2020.6.01

管理会社からの値上げ! その売値の作られ方とは

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“地磁気逆転”が、マンションにも発生!?

聞き慣れない言葉だと察するが、「地磁気逆転」とは地球の北極と南極のN極・S極が入れ替わってしまう現象のことをいう。

地球46億年の歴史の中で何度も繰り返され、都度、大きな環境変化が地球上の生物の絶滅をもたらしたといわれている──と、ここで紹介したい内容は、そんな地球規模の話ではないが、今、私たちのマンションの暮らしでも、逆転現象が生じているということだ。私たちの暮らしに定着しているマンションに、いったいなにが起こっているというのか。

マンション管理新聞社が、管理会社数十社にアンケート調査を実施。その多数回答として「管理費の値上げ要請を始めた」「契約の更新を拒否する場合もある」との記事を掲載した(2019年10月7日 付)

複数社から見積りを取得し管理会社を選定するというリプレイスは、バブル経済破綻以後の30年間、当たり前に行われてきた。買い手である管理組合の、いわゆる「買い手市場」では、委託費用を削減し、より良い品質を追求することができた。もちろんこのような力学の元では、管理会社から値上げのお願いなどできるはずもない。リプレイスが怖くて管理組合からの減額要請を受け入れ続けてきたのだ。

しかし、業界誌の記事にもあるように、この1年で状況は一変した。管理会社側からの値上げ要請が始まり、場合によっては契約更新をしないという通知がくるようになってしまったのだ。なぜこのような逆転現象 が生じてしまったのか、委託費値上げにどう対処すべきなのかといった疑問に対しては、別のコラムを設けることとして、そもそも委託費の値付けはどうやってなされるのかといった「管理会社の委託費の作られ方」について考察していこう。

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「委託費の構成」、どうなってる?

マンション管理は労働集約型産業だ。「最低賃金が上昇し人件費が上がる」「管理組合からの減額要請を受け入れる」など、いずれにしろ、多くが人件費である管理会社にとっては、利益を削るしか方法はない。それでも利益を確保しようとするなら、品質に悪影響を与えてしまう。また、従業員に無理を強いてしまっては、人材が他業種に流れ出て行ってサービスを提供するどころではなくなる。元も子もないという状態になるのだ。

すでに述べてはいるが、人件費は直接サービスを提供するためのものと会社を維持していくための総務や経理などのスタッフのものに分けられる。前者は管理戸数が増加すれば共に増加する「変動費」、後者は管理戸数とは無関係な「固定費」ということになる。

ここで重要なのは、「変動費」だ。例えば、会計管理業務で言えば、「管理費等の収納のために“戸”あたりでいくらの生産原価がかかっているのか?」「決算業務を行うのに“棟”あたりでいくらの生産原価がかかっているのか?」ということになる。おそらく管理会社のすべての業務を細分すれば、100や200の工数項目が出てくることになる。その1工程ごとの原価を積み上げて“変動費”を算出し、売値を作ることになる。

確かに大変な作業だが、変動費と固定費を分解する工程は、損益分岐点などを算出する際の「個別費用法」という財務分析手法を利用できる。工程ごとの生産原価の算出は工場などでは当たり前な生産性指標を応用すれば、はじき出せる。委託項目ごとに簡単に解説すると下記のようになる。

  • 会計管理業務や理事会運営補助業務などの事務管理業務、外注先への発注や品質管理などのマネジメントに要する経費、緊急対応業務費などは、管理マンションが増加すれば増える経費、いわゆる変動費。多くの場合、これらの業務は再委託をしていないので、社内生産原価となる。
  • 設備点検会社や清掃会社などの再委託先に支払う経費も、社内生産原価と同様に管理マンションが増加すれば増える経費、いわゆる変動費だが、区分するために外注原価という。
  • 管理員経費も変動費だが、仕様によって人数や勤務時間などが変わるところもあるので、社内生産原価とは区分し原価人件費とする。
  • 一般管理費は、総務や経理の人件費や償却費などになる。一般的には管理マンションの増減とは無関係に固定的に発生する経費なので、固定費となる。
  • 管理報酬は、いわゆる営業利益のこと。金融機関の評価などを勘案すれば、サービス業である管理会社は、6%~8%程度は欲しいところになる。

話しは多少横道にそれるが、一般管理費・管理報酬を委託明細に記載しない管理会社も多い。必ず発生するものなので、他の項目にまぶしているということになる。開示性を意識するならば、この項目は示してもらいたいところだ。

売値の作られ方-事務管理業務費

さて、総論的な話しから各論で売値の作られ方を整理しよう。一番、根拠がわからないと言われる事務管理業務費を例に解説する。
管理戸数10万戸・管理棟数1,000棟の管理会社があったとして、その会社の事務管理業務に直接関わる経費の総額が、月額1億8,000万円だったとしよう。いわゆる、理事会運営補助を行うフロントマンの経費や支店経費、会計管理業務やその他提案を行う業務に関わるすべての経費だ。

さらに、それぞれの工程を分解し、棟に関わる経費と戸に関わる経費に細分化する。例えば決算は主に棟だが戸のボリュームで業務量が変わるので、棟に70%、戸に30%などと査定する。また、収納はすべて戸に対するものなので、100%戸で計上する。そんなやり方で100を超える工程を積み上げていくことになる。その結果が、以下の通りだったとしよう。

  • 1億8千万円のうち、棟に関わる業務で、5,000万円・戸に関わる業務で1億3,000万円だったとする。
  • 次に単価を算出するには、単純に棟・戸のボリュームで割り込めば良いので、
    棟に関わる業務で、5,000万円÷1,000棟=@5万円
    戸に関わる業務で、1億3,000万円÷10万戸=@1,300円

この単価とは、事務管理業務を行うためにかかる経費を棟と戸に分けたものになる。

例えば、100戸のマンションの事務管理業務の売値を算出すると、18万円/月となる。
(5万円/棟あたり+100戸×1,300円/戸あたり=18万円)
理論上は、このような計算で事務管理業務費の売値が算出できるというわけだ。

生産性を金額に置き換えたものになるのだが、ここでいう生産性は、品質とは別ものだと考えてもらいたい。「一人のフロントマンが20棟担当すれば10棟を担当する場合よりも、品質はともかく生産性は倍に高まる」「同じ10棟を担当するにしても、年収300万円の入社1年目の若手フロントの方が、年収600万円の中堅フロントマンよりも、生産性は倍に高まる」。
数字だけを見てしまえばそんなことになってしまうのだが、品質においては、押して知るべしだ。

管理会社から、値上げの依頼がくると、「事務管理業務費の明細や根拠になる数字を見せて欲しい」と要望される方もいるだろう。しかし、それは、あまり意味はなさそうだ。なぜなら、見せてもらったところで理解は難しい。経費分解や棟・戸での費用按分など、企業の財務諸表よりも細かな経費の分析や積上げに基づいて作られているからだ。それに実際の詳細の経費実績まで開示できる管理会社はないだろう。

いずれにしてもこの話を頭の片隅に置き、あとは、みなさんの知見でご判断されればよいことなのだ。

売値のつくられ方-その他の売値

「管理員に聞いたら給与は15万円とのこと。委託契約で管理員の積算金額は30万円となっているので、15万もここに乗せてるの?」という方もいると思う。しかしそもそも、管理員の売値は管理員給与だけではない。交通費や社会保険料や被服費、採用経費や教育経費なども含めれば、本人の給与と同等程度の費用が発生してしまうだろう。

いずれにしろ、採用や研修にどれだけコストをかけて力を入れるか、また教育の仕方などのノウハウが、人づくりの生産性と品質ということになる。管理会社によって差が出やすい部分であるのも確かなのだ。

再委託の売値でいえば、管理会社は、大手であれば、まとめての発注を再委託先に行うことになる。一括発注でより安くできているわけだ。また、「点検をして、ここが壊れていました」というだけの報告書では、点検した意味はない。「壊れていたのでこうやって直しましょう」という報告や改修のための見積りを添えて提案されるべきだろう。この提案とは、まさに事務管理業務の領域。あえてこの部分を分離して管理組合の直接発注の方が安いと思い込むのは、果たして管理組合にとって得かどうかは、一考の余地はありそうだ。また、管理会社が再委託先(協力会社)として認定するには、その技能や能力、財務面や企業体力などもしっかり査定することになる。何かあったら管理会社が全責任を負うことになるからだ。

さて、再委託の売値の作られ方は、外注先への支払い経費(外注原価)に管理会社の経費を加えたものになる。管理会社の経費とは、発注部門経費・品質管理部門経費・改修提案部門経費などだ。しかし、再委託先も人材不足・賃金の上昇などで、毎年数パーセントの値上げを容認せざるを得ないのも事実。清掃会社に至っては、最低賃金の上昇で悲鳴を上げている。廃業を決め込む事業者も出ているぐらいなのだから。

表面だけの簡単な解説で申し訳ないが、順を追ってすべてを解説するには、ものすごいボリュームになる。また、委託費売値の作り方を管理組合がマスターしたとしても、管理会社からの値上げ依頼に対抗できるわけではないだろう。

売値がどう作られているかの概論を理解いただき、今後の交渉や値上げを受け入れる心の準備のお役に立てればと思う。

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