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2021.02.01

マンションに防災が定着しない── その解決策とは?

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突然だが、「どうして防災がマンションで定着できないか」について問う。実はこれ、マンション防災の一番難しいところだからだ。

消防訓練は、防火管理者の責務として消防計画に定めた回数を実施する必要があると消防法で定められている。しかし、消防訓練さえマンションでの参加人数は限られ、またついうっかり訓練自体がなされなかったりしているケースもあるのではないかと思う。

ましてや、震災訓練ともなるとどのように行ったらよいかわからず、消防訓練になぞった“なんちゃって”震災訓練でお茶を濁すというパターンだろう。またそれが誤った防災知識を植え付けることになっているケースもある。

間違えだらけの防災訓練

マンション内でサイレンを鳴らし、「震度6の地震です。みなさん、エレベーターを使わず1階エントランスに集合してください。」と館内放送が流れる。集まったところで、安否確認を行い、マンションの防災担当から「地震が来たら、安全のため頑丈なテーブルがあれば下に隠れましょうね」などと講話される。すでに別のコラムでも紹介している話だが、復習してみよう。

第一に、火災ではないので全員で1階に降りることはない。高層のマンションの場合、エレベーターが動かない状況では、高齢者や妊婦など要支援者が自宅に戻れなくなってしまうからだ。

第二に、発災後に行う安否確認の目的は、家具などの下敷きや食器の破片でけがをした人を発見し早く救助することだ。救助は時間との勝負でもある。階段で降りて来られる人はそもそも無事だったわけで、降りてから点呼を取ってほっとしている時間はない。フロア単位で安否確認を行うのが原則だ。

第三に、テーブルの下に隠れてはいけない。揺れで天井が落ちてくるような脆弱な建物ならわからないでもないが、マンションで天井が落ちることはまずない。それよりも、地震の揺れにより重いものほど加速し大きく移動しやすい。テーブルもしかり、下にもぐって大けがをしては元も子もない。ひとたび揺れが襲ったら、歩くこともできず、身をかがめ頭を守る程度しかできないと考えるべきだ。緊急地震速報が鳴ったら、家の中のどこに退避するかをあらかじめ決めておくことが大切だ。

しかし、こんな間違った知識は多くの人に根付いてしまっている。それを正していくのも、マンション防災で行うべき活動なのだろう。

マンションに防災が定着できない背景

さて、マンションの防災活動で良く相談されることがある。

一番多いのは、マンションに防災を定着させるためにも震災マニュアルを作りたいとか、防災の組織の作り方や防災訓練のやり方を教えてほしいといった相談だ。確かに、マンションでの防災活動を始めるにあたり、真っ先に上がってきやすい疑問かもしれない。

こで、少々困らせるかもしれないが、こんな質問をぶつけてみる。「もしそれができたとして、あなたのマンションでは住民全体に浸透できる、そんなポテンシャルの高いコミュニティなんですか」

モチベーションが高い一部の人が、苦労して一定の完成物を作り上げ、いろいろと準備しても、なかなかマンション全体に浸透せず、防災訓練にも参加する人があまりにも少ないということは常に起こりうる。もちろん、コミュニティの醸成程度にもよるのだろうが、マンション全体で災害に立ち向かうための“価値観の共有”がなされなければ、笛吹けど踊らずの状態が続くことになる。なんとか前に進めたいという想いが強くあればあるほど、他の居住者との意識のギャップは広がることにもなる。そのような前向きな人のモチベーションすら、削いでしまう悪循環に至ることになりやすい。

“背中を見せる”という、率先垂範

神戸にある大型マンションでの取り組みを紹介しよう。

マンション全体の防災訓練よりも、防災委員会のメンバーでの防災訓練を頻繁に行っているケースがある。もちろん、その活動結果や訓練の姿を住民全体にしっかり報告している。

安否確認の取りまとめ、救護や避難誘導など、防災委員ならそれぞれに大切な役割を担うことになる。役割を全うするためにも、率先し訓練するのは、至極当然なことなのだが、一般的には防災組織の中核になる人たちだけで訓練している姿はあまり見かけない。防災委員会で作った訓練プログラムを住民にやってもらうという発想で留まっていることが圧倒的に多いのだ。

誰かが誰かに“やらせよう”という発想は、コミュニティ全体で“価値観の共有”のためには、真逆なことかもしれない。“やらせよう”が見え見えでは、コミュニティの多くの人が付いてくる訳もない。

“背中を見せる”とは、率先垂範だ。防災委員会が毎月、テーマを決めて訓練を行う。住民全体がその姿を見ている中で、年に1度・2度のマンション全体の防災訓練を企画した方がはるかに成功しやすい。防災訓練が全住民に課せられた非日常的な異様な光景に映ってしまうイベントではなく、訓練自体が見慣れたものであるほうが参加しやすい。何よりも訓練で磨かれた防災委員のきびきびした身のこなしや適切な指示に、感動さえ覚えるかもしれない。感動を足掛かりに“価値観の共有”につながるなら大成功なのだ。

コミュニティ形成のプロが関わる

ごく一部の大型マンションに限定されているが、分譲した売主が費用を負担し、引き渡し後からNPOなどがマンションコミュニティ関わるケースがある。

私自身、そのようなNPOで活躍している人々から教えてもらうことも多くある。このマンション元気ラボにも投稿していただいている。彼らは防災以上に、コミュニティ形成・子育て・社会福祉・男女共同参画などに長け、広いバックヤードを有するプロが多いのも事実だ。

新築マンションでは、初めて分譲マンションに入居される人も多いだろう。また、世代も幼稚園から小学生の子供がいる30歳代の家庭も多い。生活の背景や様式も似たような家庭も多く住み始め、子育てなどを中心に“価値観の共有”がしやすいのも事実だろう。設立総会後から、コミュニティ形成などのプロが音頭を取って、イベントやワークショップを始めていく。優秀なファシリテーターの登場だ。

教わる、指示を受けて何かをやるというような、多くの人が学校などで経験してきたこととは異なるコミュニケーションや楽しみ方をマンションコミュニティ全体が発見していくことになり、単に趣味でつながったり、お祭りを楽しむコミュニティから、解決型のコミュニティへとポテンシャルは高まりやすい。

ファシリテーターがよく扱うテーマが、“震災”だ。震災でマンションに被害が及べば、マンション住民全員が被災者になる。全員が当事者であり被災生活期をどう協力し乗り切るかという価値観でつながる領域だからだ。趣味や夏祭りなどのイベントは、楽しもうという価値観でつながっていても、あくまでも任意参加でしかない。サブ的には使えても、解決型コミュニティへの到達は難しい。

彼らの契約期間は引き渡し後から2・3年が一般的だが、彼らがいなくなっても“価値観を共有”し、自立できるコミュニティに成長していることも多いのは事実だ。

防災活動にお金がかかるのは当然

震災マニュアルを作成したので見て欲しいと言われることがある。根付いてしまった誤った知識の集大成になっているケースは実は多い。作っていただきたいのは“マンション”の震災マニュアルであって、マンションの特性や特殊性を念頭に入れずに世の中で言われてきた一般論でまとめてしまっているケースは多い。

あくまでも作成していくのは住民自身でなければならないが、防災だけでなくマンションにも精通したプロが初期段階では策定指針やフレームワークを示し、最終段階は監修や指摘を行うような体制は必要だろう。

震災マニュアルや防災組織を作る、また防災訓練を企画するのは大変素晴らしいことだし、否定もしないのだが、過ちや勘違いを住民に植え付けるようなことはしてはいけない。

もう一つは、マンションコミュニティとして、“価値観を共有”できなければ、いくら立派な震災マニュアルを作り、また訓練を企画しても、笛吹けど踊らずになってしまう。特に大規模のマンションでは、そんな傾向は強いかもしれない。まずは、住民に“やらせよう”という発想は捨て、率先垂範することはいうまでもないが、うまく“価値観の共有”を促すためにプロのコミットは必要になるはずだ。

ファシリテートを心得たプロがマンションにいれば良いかもしれないが、そのために費やす時間と労力は多大になる。また同じ住民であるというポジショニングが、難しさを生むこともあるかもしれない。

ワークショップでいえば、手始めに震災時の行動の間違いを指摘しあうディスカッションやマンションに特化はしてはいないが災害教材として使われている「クロスロード」というカードゲームを行うなど、防災机上訓練をコミュニティで行うのも良いかもしれない。

先ほどのNPOが関わる事例では、どっぷりと彼らが浸かり、かつ彼らのコンテンツをフルに活用していくことになるが、スポットで防災机上訓練等のワークショップを企画しファシリテートができるコンサルティングはいないわけではない。

一部の行政でも、管理組合に震災マニュアル作りのコンサルタントを無償で派遣しているケースもある。彼らの役割を考えれば、マンションのことを熟知し震災マニュアルにコミットできるソリューション型のコンサルタントとうことになる。それに加えて、マンション全体の“価値観の共有”を支援するファシリテート型のコンサルタントも欠かせないということだ。おそらく、同時にこなせる能力を持つ人はそうはいないだろう。
防災はわかるがマンションを理解していない、ソリューション型コンサルはできるがファシリテート型コンサルティングの心得がない、マンションも理解しソリューションの提供もファシリテートもできるなど、コンサルタントとしての人材は様々だ。
コンサルティングの予算を確保し、理事会や防災委員会で複数のコンサルタントからプログラムの提案を受け、またコミュニティに対しての考え方などをしっかりヒアリングし有償で依頼するのが手っ取り早い解決策かもしれない。

※クロスカード:URLを参照

http://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/torikumi/kth19005.htm

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