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2019.12.17

「大震災が来る」のに、リアリティーが持てない心理

防犯・防災

「大震災が来る」のに、リアリティーが持てない心理

マンションは大都市に集中している。
その大都市を直撃するのが、首都直下地震や南海トラフ地震だ。
その発生確率は30年以内に70%と発表されている。それが現実となれば、その被害は計り知れない。しかし、わかっていながら、防災を行動に移せないマンション住民は多い。「まだ来ないだろう」という過信から来るものなのか。いつかはやってくると頭でわかっていても準備を後回しにしてしまう、その心理を探る。

首都直下地震、30年以内に70%の根拠

巨大地震の発生確率は70%といわれているが、その数字がどんな根拠で割り出されているのかあまり知られていない。しかも70%という数字が微妙だ。来る確率は高そうだけれど、確実に来ると断定されたものではない。そのあたりが、リアリティーが持てない理由かもしれない。
ではその根拠を少し解説しよう。
首都直下地震は、元禄関東地震(1703年)と関東大震災(1923年)の間の220年間にM7程度の地震が8回も発生している。つまりその平均間隔は27.5年であり、数学的に確率計算を行うと30年以内に70%の確率で発生する、となるのだ。近年は直下型ではなかったが、1987年に千葉東方沖M6.7が発生している。この地震から、すでに30年が経過している。
熊本地震や北海道胆振東部地震のような、震度7クラスの内陸型地震が首都圏で発生すると、世界ランキング1位の人口密度の東京や横浜(4,500人/km2 ※1)はどうなるだろう。経済を支える通信・交通などの高度なインフラが崩壊する可能性は十分にある。高度成長期に張り巡らせた水道管も、すでに老朽化しており、大都市全体の復旧には長期間を要すかもしれない。国家基盤を揺るがす大災害にもなりかねないのだ。
しかし、それがわかっていながらも、自分ごとにできないまま、ついつい日々の生活に忙殺されてしまっているのが現状だ。

※1データ:「Demographia World Urban Areas & Population Projections」(2018年4月更新)

人間はそもそも、備えをしないように作られている!?

東日本大震災では、甚大な被害に見舞われた街の状況がニュースで繰り返し放送された。あれから7年経った今でも、当時の映像と共に、ご家族を失った方の悲痛な声、未だ先の見えない生活復興に苦労する姿が報道される。
地震大国・日本であれば、自分や家族に降りかかる災いがいつ来てもおかしくないのだが、備えの意識は希薄。しかし、実はそれが正常な脳の働きだという見方もあるのだ。
「備え」を行動に移せば、当然、エネルギーを消耗する。震災被害を想定すること自体、ストレスも溜まる。だから、緊急でないなら今は考えなくても良いと潜在意識がブレーキを踏む。これは、ストレスから自分を守る自然な防衛本能であり、「正常性バイアス」というものだ。自分にとって都合の悪い情報を無視し、「自分は大丈夫」とリスクを過小評価する。押し迫る津波が見えているのに、逃げないでスマホで撮影を続け逃げ遅れてしまうのも、正常性バイアスによるものだろう。

これと似た認知バイアスの一種に「リスキーシフト」というものがある。昔懐かしいツービートの漫才でビートたけしの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」だ。「誰も防災の準備をしていないようだから、自分もしなくて大丈夫」という感覚に、多くのマンション住民は支配されている。

人だけでなく、企業にも「リスキーシフト」は起こっている。例えば、企業の事業継続計画(以下、BCP)を見てもそうだ。ちなみにBCPとは、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」のこと。企業におけるリスキーシフトが顕著にみられるのは、BCP策定が2011年の東日本大震災ではなく、2013年の日本工業規格でBCPが定められたことに反応し、渋々着手した企業も少なくはない、という点であろう。

「正常性バイアス」や「リスキーシフト」が正常な脳の働きとはいえ、一旦そのバイアスをはずし、改めて「防災」を考えてみるべきである。

防災の目的は、「生活復興」にある

とはいえ、「なぜ、何のための防災なのか」という点だ。
防災の第一の目的は、命や体を守ることだが、その後の生活復興をスムーズに行えるようにすることにもある。
東日本大震災後の3年間で1,400社余りが災害関連倒産に至り、その負債総額は1兆5千億円。多くの人が職場と収入を失った。

大変なのは被災後の「生活復興」なのだ。
マンションは「堅牢」という強みがあり、新耐震基準の建物であれば、ただちに倒壊はしない。仮に、至る所でコンクリートに亀裂が発生したとしても、建物が崩れ押しつぶされるような惨事にはならないのだが、揺れの大きさによっては家財が一瞬で災害ゴミに変わる。震災後、生活をスタートさせるため再調達コストは数百万円になるだろう。

さらに、マンションの復旧費用も、大規模修繕工事の1回・2回分のコストになることがあるかもしれない。最悪の場合、倒壊は免れたとしても、構造部分に致命的なダメージがあれば、取り壊しも余儀なくされる。事実、熊本地震では、新耐震基準でありながらも取り壊しに至ったマンションもある。

防災の目的とは、自分や家族の生活を立て直す「人生最大の試練」への準備といえないだろうか。そのためには、まず、発災期にケガをせず、被災生活期に病気にならないことが最低条件なのだろう。だからこそ、はやく、バイアスをはずし「防災」を真剣に考えていくべきなのだ。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。現在は、マンションみらい価値研究所にて、マンション元気ラボ主筆コラムニストとして活動。

丸山 肇

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