2020.11.11

知っておくべき「マンション管理適正化法改正」の背景とは

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令和2年6月に成立した「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律」が、令和4年に施行される(以下、適正化法及び円滑化法という)。

今回の改正の目玉となるのが、適正化法に新たに規定される国の基本方針、地方公共団体による助言・指導、そして新制度の「管理計画認定制度」だろう。

そんな中、施行に先立ち有識者などを集めての「マンション管理の新制度の施行に関する検討会」が、改正法成立の翌月となる7月に発足された。今後、基本方針や管理計画制度等の具体的内容が議論されていく。

ということで今回は、平成13年に制定された適正化法や今回の改正に至った背景などを、簡単に整理してみたい。

平成13年制定の“適正化法”はどうして生まれた?

簿内で管理組合の修繕積立金等を管理していた中堅管理会社が倒産した。銀行などの債権者が、簿内にあった管理組合のお金も含めすべてを押さえてしまい、管理組合の資金が消えてしまったという事件だ。簿内とは管理会社名義の通帳で、また管理会社の貸借対照表などの財務諸表に現金として記載されていたような状態だ。せっかく管理組合が貯めた億単位の修繕積立金が、すべて消えてしまった。これが原因で適正化法が作られたとまではいわないが、このような大きな事件の後に是正する法律が作られるのは珍しくはない。

さて、事件の本質的な原因は何だったのだろう。

倒産自体を問題視しても始まらない。絶対に倒産や消滅しない企業などあるわけもなく、倒産してしまった以上は、もはや元には戻らない。倒産時に倒産会社の預金口座にお金が残っていれば、債権者である銀行が質権などで優先的に返済原資に充てるのは当然だし、そのお金は管理組合のものだといっても、一般債権者に過ぎないのだ。

やはり、真摯に考えるなら以下の3点が原因なのだろう。
① 管理組合や区分所有者のマンション管理への意識の低さ
② 区分所有者などの一般の方が、マンション管理の専門知識を持つことの難しさ
③ 管理組合の会計業務を行う管理会社に対しての法的なルールの定めがなかったこと

実は、適正化法は、この事件のあとに先に述べた3つの原因を抑え込むような形で作られていった。

①にあげる区分所有者などの“意識の低さ”とは、消費者側のモチベーションの問題でもある。適正化第4条では、管理組合は適正に管理するよう努めなければならない、また管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならないと、努力義務の範疇に留めている。しかし、②③については対照的に、現在のマンション管理の根幹となる制度として、作られていったのだ。

②の専門知識の難しさについては、第3者の専門家が管理組合をサポートする制度として、“マンション管理士”を創設。③の法的なルールでは、管理会社の財産とは別に分別し管理することを定め、帳簿作成や管理事務の報告、管理業務主任者や委託契約の締結の際の重要事項説明義務、違反した場合の改善命令や指定の取り消しなど、その他さまざまな規定を盛り込んだ。
簿内で管理組合の資金を継続的に管理することはできなくなり、また保証機構の創設により、管理組合の資金が担保され、積立金等の蒸発事故はなくなった。

もちろん、管理会社は、コンプライアンスを確保するための組織作り、管理業務主任者資格の取得やモラル面の教育など、業務工数は増大した。管理組合のお金を預かり、建物の適正な維持管理を受任する立場として、他の業界でも同様な社会に通用する体制を確保するのは当然のことだろう。その結果、誰でも簡単にマンション管理業に参入できた時代から、適正化法を守れない管理会社は退場していただくという、一線を引くものでもあった。

また、マンション管理士の創設時でいえば、管理会社と敵対牽制するポジションというような誤解がなかったわけではなかったが、今ではそれぞれの役割の違いも十分に認識され、健全な管理運営のためにサポートする2つの機能という理解も定着したものと思う。

令和2年6月の“適正化法”改正、その背景は?

適正化法が制定された平成13年当時、日本のマンションの平均築年数は13年程度だった。今はすでに、築25年程度となり、日本のマンションの平均築年数が築30年を超えていくのも時間の問題だ。※1

築40年超のマンションは現在81万戸となり、10年後には198万戸、20年後には367万戸となる見込といわれている。※2 建物自体の老朽化が浮上し、同時に高経年マンションにおける区分所有者の高齢化や非居住化(賃貸化)による管理組合役員の担い手不足等の課題も浮上してきた。高齢化を数字で見るなら、すでに日本の区分所有者の世帯主の約半数が60歳以上なのだ。※3 35歳でマンションを購入したとして、平均築年数が25年なのだから、半数が60歳以上になるのは当然なのだろう。

古くなったマンションを建て替えるにも、建替え累計は244件、約19,200戸(平成31年4月)にとどまっている。また、建替えの従前従後の利用容積を見ても、団地の場合で4.34倍(1970年代)から2.23倍(2010年代)と大幅に減少。この容積が何倍になって建替えできるかが、区分所有者の経済的負担と直結していく。利用容積が小さくなれば、売却できる専有面積が減少し、建築費などの経済的負担が発生し、また取得できる従後の専有面積は小さくなっていくのだ。※4
※1:平均築年数は国土交通省の「分譲マンションストック戸数」から算出。
※2:国土交通省が発表した試算による。
※3:国土交通省のマンション総合調査より。
※4:従後容積÷従前容積、大きいほどより多くの面積が確保でき建築費などの負担がなく建替えられたが、面積が確保できないと建築費の一部負担などが発生。建築費の高騰でも建替え事業収支は悪化する。
そんな、建物と人の高齢化、マンションの再生の難しさが浮き彫りになってきた。

高齢化が生んだ問題だけではない。区分所有建物たるマンションには先天的な特殊性もあると国土交通省は指摘している。

①合意形成の難しさ
維持管理等に係る意思決定に際し、意識・価値観・経済力等が異なる区分所有者間の合意形成が必要になる点。
必要な工事を実施しよう、不足している積立金を値上げしていこう、など前向きな議論をしても、賃貸で貸しているので経費は安い方が良い、年金しか収入はないので値上げは反対するなど、よく聞く管理組合の悩み事でもある。

②マンション管理の専門知識
区分所有者の多くは、建物の維持管理等に必要な専門的知識や経験を必ずしも有していないという点。
適正化法制定当時も同様な課題があり“マンション管理士制度”が設けられたのだが、マンション管理士に依頼するにも幾何かの費用は発生する。経済的な理由や管理知識のためにお金を払うのか、という意識や抵抗感は制度があっても払拭はできていない。

③環境への影響
適切に維持管理されない場合、戸建て住宅に比べ、その規模ゆえに、周辺の住環境に与える影響が大きい点。
空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家特措法という)は、適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしている。空家特措法は地域住民の生命・身体・財産の保護、生活環境の保全などのために2015年に制定された。すでに滋賀県野洲市にあったマンションが、空家特措法の行政代執行にて取り壊しがなされている。これからの10年・20年と中長期を考えれば、高齢化、管理不全、負の資産化、相続放棄、空家、廃墟へと第2・第3のケースが出てくるのは間違いないのだろう。

改めて、「管理計画制度」とは……

今は、各論が出そろっていないので総論でしか述べられないが、「管理計画制度」とは国が基本方針を示し、市町村などの地方公共団体が助言・指導していくためのものになる。
冒頭にも申し上げたが、区分所有者などの“意識の低さ”は、消費者側のモチベーションでもあり、適正化第4条にて、管理組合は適正に管理するよう努めなければならない、また管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならないと、努力義務の範疇に留めていた。

所有者が自己の所有物をどう管理しようと他人に迷惑をかけなければ、行政も含め口出しできるものではない。それが所有権というものだ。しかし、マンションは近隣や他人に迷惑をかけるような社会的な負の財産になってしまってからでは対応はもはや困難だ。よって、市町村が地域の特性なども考慮しつつ独自の施策も加えて、積極的に管理組合を指導していくための制度になることは間違いない。

現在の中古流通の価格設定をイメージしてもらいたい。どんなに良い管理をしていても、その良さが公表されず、また良さの物差しもない。近隣のそうではないマンションと、立地・建物・築年などでの比較事例法で似たような価格設定しかできないのが実情だ。

マンションやコミュニティの価値の物差しとなり、中古流通では、買い手の購入の目安にもなる制度。決して転売を目的にした制度として論じるわけではないが、いわばそれがマンションの価値の客観的な目安になることは確かだ。

いずれにしろ、来年の適正化法の改正の施行を待とう。

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