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2020.6.1

「ヴィンテージマンション」と呼ばせる、デザイン経営

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「ヴィンテージマンション」と呼ばせる、デザイン経営

「古民家」「アンティーク」「レトロビル」「近代建築」――こんなワードに惹かれる人は少なくないだろう。

築年が古くても、中古市場に出てくればすぐに売れる建物がある。感度の高い若者が憧れ、その古さがカッコいい「ヴィンテージマンション」と呼ばれる建物だ。

また、インターネットで検索してみると、専用のサイトも多数ありその人気は確かなよう。しかも特徴的なのが、多くの物件がハイセンスなショップが建ち並ぶ人気エリアであったり、築浅マンションよりも立地条件が優れ、広い敷地を有していたりする。植栽も手入れが行き届き趣があり小綺麗で、外観の装飾は、なかなかお目にかかれないような特注・お値打ちの建材を使用するなど、デザインの細部にまでこだわっている。中には著名な建築家が設計したものも。時代を経てもなお色あせない魅力を醸し出しているのだ。

一方で「リノベーション」市場も活況を見せている。専有部分のフルリノベーションなど、テレビや雑誌で特集され、新築マンションでは叶えられない自分好みの居住空間をつくれる点が魅力だ。

しかし、先の「ヴィンテージマンション」とは同等では語れない。どういうことかというと、ヴィンテージマンションは、外観部も含めヴィンテージとしての美しさ、カッコ良さを備えている。それに対し「リノベーション」は、区分所有建物であれば、1棟まるごとリノベーションされるケースは少ない。それは、区分所有建物という特性上、建物の外装など共用部分には手は付けられないからだ。専有部分内の「リノベーション」に留まるのが常だ。

私自身も古きよきものに惹かれる。しかし、築古であっても建築物として魅力を感じるマンションというものにはなかなか出会うことが少ない。空きが出ればすぐに売れ、誰もが憧れる人気の「ヴィンテージマンション」にする方法はないのだろうか?それが、今、私が一番興味のあることだ。

「築古」を「ヴィンテージマンション」にするために

例えば「ヴィンテージマンション」へのプランニングをするために、
こんな一般的な中古マンションを例題にあげてみる。
<物件概要>
●築年数/25年
●徒歩分数/「○○」駅より徒歩10分
●総戸数/90戸(10階と8階の2棟構成)
●用途地域/住居専用地域
●駐車場/機械式駐車場

仮想の物件は、マンションや戸建てが建ち並ぶ閑静な住宅街。そのエリアにランドマーク的な10階と8階の2棟構成のマンションだが、建物形状は昔ながらのいわゆる「ようかん型」。外壁はベージュ色の塗装が施され、近隣マンションと類似しており特徴のない普通のマンションである。また、機械式駐車場付きだが、車離れが加速し、今は空き区画が目立ってきている。

まず、“デザイン経営”という観点で考えてみる。マンションの顔であるエントランスには、アンティーク調のタイルを配置してみるのはどうだろう。それにあわせて外壁の色は、普通っぽさが拭えなかったべージュをやめ、館銘板にはヴィンテージっぽさのあるものをセレクト。案内板、室名札などを、アルミから鋳物の重厚感のあるものに交換するだけでもグッと雰囲気が良くなるかもしれない。

外観の重要な要素となる外構廻りのプランニングでは、機械式駐車場は一部撤去。その跡地にはシンボルツリーを植えて瑞々しさを演出しよう。外構塀にはツル性の植物をはわせて季節ごとの変化、経年ごとの成長を住民で楽しむのもいい。

限られた資金でできることを考える

考え出すといろいろなアイデアが出てくるが、ここで直面するのがやはり資金問題だ。

高経年マンションで潤沢な資金がある管理組合はほんの一握り。大規模修繕工事のタイミングで大幅にリニューアルできればいいが、築20年を超えると、給排水管改修工事、エレベーターリニューアルなど、大型工事が目白押しでどこも資金計画は厳しい。

しかし防水性能の確保やコンクリートの保護といった機能回復を目的とした修繕だけでは、平凡で古いだけのあまり魅力を感じられないマンションのままだ。優先付けをしながら長期的な観点でリニューアルを進める方法を考えてみよう。

「ヴィンテージ化」計画をもとに、修繕に継続性を持たせるためには、管理組合としてデザインコンセプトを定め、合意しておくのはどうだろうか。コンセプト決定にあたっては大規模修繕工事のように専門委員を募集する。修繕委員募集ではなくデザイナー募集とすれば、意外とそんなことに興味のある、または仕事にしている居住者がいるかもしれない。

「ヴィンテージ」というデザインの基本方針を軸に今後の改修仕様を検討していく。あまり魅力を感じられない高経年マンションにも、ヴィンテージマンションへの道筋が見えてくるのではないだろうか。

マンション管理にデザイン経営の視点をとりいれる

管理組合が、デザインコンセプトをもとに修繕を継続的に行う。これは2018年に経済産業省が発表した「デザイン経営宣言」に通じているといえる。

デザイン経営とは、デザインを企業価値の向上のために重要な経営資源として活用することである。ここでいうデザインとは、製品の外観を好感度の高いものにするだけではなく、企業が大切にしている価値、それを表現しようとする営みを指しており、顧客が企業と接点を持つあらゆる体験にその価値や意思を徹底させ、それが一貫してメッセージとして伝わることで、ほかの企業にはないブランド価値を生み出すことにつながっていくというものだ。

Appleやダイソン、良品計画、Airbnbなど多くの企業がデザインに投資をし、それにより大きなリターンを得ている。

管理組合によるデザイン経営とは、管理組合がデザインをマンションの資産価値の重要な要素とする意思を持ち、定めたデザインコンセプトを軸に修繕や改修仕様をコーディネートしていくことだ。それを実施することにより、「ヴィンテージマンション」という新たな価値を備え、快適な暮らしを実現することができ、資産価値の向上につながる。

デザイン経営で生まれる新しい資産価値

これまで建物の外観のデザインについて述べてきたが、デザインとは形あるものだけを指すのではない。
住まいがどんな場所であってほしいのか、どんなライフスタイルの人が暮らしているマンションなのか、そこにどんなコミュニティが存在するのか、それ自体をブランディングするのもありかもしれない。建物だけでなく、コミュニティをデザインするという視点だ。

マンションといえば、多様な価値観を持った人が一つの資産を共有している。それゆえニーズもさまざまで、時に管理組合運営がうまくいかなかったり、トラブルが生じたりということもある。

「デザイン経営」によりマンションをブランディングすることで、そこに共感する似た価値観をもった人たちが集まり、理想の住まいを描きながら管理組合運営に参加する。

高経年マンションにとって、建物の老朽化と居住者の高齢化は避けられない問題である。また、容積率や仮住まいの問題で建替えの合意形成をとるのは非常にハードルが高く、成功事例は数少ないのが現状だ。だからこそ、時を重ね育まれた暮らしを「独自の個性」として魅せるアプローチを追求することが、区分所有者にとっても社会にとっても、マンションを負の遺産にさせないための一つの道筋につながる。

きちんとメンテナンスすれば、建物は100年でも暮らせる。デザイン経営を推進することで、若い世代が管理組合運営に参加するきっかけになるかもしれないし、困ったときに助け合えるコミュニティが築けるかもしれない。さらには子や孫の世代が、また戻ってきたいと思う住まいづくりにつながるかもしれない。いや、それよりもなにより、自分自身、せっかくならいつまでもここで暮らしたいと思えるマンションにするべき。

だからこそ、いま、デザイン経営の有無が今後の在り方を大きく左右すると思うのだ。

この記事の執筆者

堤田 有紀子

一級建築施工管理技士、管理業務主任者。営業職を経験後、2008年大和ライフネクストに入社。技術部門で長期修繕計画の積算・作成業務に従事。現在は西日本エリアのリーダーとして、メンバーの教育や長期修繕計画の提案サポートを行っている。

堤田 有紀子

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