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2021.7.21

まさか!! 単年度赤字発生で「貧困管理組合」に転落

会計・資金

まさか!! 単年度赤字発生で「貧困管理組合」に転落

これは、私が新築時から住み続けているマンションの話だ。
実は、34年目にしてついに管理費会計が単年度赤字になってしまったのだ 。。

正確にいえば、来期予算の支出が収入を1千万円ほどオーバー。もちろん、決算ではなく、ある程度余裕を持っての予算でもあることを考えれば、単年度赤字が確定したわけではないのだが。

前期からの繰越金は4千万円以上あるので、仮に予算通りの決算になったとしても、次期繰越金が3千万円になるだけなのだが、このまま突き進めば、4年後には、金足らずの貧困管理組合に転落する恐れがないわけではない。

さて、この金足らず問題をどのように考えていけば良いのだろうか?

最初の15年間は、いざという時のために5千万円程度を前期繰越金として管理費会計の収入の部に組み入れ、5千万円を上回る剰余金は、確か毎年1千万円程度はあったと記憶しているが、修繕積立金会計に繰り入れていた。

その後の15年間は、修繕積立金への繰入額は500万円程度と少なくはなったが、健全な黒字体質を維持してきた。

修繕積立金は、管理費会計から繰り入れされた資金とは別に、段階的に改定も行い潤沢だ。2回の大規模修繕工事、エレベーターの更新工事も行い、また“ヴィンテージ化計画”に基づき植栽外構の改修工事やバリアフリーの改良工事など、3億円ほどかけてマンション価値を高める活動も推進してきた。もちろん、数年先に予定している給排水管更新工事や3回目の大規模修繕工事も長期修繕計画上は問題なくクリアーできる状態だ。

しかし、管理費会計の方は数年後に繰越金を喰いつくし、“真正”の赤字になってしまう可能性が出てきたということだ。

管理費会計が赤字になると、どうなる!?

修繕積立金が不足した場合は、当たり前だが適正なタイミングで改修工事ができなくなる。しかし、予防保全として、どこまで引き延ばしが可能なのかにもよるが、ただちに住めなくなるわけではない。もちろん、修繕積立金が不足していても良いという意味ではない。工事の資金不足に目をつむり続けてしまえば、手の施しようのない、とんでもない状態のマンションにもなってしまうからだ。引き延ばすのも、程度の問題ということだ。

さて、管理費会計が赤字になったら、どうなってしまうのだろう。

電気代を払えなくなれば2か月程度で共用部分の電気は止められる。電気がなければエレベーターは動かない。夜の共用廊下は真っ暗になる。管理会社に管理委託費を支払わなければ、当然なことだがサービスはストップされる。管理員や清掃員が出勤せず、定期点検も会計業務も停止する。早い話が、ただちに住めないマンションになってしまうということになる。

人の体でいえば、管理費会計は止まればすぐに重篤になってしまう心肺機能、修繕積立金会計はある程度の期間は我慢してもらえる肝機能のような関係なのだろう。

管理費会計のショート分を修繕積立金から借り入れるような処置をして急場をしのいでいる、いや継続的に修繕積立金から借り続けているマンションもないわけではない。肝臓に送るべき栄養分を、緊急避難として心肺機能の延命に利用するような話だ。

明らかにこれは、区分経理※1という当たり前なルールを無視した“やってはいけない”経営ということになる。

※1 区分経理:
1962年の区分所有法制定以来、すべての管理組合に求められる管理費会計と修繕積立金会計を区分して経理するという管理組合会計の基本ルール。

そんな経営になってしまいそうな予備軍的なマンションは意外と多い。

まず、その予兆は、単年度赤字から始まる。単年度赤字が何年か続き、ついに前期繰越金が底をつく。その結果、“真正”の赤字状態になり、資金繰りに窮するようになる。そして、修繕積立金に手を付けはじめるわけだ。

修繕積立金に手を付けだすと、だいたいはもう止まらない。
たとえば「政府だって赤字国債をたくさん発行しているのだから」と、行うべき工事を際限なく引き延ばし、管理費会計にお金を流し続ける。
あってはいけない状態が、疑問を持たずにあたりまえになってしまうこともあり得るのだ。

そして、区分経理はずたずたになってしまう。

なぜ、単年度赤字になってしまったのか!?

話を私のマンションに戻そう。入居して7年目ぐらいだったろうか、マンションにはこどもたちも増え、敷地内に自転車があふれかえった。駐輪場を増設し、無料だった駐輪場を有償にした。最初の1台を月額100円、2台目以降は200円・300円と累進加算する仕組みの料金形態を導入し台数の抑制もできた。駐輪場増設に要した工事費用は駐輪料金の5年分で回収ができ、今でも毎年200万円ほどの駐輪料金が管理費会計の収入になっている。

支出の削減では、管球類をすべてLEDに変更するなどして、年間1千万円を超えていた電気代を約半分まで圧縮でき、年間500万円ほど浮かせた。

電波障害対策費は、障害を与えていた近隣住戸が1千戸を超えていたこともあり、毎年500万円ほど発生していたが、地上デジタルの開始と同時に電波障害対策の事業者に1年かけて1件1件交渉をしてもらい、電波供給の打ち切りができた。管理費会計から電波障害対策費という科目自体がなくなった。

マンションの管理費会計の支出は、年間約1億円になる。駐輪料金の徴収・電気代の削減・電波障害対策費の消滅などで、支出の12%にあたる1千2百万円を浮かせることができたのだが、34期目にして単年度赤字の予算を作る羽目になってしまった。その原因とは、消費税・消費者物価の上昇・火災保険料の値上げだったのだ。

分譲時にはなかった消費税は、ついに10%になった。またこの30年余りで消費者物価も7.5%程度上昇。そして火災保険料も大幅に上がった。営繕工事費用も築年とともに徐々に増加し、全て合わせれば34年間で20%~25%程度、管理費会計を悪化させていることになる。

浮かせた1200百万円は、1億円に対して12%の貢献にあたるが、差し引き8%~13%程度は、悪化してしまったのだ。年間の支出1億円に対して、1千万円の赤字という、この約10%の収支マイナスは計算通りの当然な結果だ。

「管理費 安いです!」を中古マンション販売の売り文句にされてしまった!!

ある日、集合郵便受けに自分のマンションの中古販売のチラシが入っていた。

販売価格は新築時の60%程度の値付け。34年目のマンションでもあり、もっとマンションを管理面から磨いて、少しでも価値を上げようと管理組合も努力しているわけだから、今は致し方なしと思いつつも、とんでもない売り出し文句が、目が留まった。

「管理費 安いです!」である。

もう少し、私のマンションの概要を説明しておこう。500戸規模の14階建ての4棟からなる団地型マンション。水景やテニスコート、また機械式駐車場と異なりメンテナンス費用の心配がない自走式の駐車場棟。敷地は広く、桜や欅などの高木が、200本以上も生い茂り、野鳥や数種類のアゲハ蝶が舞う、緑豊かなマンションだ。自分で言うのも憚るが、そこそこのグレードの大規模マンションといえるだろう。

修繕積立金は、段階的に新築時の3倍程度まで値上げされたが、戸あたり月17,000円程度だから、国土交通省の長期修繕計画ガイドラインなどと比較しても、決して高すぎるわけではない。一方、管理費は新築当時のまま。戸あたり月8,000円程度だ。2019年の首都圏の新築マンションの戸あたり管理費の平均値が19,085円※2というから、半分以下の激安の管理費であることは確かだ。

※2 出典:(株)東京カンテイ 首都圏「マンションのランニング・コスト最新動向」より

「管理費 安いです!」で、中古マンションを選ぶような価値観をお持ちの方が、これから私のマンションにどんどん増えていったらどうなってしまうのだろうと、怖くなったのだ。

売り出し文句に「管理費 安いです!」がなくても、激安の管理費であることは確かだ。中古マンションを選ぶ側からみれば、マンションのグレードと比較しランニング費用にあたる管理費が割安ということは、安い分だけ毎月のローンの返済に回せるメリットが生まれる。1万円多く返済に回せるなら約2~300万円程度も借入れ限度額は上がる。年収が多少厳しくても、より高い中古マンションに手が届くようになる。

しかし、もっと賢明な人なら、管理組合の予算・決算を覗いて「なんだ安いから管理組合の管理費会計は赤字なんだ、グレードは申し分なかったが将来の厄介を背負い込みそうだから、購入は止めておこう」となる。そんな二極化が発生していくことに、はたと気付いて、恐くなったわけだ。

年金受給者にとって管理費の値上げは・・と躊躇する優しさがもたらすもの

私のマンションに住まう方は、65歳以上の方がほとんどだ。実際、私もそんな年代。築34年目なのだから、40歳で購入し、今は70歳代が中心なのだろう。中古で後から入居された何割かの若い世代は別にして、年金受給者がほとんど、ということだ。

とはいえ、現役時代はそれなりの企業などにお勤めしていた方も多く、コミュニティの中でお付き合いしてもバランスの取れた方がいたって多い。古いマンションの相談ごとによく出てくる派閥闘争やいがみ合いの構図も一切ない。途中から入居されてきた若い方も、積極的に管理組合活動に参加され、順調に世代交代も始まりつつある。そして何よりも、高齢者や年金受給者への共感力も強い素敵なコミュニティでもあるのだ。

さて、この共感力とは、管理費を値上げし経済的に負担を増やすのはかわいそう、という年金受給者に向けての“優しさ”でもある。しかし、時としてこの共感力は、マンションの持続可能性を失わせる“愚かさ”に代わってしまうことがあると思うのだ。

これからの5年・10年間を考えてみよう

管理費会計が赤字のマンションは問題だと判断ができる賢明な人物は買わなくなり、かたや管理費が安いことを魅力と思うような、マンション管理をあまり考えたことのない人物が、徐々に増えてくるのは確かだろう。

さて、そうなると管理組合活動に主体的に関りを持ってもらえるのだろうか?いや、管理費の安さに惹かれ、かつ承認欲求の強い人物だったら、率先して修繕積立金も管理費もすべて節約しようとして、今まで築いてきたマンションの価値をずたずたにしてしまうかもしれないと考えるのも、けして取り越し苦労とは言い切れないだろう。

お金も大切だが、価値観も大切だということ!

1千万円の不足に繰越金の余剰分を足して、1千500百万円を管理費会計で増やすとしよう。500世帯で割れば、戸あたり年間3万円、月額2,500円の管理費の値上げとなる。それでも、やっと月額の管理費が1万円を超える水準に過ぎない。

経年が進行すれば、経済的な問題は大きな問題になるのは当然のことだ。しかし、間違った価値観、困った価値観の方が、高齢者や年金受給者に対して、長い目で見れば優しくない現実を突きつけることになりかねないのだ。

大規模マンションというスケールメリットもあり月額8,000円の管理費で語り過ぎてしまったかもしれない。
月額2万円を超える管理費でも、すでに赤字だというような、もっと厳しい水準で悩んでいる管理組合の役員の方からすれば、うらやましい話かもしれない……。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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