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2021.8.31

“説明責任”──管理組合役員が果たすことの重要性とは!?

理事会・総会

“説明責任”──管理組合役員が果たすことの重要性とは!?

国会討論の場でよく出てくる“説明責任”ということば。輪番制で理事になることの多い管理組合には無関係のことばだと思われがちかもしれない。

しかし、管理組合は、さまざまな価値観や立場の異なる人の集まりだ。そんな管理組合で生じやすい紛争やトラブルは、もとをたどれば、この説明責任が、十分に果たされていなかったり、すっぽり意識から欠落してしまっていたために発生してしまうことが原因だったりするのだ。

あなたが理事長に選出されたとしよう。理事の互選で理事長になったとはいえ、管理組合員の総意で役割を任せられ、あなたは理事長の責務を受任したことになる。この辺りは、法律を解説するまでもなく理解できるだろう。

管理組合より委任(正確には準委任)され、受任したあなたには、業務の処理状況を報告し、また遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない※1という説明責任が生じる。

2020年に改定されたマンション管理の適正化法※2やこの法律の中にしばしば登場してくる基本方針※3では、実は説明責任ということばは出てこないのだが、管理組合の役員や理事長に就任したとたん、説明責任を果たすことの大切さを身に染みて感じる場面に出くわすことがあるのだ。

※1:民法第645条(受任者による報告)
法律行為以外の準委任においても適用されるものと解されています。
※2:以下「適正化法」という
※3:「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」(以下、「基本方針」という)は、適正化法の改正を受け、今までの「マンションの管理の適正化に関する指針」(以下、「適正化指針」という)を「基本的方針」の中に含めています。
なお、2021年8月現在、基本方針は国土交通省の原案であり正式なリリースは今後となります。また、本コラムでは従来の適正化指針から変更されていない内容を利用しています。

基本方針の行間を読むと“説明責任”の大切さが見えてくる

基本方針の中に“管理組合の自立性”について記載された部分がある。要約すると以下の3点となる。
①管理組合の自立性とは、区分所有者全員が参加し、その意見を反映することによりもたらされる
②そのためには、理事長等が情報開示や運営の透明化など、開かれた民主的な運営を行う必要がある
③理事長等は、最高意思決定機関である総会に向けて事前に必要な資料を整備し、総会で適切な判断がなされるよう配慮するべきである

私なりの言葉で行間を埋めてみると、管理組合の自立性とは、言うまでもなく区分所有者全員が自分事として管理組合に関わること。そんな前向きなコミュニティになるためには、まず管理組合の役員が情報開示や運営の透明化など、開かれた民主的な運営を心がけ、説明責任を果たすことが自立性を育むのだと、言えるのではないだろうか。

より具体的な例で考えると、重要な議案であれば事前の住民説明会の実施やその場で拾いきれなかった質問を書面で回答し全体に配布するなど、手を尽くして住民ファーストを実践せよということになるのだろう。

時々、「区分所有者が管理組合活動に無関心で困る。どうしたらよいか?」のような相談を受けることがある。

「頭ごなしに“関心を持て”と言い放っても人心は離れるだけ。偉ぶることなく、愚直にかつ丁寧に説明責任を果たすあなたの姿にこそ、多くの人が共感を覚える。あなた自身の信頼残高を増やすことで管理組合に自立性が芽生えるはず」、と申し上げたいのはやまやまだが、当の本人を目の前に置いて「あなた自身の“人間力”次第です」と言うようなものにも思え、相談の受け答えも窮するものだ。
もう少し具体的な事例で考えてみよう。

“説明責任”を事例から考えてみる

ある100戸規模のマンションで、屋上に携帯電話のアンテナ基地局を設置する話が盛り上がった。管理費会計が赤字気味でもあったことから、年間260万円の賃料が管理組合の収入として入ってくることは大いに魅力的な話だ。理事会に諮り、定期総会で設置についての議案を上げることにした。

しかし、議案書を配布するや最上階の住民数名から理事長あてに反対の手紙や電話が入った。
「電波の健康被害が心配だ!やめて欲しい」
「アンテナの架台も含め相当な重量になる。地震などで屋根が落ちたらとんでもない!」など、反対意見が4世帯ほどから上がってきた。

理事長としては、なんとかこの決議を通したい。当初は普通決議で総会議案書を配布していたが、ほとんどが賛成に回るであろうことから特別決議に変更し、議案の重みを理解してもらうべきであると考えた。しかし、すでに総会開催日の直前。決議方法を変更するための理事会を開催する時間がないこともあり、理事全員の同意を書面で取り、総会を開催する運びとした。

「アンテナ基地局の設置の議案は、普通決議でご案内しておりましたが、より多くの方のご理解を求めるために特別決議に変更し、採決します。なお、決議方法の変更については理事全員の書面にて決議させていただきました」と、宣言するやいなや反対派から以下のような意見が出てしまった。

①そもそもアンテナの設置は普通決議で済む話だが、総会当日に特別決議に変更するのは、反対派の我々を封じ込める気か?
②決議方法の変更について、理事全員同意の書面を取ったとはいえ、理事会を開催しないで決議したとは、果たしてそんなやり方が認められるのか?
結局、総会は大荒れとなり中断。その他の議案もできずじまいとなってしまった。

さて、反対派の意見から考えていこう。

総会当日に普通決議から特別決議は?

アンテナの設置は、形状および効用の著しい変更を伴わないと解釈され普通決議で足りる。(札幌地裁判例より)反対者が言うようにこの議案は普通決議で済むのだ。

一方で理事会で決議した場合は特別決議とすることはできるのだが、当日に普通決議で案内していたものを特別決議に変更しますと言われてしまっては、特別決議なら委任状や議決権行使書ではなく実際に総会に出て審議の行く先を見届けたいという人もいることだろう。

また、特別決議ならば議案の内容や要領など、詳細なものを事前に配布するなどの配慮も必要になる。健康被害や重量負荷などの資料も出されていないことを考えると、情報開示は不十分だろう。

“我々を封じ込める”という発言から、いささか飛躍ではといわれるかもしれないが、特別決議で決めたことだから「一部の組合員の権利に特別の影響を与える場合は、その同意が必要」という“特別の影響”を主張しづらくさせるという意図ではないかと、勘繰らせてしまったのかもしれない。もしそうならば、感情的なこじれも生じてしまいそうだ。

とはいえ、“特別の影響”にあたるかは、総務省の電波保護指針に基づき規定内で設置されること。今や生活空間のほとんどをあらゆる電波が飛び交っている中で、特別の影響を立証することは難しく、受忍限度内ということになるだろう。また、設置の安全性については事業者の方で図面や重量計算をしたうえで設置許可を取得している。それらの資料を議案に添付し真摯に説明すれば、足りる話でもあるように思えるのだ。

情報開示が不十分で、総会当日になって突然、特別決議に変更しますでは、不信感やあらぬ誤解も生じかねないということだろう。

理事会を書面決議で済ますことができる?

総会は全員同意で書面決議(区分所有法45条)はできる。類推的に応用すれば理事会でも全員同意で書面決議ができるものと思いがちだが、それはNOなのだ。区分所有法では法人化していない管理組合の理事の規定はない。標準管理規約から読み取ることになるのだが、そもそも総会で選任された理事には、管理組合のために理事会の場でしっかり議論を尽くしてもらうことが期待されているからだ。

今回のケースでは、理事会を開催し文殊の知恵を導き出せたら、開示する資料が不足し反対意見につながったかもしれないなどの反省点が浮き彫りになったり、また 特別な影響の主張の対抗策として特別決議にすることの意味はなく、かえって誤解や感情論に発展するなどの冷静な意見も出てきたかもしれない。

最新の標準管理規約の見直しは2021年6月だったが、そのひとつ前の2016年の改定で、管理規約第53条2項に「理事の過半数の承諾があるときは、書面及び電磁的方法による決議によることができる」と追加された。ちょうど電磁的方法を体系的にまとめたタイミングだ。ただし、書面決議ができるとはいっても、専用部分の修繕の許可や窓ガラスなどの一部の専用使用部分の許可など、範囲は極めて限定的な議案のみとなっている。

その他の管理運営に関わるものは、理事会の場でしっかり議論を尽くすことを求める精神は変わってはいないのだ。

もっと住民ファーストを丁寧に!

アンテナ基地局の設置は、実は、設置する・しないだけの議論ではない。
①管理組合が収益事業を行うことになり、管理費会計・修繕積立金会計に加え、収益事業会計を新設するかどうか、また科目だけの新設でいいのかなどの検討が必要。
②管理組合に納税の義務が生じるなど、住民に周知する必要がある。
③納税には、税務申告を税理士にあらかじめ誰にいくらで依頼するかを総会で決めておく必要がある。
④収益事業や屋上の利用方法など、管理規約等の変更を行う必要がある。
⑤期中に賃料が見込まれるなら、予算の修正案も総会で説明する必要がある。
考え方によっては、一部省いても良いものもあるだろうが、住民ファーストで丁寧に進めて行くなら、広い視点で理事会で議論すべきだし、それが“説明責任”につながるということなのだ。

確かに、マンション管理を体系的に学び、専門性を身につけなければ、丁寧に“説明責任”を果たすことは難しいだろう。

管理委託契約の範囲内とはなろうが管理会社の担当者の知恵を引き出す謙虚さやマンション管理士などの専門家に理事会のサポート役を依頼するという発想も必要になるのかもしれない。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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