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2019.12.18

「北海道胆振東部地震を踏まえて-都市型“震災”の正しい備えと知識」札幌でセミナーを開催

「北海道胆振東部地震を踏まえて-都市型“震災”の正しい備えと知識」札幌でセミナーを開催

11月6日(水)、札幌グランドホテル(札幌市中央区)において、札幌市都心部のビル、マンションオーナーなどで構成する「中央地区町内会連合会」主催の勉強会が開催され、丸山肇(マンション管理士/大和ライフネクスト株式会社)が「北海道胆振東部地震を踏まえて-都市型“震災”の正しい備えと知識」と題したセミナーを行いました。

第1部は「間違いだらけの防災知識」というテーマのもと、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7、最大震度7)の実態を振り返りながら、北海道の気候や、ビル・マンションといった建物の特徴がもたらす地震被害の危険性を説明しました。

同地震では、震源地付近で大規模な山崩れが発生。震度5強を観測した札幌市清田区では液状化現象が起こりました。中でも特徴的だったのは、離島を除くほぼ道内全域で発生した停電。いわゆる「ブラックアウト」の状態となり、完全復旧までに1週間以上を要する異例の事態となりました。

マンションやビルには「高さ」という特徴があり、これには強みも弱みもあります。弱みの克服するには、エレベーターやポンプなどを動かすための電力が欠かせません。また寒さの厳しい冬季に今回のような大規模停電が発生すると暖房が確保できず、現在想定されている月寒断層の凍死者数を大きく超える可能性を指摘しました。

「寒冷地である北海道は、震災後の停電に伴う凍死の危険性などもあり、地震に弱い地域といえる。防災対策では、環境や状況を想定し、常日頃から起こりうる危険とその対処を考えておくことが大切。北海道胆振東部地震の教訓を生かして、今のうちから災害時のシミュレーションをしてほしい」と参加者に説きました。

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第2部は「ビジネス・観光の中心 札幌都心の防災心得」と題した講義が展開されました。札幌市は他都市と比較し、60代以上の転入者数が極めて多い都市。充実した医療環境を目的として道内からの高齢者が転入している可能性も考えられ、高齢化は加速しています。マンションの空家率も11.0%(2017年「ニッセイ基礎研究所調査」)となっているとのこと。丸山はこの現実が、他の大都市圏同様に「高齢化→空き家の増加→災害時の安否確認やコミュニティ内での連携の困難」という防災上の問題を引き起こす流れになるという危険性を指摘しました。

また月寒断層付近で発生する大地震の札幌市の被害想定では、交通障害による帰宅困難者が冬季には83,000人以上とされています。しかし札幌市は、13.3万人×2日分の食料を備蓄するなど、同じ観光都市である京都市などと比較しても、防災に対する備えが進んでいると評価したうえで、都市部では自治体のみならず企業防災という観点も重要であることを説明しました。

さらに「札幌の強みは、徒歩で帰宅できる範囲に住んでいる人が多いこと。安全性や交通障害にならないように帰宅を開始するタイミングも重要になるが、地下鉄沿線が住まいなら徒歩での帰宅は可能な距離。企業で社員全員分の食料や毛布などを用意しておくのが理想かもしれないが、まずは遠方に住み、徒歩で帰れないという社員数の2割増し程度の防災備蓄を行う。また、帰宅開始の判断基準を会社として確認しておくなどの対策は進めておくべき」と語り、防災の基本である「まず、できるところからスタートする」という意識を企業として持つことの重要さを力説しました。

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休憩時間中にはアルファ米をはじめとした災害用備蓄食品の試食も行われました。

約2時間のセミナーを通して丸山は「防災対策では、やらなければならないと言われていることが多く、どこから手をつけてよいのかわからないと思われがち。しかし大切なのは、一般論に縛られるのではなく、自分自身の住まいやオフィスの特性を踏まえ、被害を想定し、どんな防災をすべきかを自分で考えることです」と参加者に語りかけ、一人ひとりの防災意識の高まりが、防災力のあるコミュニティ、ひいては街全体を発展させることにつながると強調し、参加者の共感を得ていました。

この記事の取材者

杉崎孝志