でやってきたプライドもあり、管理会社に委託するための管理費の値上げとなれば、なおさらのことだ。

コミュニティ全体の理解と納得のプロセス

「自主管理を続けることはもう無理」という事実を正しく理解し、「管理費を値上げしてでも管理会社に任せるしか方法がない」とコミュニティ全体で納得する必要があるのだが、これが実に難しい。

ある600戸ほどの団地の管理組合から、「自主管理をやめて管理会社に委託したいので相談にのってほしい」と依頼を受けたことがある。30名ほどの参加者とフリートークをしながら、管理会社に委託するとはどういうことなのかを説明したのだが、ある参加者の一人が「今、説明を受けたような内容は、今でも問題なくできている。会計は専門会社に依頼していてそれで問題がないし、組合運営も今のままでうまくいっているのだから管理会社に委託する必要性を感じない。」と発言した。

すると、役員の一人がこう返答した。「会計をやっているのはアルバイトの女性であって、専門会社じゃない! そんなことも知らずに、分かったようなことを言うな! こうやってわざわざお越しいただいて説明会まで開いているのに、何も問題がないわけがないだろう!!」。

このように、実態を知らない住民は「今のままでも問題ないしこれからも問題ない」と思ってしまう。

一方役員は、日常的に負担を感じ危機感があるから管理会社への委託を真剣に考えている。認識と価値観のギャップをコミュニティの中で埋めていくのは大変だ。ややもすれば感情的ないがみ合いにも発展しかねない。

プロをうまく使えば成功することも

マンション管理の専門家である、マンション管理士に頼るという方法もある。彼らはマンション管理の専門家だから、他のマンションの事例を踏まえて課題を整理し、次に進むべき方向を指し示すことができるかもしれない。費用が多少かかっても、まずは相談する価値はあると思う。ただし、医師や弁護士のような専門家に「専門領域」があるように、マンション管理士にも分野によって得手、不得手がある。合意形成のためのスキルやサポートができるかなど、見極めは必要だろう。

また、管理会社に問い合わせをしてみるのも良いかもしれない。管理会社によっては簡単な説明会程度ならやってくれるところもあるだろう。前述の総戸数160戸のマンションは、管理費を月額2,000円・駐車場使用料を月額500円値上げすることで、管理会社に事務管理業務の委託を実現させている。また、600戸の団地の方は、管理費を月額約1,000円程度値上げすれば、管理会社に総合管理で委託できることがわかった。この2つの事例は、管理会社に相談して落としどころを見つけたケースだ。

自主管理に限界を感じ始めたなら、自分たちだけで何とかしようとは考えないほうが良いかもしれない。管理会社に委託した経験がないのだから、何を委託できてどう変わるのかの具体的なイメージが乏し過ぎるからだ。実際、役員や専門委員だけでマンション管理士や管理会社に相談せずに検討を進めて成功した事例を少なくとも私は聞いたことはない。

成功に導くためには、やはり管理のプロに相談することをお勧めしたい。



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この記事の執筆者

宮﨑 栄治

マンション管理士。大和ライフネクストにて、管理組合の担当として運営補助業務などを担当後、マンション管理業協会出向。高経年マンション問題などの研究を行う。現在は、経験や知見を活かしセミナー講師や管理組合の相談窓口を行う。

宮﨑 栄治

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