2020.6.01

水とポンプと私──設備を巡る話

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実はこんなところにも!? ●●に囲まれた生活

最初に皆さんにクイズを出しますので、ぜひこの機会に考えてみてください。それではさっそく出題。
「シンガポールの代表的な観光スポットのマーライオン」「東京ディズニーランド人気アトラクションのスプラッシュマウンテン」「高層ホテル最上階のレストランの噴水」。
これらに共通しているもの──恋人と行ってみたい場所ベスト3ではない。正解は「勢い良く出る水」。

先の例題、一見すると無関係のように思われがちだが、もちろんそんなことはない。皆さんが暮らすマンションにも密接に関わっているのだ。

喉が渇いた時、料理をする時、お風呂に入る時、トイレを流す時など、蛇口を捻れば当たり前のように出てくる水。それは、1階住戸でもタワーマンションの最上階住戸でも変わることなく、一定の水量を維持している。これは、ある設備が絶えず動き続けてくれているお陰なのだ。

その設備の名は「給水ポンプ」。

ポンプが働いてくれることで我々の生活は快適に過ごせている。冒頭にご紹介したマーライオンのようなケースでは、ポンプによる水の芸術が感動をもたらしている。余談だが、マーライオンに使用されているポンプは日本のメーカーのものだそう。

というわけで、ポンプのお陰で今日もライオンの口から、山の頂上のトイレから、調理場の蛇口からは勢い良く水が出ている。ここでひとつ提案だが、有名な観光地デートもさることながら、時には主眼を変え「ポンプから吹き出される水を見に、シンガポールのマーライオンに行こう!」なんて誘ってみると新鮮かも知れない。

そもそも、なぜ最上階でも勢い良く水が出るのか

ポンプと聞いて思い浮かべるのは、手動で汲み上げる井戸水ではないだろうか。灯油をストーブ缶に移し替えるあのポンプ(石油ポンプと呼ぶらしい)もある。
ここでご紹介する給水ポンプは、汲み上げるでも移し替えるでもなく、マンションの一階、もしくは地階から最上階まで水を「押し上げる」役割をしているもの。

マンションに設置されている給水ポンプにも種類があり、「揚水ポンプ」「加圧給水ポンプ」「直結増圧給水ポンプ」と給水方式によって分かれている。詳細は割愛するが、屋上に高架水槽が設置されていれば揚水ポンプ、地上もしくは地下に受水槽のあるタイプであれば加圧給水ポンプ、受水槽が無く行政の水道本管から直接取り込んでいるところでは直結増圧給水ポンプとなる。
それぞれ呼び名や構造に若干の違いがあるものの、どれも目的は同じで、マンションの全ての住戸へ水を送り届けるということ。もちろん階数が少ない低層のマンションでは、給水ポンプがなくても水道本管の水圧で十分な場合もある。

しかし、そもそもなぜポンプは何十メートルも上まで水を押し上げることができるのだろうか。それは、給水ポンプの「モーター」に直結されている「羽根車」を高速で回転させ、ポンプ給水口から水を吸い込み高い圧力を掛けて勢い良く吐き出すという仕組みがあるからだ。

加圧給水ポンプ、直結増圧給水ポンプの場合は、マンション内の水の使用量に応じてモーターの回転数を制御し、必要最小限の電力で動くように設計されている。日中在宅している人が少なく、水を使う量が少ない時はモーターの回転数を抑えて省エネモードに。夕食の準備やお風呂など多くの住戸が水を必要とする際は、高速回転モードになる。常に給水管内の圧力をセンサーが監視し、誰かが蛇口を開け圧力が下がるとコンピューターがパワーアップせよと命令を出しているのだ。
これらは、モーター、制御装置、センサー類などが一体となって設置されており「給水ポンプユニット」と呼ばれている。この給水ポンプユニットは日々の技術進歩やメーカーの努力もあり、小型化・省エネ・静音設計といった進化を辿っている。

少し難しい話になってしまったが、こうして今日も蛇口からは当たり前に水が出ているというわけだ。自分が蛇口を捻るという行為がポンプ起動の合図になっているなんて、気がついてみると面白い。

「水が出ない」という恐怖とパニック

想像してみよう。ついさっきまで出ていた水が、何の前触れもなく出なくなった時のことを。まず手が洗えない。トイレに行っても流すことができない。ペットにお水をあげられない。お腹が空いても料理ができない。汗をかいてもシャワーを浴びることができない。これが「断水事故」だ。

先述のように、給水ポンプユニットはいくつものセンサーやコンピューターによって制御されている。何らかの原因により重要な部品が壊れてしまえばポンプの調子がおかしくなり、最悪の場合は停止し断水となる。

水道工事会社の方から、マンションでの急な停電よりも、急な断水の方が問い合わせやクレームの件数が遥かに多いと聞いたことがある。水は普段意識していないところでも私たちの快適な生活を支えてくれているのだと、断水になって初めて認識するものだ。

料理や飲み水はミネラルウォーターがあればそれに替えることができる。お風呂も冬場であれば一日くらい何とか我慢できるだろう。しかし問題なのはトイレだ。簡易トイレなどの備えがないと、毎回外部の公共のトイレまで行かなければならない。真冬の寒い季節であったら、高齢者にとって容易なことではない。

私自身、前触れもない断水を経験したことがある。仕事で韓国に住んでいた頃の話だ。私のアパートには、温水による床暖房しか付いておらず、よりによって真冬に部屋内の水道管が破裂し、一晩水が使えなかったのだ。トイレも使えず、床暖房を使えず、薄い掛け布団しかないという状況。ダウンジャケットを着込んで、朝無事に目覚めることを祈りながら震えて眠った経験がある。やはり、水は飲む以外にも大事なものだ。

当たり前に水を使い続けるために

自然災害から守り抜くというのは難しいことかも知れないが、自分たちで断水事故のリスクを回避する方法はある。それが「設備点検」と「予防保全工事」。

設備点検は私たちの健康診断と一緒で、些細なものから重大な故障までを未然に防ぐために非常に大切な役割を担っている。専門点検員からの報告や、時には管理員からの一報で、大事に至る前に事故を防げたという事例もある。

もう一つの予防保全工事というのは、設備に異常が見られなくても使用年数を考慮して部品交換や設備そのものを更新して、断水事故を予防しようというもの。

給水ポンプユニットについていえば、一度ポンプをバラバラに分解し消耗部品の交換や内部洗浄を行い、また元の状態に組み立てる「分解整備」というものがある。時計のオーバーホールと同じ目的だ。毎日高速で回転し続けていれば摩擦により部品はすり減るし、キレイに思える水道水も何年も使っていれば水垢などが付着し衛生上も好ましくない。

「分解整備」を行った上でさらに年数が経過すると、いよいよポンプユニット本体の寿命がやってくる。モーター自体や頭脳であるコンピューターの劣化が始まり、故障のリスクが高まってくるのだ。それによる事故を防ぐためには、ポンプユニット丸ごとの更新が必要となる。

管理会社やメーカーの考え方にもよるが、分解整備は設置後4~8年周期、ユニット更新は設置後10~16年で提案している。分解整備もユニット更新も決して安く思える金額ではないため、不具合が出ていない状態でこれらを実行するということに抵抗を感じる方は多く、「不具合が出てからやればいいんじゃないか」という声もある。

しかし、突然不具合が発生すれば、最悪の場合には数日間、断水を余儀なくされることも考えられる。また、想定外の出費が発生してしまうこともあるのだから、やはりおざなりにはできない。

今日出ている水を、明日も明後日も安心して当たり前に使い続けられるのは、ポンプのおかげ。折に触れ、人知れず頑張ってくれているポンプのことを思い出し、感謝してあげてほしいと願ってやまない。

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