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2019.4.26

管理組合を株式会社化。「ハピネスタワー」という妄想

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コミュニティ

管理組合を株式会社化。「ハピネスタワー」という妄想

管理組合が頭を悩ます問題の代表例は、役員の成り手不足と修繕積立金の不足ではなかろうか。どちらの問題もマンション居住者の高齢化が深刻さに拍車をかける。

管理組合の役員を、輪番制で決めているところも多い。管理規約で役員就任要件を「同居する親族」まで広げたとしても、ご夫婦そろってご高齢なら役員就任を断られることはよくある。あるいは、仕方なく役員を引き受けたとしても、理事会のさまざまな議論についていけない方もおられるという。とはいえ、若い世代に引き受けてもらいたくても「仕事が忙しい」「育児中だから」という理由から、協力もなかなか難しい。

また、役員のなり手問題ばかりではなく、修繕積立金の資金計画を「段階増額方式」としている管理組合も多いことだろう。この段階増額方式とは、数年に一度、修繕積立金を改定し値上げしていくことで、計画修繕の費用をまかなうという仕組み。しかしこの方式の落とし穴だが、築30年を越えるマンションでは、年金受給者が増え、3回目の大規模修繕工事(仮に12年に1回の工事実施と考えると、36年目)に向けた修繕積立金の値上げは、消極的になってしまうところにある。

現在のところ、分譲マンションにはそうしたさまざまな課題が積載しているのも事実。管理会社はその問題をどう解決していくかが手腕を問われる時代になるだろう。

その事実の解決にはまだ時間が必要であるし、または新たな選択肢としてこんなことが実現したら魅力的ではないか──という未来図を描いてみたので語ってみたい。

今回お話するその未来予想図とは、気の置けない女友達たちと理想のマンションについて語り合ったことで浮上した夢物語だ。

仲間の一人がこう言ったのだ。「みんなで出資して、お気に入りの場所にマンションを建てられたら将来も楽しいだろうねぇ」──。要は、気心の知れない他人が集合するマンションではなく、仲間だけで構成されたマンションという事業内容だ。

発案者の彼女の中では、実はマンション名も決まっていた。その名も「ハピネスタワー」。さてここからは、「ハピネスタワー」妄想委員会……仲間内で盛り上がるという構図にお付き合いいただきたい。

発起人の彼女の頭の中にはすでに建設候補地があった。彼女は自宅近くにある古いビルの跡地を狙っている。遠くない将来、自分がその土地を購入させてもらうことを想定し、早くも交渉がしやすいポジションにつこうと地主と思われるおじいさんへ毎日挨拶をし続け、最近は立ち話をする仲になったという。すでに夢への一歩を踏み出しているようなのだ。

さらに彼女はこう続ける。「仲良し同士なら、お互い気兼ねなく子どもを見てもらえていいよね。それにわざわざ約束しなくても家飲みでいいからすぐに集まれる」。その具体的なイメージに、私をはじめとする仲間たちも掻き立てられ妄想は加速する。

「温泉を掘ろうか! 1千メートルぐらい掘ったら出るらしいよ。それが無理なら大浴場を作りたい。一般客にも開放して、私がおばあさんになったら番台に座って店番するから!」

「オシャレなカフェがあるといいな」

「空いた部屋は賃貸に出してもいいね、うちの家族、不動産屋だから仲介できるよ」

「資金面はなら出資先見つけてくる。運営のコンサルはあの人にお願いしよう」

「クリニックもほしいよね。知り合いの伝手でクリニックを誘致できるかな」

まさに「ハピネスタワー」という名のとおり、みんなのハピネスを詰め込みすぎて、シミュレーションゲームのように妄想のタワーはみるみるうちに高層階まで建ちあがった。

その語り合いの最中、私はふと、友人たちのその姿に運営が活発な管理組合の姿が重なった。(自分の住む建物を、こんな風に自分事として、夢も含めて議論し合えたら素晴らしいのにな)

それはこんな形で事業モデルのヒントを得た。「株式会社化」にしたらどうだろうかと。

株式会社化にすることで、マンションは「事業」として積極的に収益をあげ、コミュニティを育てていけるのではないかいうイメージだ。

現行、管理組合の修繕積立金は区分所有者全員から集めた資金であるという点から、元本割れしない運用商品が好まれのが一般的だ。しかし株式会社化して収益が出れば、積極的な資金運用も可能になる。マンション全体が利益体質となれば、修繕積立金の値上げは最低限に抑えられると試算できる。

また、副産物として注目すべきは、各自が得意分野を活かした事業を展開できるということ。やらされるのではなく、自分を活かした「仕事」として自分のマンションを活気づけられるとあらば、誰しも俄然前のめりになるのではないだろうか。そう遠くない将来、ワークもライフも境目は曖昧になるだろうとの見立て。これからは個としてフリーランスの働き方が広がり、副業も珍しくなくなるだろう。ひとつの会社に常時勤めずに生計を立てる人が出てきてもおかしくない。すでにどこにいても仕事ができるという発想とシステムを取り入れている会社もある。加えて人生100年時代、高齢者でも得意分野で力を発揮してくれる人はたくさんいるはずだ。

そのようなことを考えている間に、発起人の彼女が代表取締役社長、その社長の次にノリノリだった友人は立候補で副社長に、もう一名の友人は営業部長への就任が決まっていた。譲り合いやくじ引きではないのが、輪番制の管理組合役員決めとは異なる光景だ。事業に参画したい者が手をあげ、そこに義務感はない。本来、自分でやりたいというハートこそが理想であるはずなのだ。

こうして私もハピネスタワー計画の参画者となったわけだが、自分には何ができるのか少し考えてしまった。たとえ株式会社化したとしても、共同住宅なら管理規約があり、決算資料を作成し、共用部分の点検や清掃の発注などもしなければならない。一部をアウトソーシングしつつ、ご意見番として裏方の事務全般を引き受けることなら私にもできそうだ。「私は事務のおばさんをするよ」と言ってみたところ、妄想で盛り上がっていた友人たちからは、すかさず「いやいやお局でしょ」というツッコミにあったが。ハピネスタワーという妄想が現実になるまで、「お局」就任を目指して、管理ノウハウを磨こうと思う。

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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