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2021.5.10

マンション管理の危機を回避させる“3つの言葉”とは!?

マンションを取り巻くリスク

マンション管理の危機を回避させる“3つの言葉”とは!?

“言葉”で危機を回避できるのか

何かを“言葉”にして唱えるだけで、マンションや管理組合の危機が回避されるなどとは誰も思いはしない。

しかし、そこを敢えて、魔法のような“唱える言葉”は、ないものかと考えてみたいと思った。最初にそう思ったのは、令和の年号の由来もそうだが、日本には万葉の時代から“言霊”という考え方があるからだ。

柿本人麻呂が詠った「言霊の幸ふ国(ことだまのさきわふくに)」が、まさにそれだ。

これは、言葉の力で幸せがもたらされる国、それが日本なのだという意味の和歌。
「あなたは幸せになるだろう」と言えば、その言葉の作用によって、その人は実際に幸せになる、そんな生活に染み付いた日本の宗教観めいたものは今でも残っている。
簡潔で覚えの良い“言葉”が、「言霊の幸(さきわ)ふマンション」として、あらゆる危機からマンションや管理組合を救い、幸福をもたらしてくれるなら、ぜひあやかりたいものだと思う。

そもそもマンションの危機って、なんだろう?

マンションに入居した当初は、あまり危機らしき問題は浮上して来ない。あっても、共同住宅での暮らし方に慣れるまで、音やゴミ出し、落下したら危険と知らずにバルコニーに布団をかけて干してしまうなど、エチケットにかかわる問題がある程度かもしれない。もちろんルールを守らないのは大問題で、それが原因で訴訟まで発展してしまうこともある。しかし、これらは“危機”というよりは“トラブル”の類だろう。

10年、20年と徐々に歳を重ね40年・50年に至ったころには、深刻な問題が山積みになってしまうことも多い。マンションの危機に直面してしまうということだ。
● 資金が不足し修繕費だけでなく、日常の管理のためのお金も事欠く
● 住民のみんなが歳を取り、理事を引き受ける人がだれもいなくなった
● 空家が増加し、相続放棄で管理費等を請求する先がいなくなってしまった
これらは、住まいとしてマンションの存続そのものが危ぶまれる深刻さともいえるだろう。

しかし、これらの危機に直面しても、実際は気付いていない、いや気付こうとしない区分所有者が多いのも事実なのだ。仮に何とかしようと動き出す人が現れても、さまざまな個人の想いや意見、経済的事情などに阻まれ、調整ができないことも多い。

極論をいえば、その先には何も手を付けられないまま時が過ぎ、住むに住めないマンションになってしまう可能性だってあるのだ。

この手のマンション問題に敏感な一部の自治体では、自治体が事前に調査を行い、そんなマンションをピックアップし、支援できる専門家を無償で派遣しているケースもある。しかし、いくら専門家が頑張ったところで、自分たちで解決すべき問題であると認識しなければ、危機からの脱出は困難なのだ。

3つの言葉とは? そして、唱えるとは?

唱えるべき3つの言葉とは何かは、前段にヒントを書いている。すでにひらめいた読者も多いと思う。

●「危機に直面しても気付いていない、いや気付こうとしない区分所有者が多い」とは、所有する者の“主体性”なしに物事は前に進まないということ。
● 「さまざまな意見や個人の事情に阻まれ、調整ができない」とは、“多様性”を理解しなければ合意形成を築けないということ。
●「住むに住めないマンションになってしまう」とは“持続可能性”が失われればすべてを失うということ。

この、主体性・多様性・持続可能性という3つの言葉なのだ。

とはいえ、“唱える”という使い方を不思議に思う読者もいるだろう。
魔法の呪文のように唱えればなんとかなるというわけではない。ここでいう“唱える”とは、社会に対しても自分に対しても、責任をもって生き続ける以上は、その言葉を深掘りして行動に移すということだ。“唱える”とは、自分自身の行動を変えて危機を乗り越えようという、極めて能動的な意味だ。

私もこれまでに、危険信号の灯った管理組合をいくつか見てきた。

区分所有建物は、法律や権利関係、手続きなど、いささか難解なことや面倒なことは多い。通常であれば、それらについて十分な説明を尽くさずに総会で何かを決めようとしても賛同は得られない。仮にそれで可決してしまったら、だれも主体性を持っていないという証になってしまう。そもそも説明責任を全うしないことが、区分所有者の主体性を減退させてしまう要因にもなる。議案について十分な説明がなされないまま可決される状況が常態化していけば、主体性はさらに失われていってしまう。

また、区分所有者が全員同じ価値観を持っているわけはなく、人により生活様式も経済的な事情も異なる。古いマンションほど年金受給者である高齢者は増え、資金不足をわかっていても、支出できるお金の余裕がなくなる。今までこれでマンションを維持し生活できていたのだから、これからもずーっとこのままでやっていけるはずだ、という裏付けのない楽観論を持続可能性とすり替えたくなる心理も働く。

しかし、そんな場合にも、3つの言葉を唱えるのが他人では意味はない。あくまで区分所有者自身が、
● 私たちの“主体性”とはなにか?
● “多様性”を尊重しつつ合意を導くにはどうしたら良いか?
● マンションとして目指すべき“持続可能性”とはどういうことか?
と、これらのことを全員で考え、話し合い、行動に移すことしか、危機から脱する道はないのだ。

すでに日本社会は、ストックに転換されている

かつての日本において、戦後の住宅不足や人口増加の時代に住宅を増やすことは、確かに大切だった。建築基準法は、建築の最低基準を定めたものにすぎないのだが、当時は建築基準法を守って作った建物と言われれば、高品質のように錯覚してしまう人も多かったかもしれない。
住宅がダブつき始め、今はすでに空家が13.1%を占めるにまで至った。住宅を増やす時代が終わり、安心・安全で継続可能な生活のための“住生活”の時代であることは間違いない。すでに日本の社会は新築からストックに転換している。そんな宣言をしたのが、住生活基本法ということになるのだが、ストックに持続可能性を見出す意識はまだまだ低い。

先日、世田谷区の第4次住宅整備方針(素案)のシンポジウムを覗いてきた。世田谷区らしい住宅政策を目指し、2021年からの10年間の住宅整備計画を考えようとするものだ。もちろん住宅をより多く供給していこうという政策ではない。世田谷区は、空家や旧耐震の建物が多く頭をかかえる自治体でもあり、住生活基本法と連動し、今ある住宅ストックの整備や適正な中古流通、そしてまちづくりを目指して、継続可能な生活のための政策案を築こうとしているわけだ。

もちろん、これはマンションだけを対象とした住宅政策ではないが、世田谷区には古いマンションが多いという課題がある。マンション居住者の世帯家計主は約4割が65歳以上と、高齢化も進んでいる。それに加え、旧耐震マンションの耐震化の遅れ、管理組合運営の担い手も不足し、管理組合自らの経営力向上が求められる状況にある。世田谷区も要支援マンションへの適切支援を重点施策に打ち出している。マンション管理適正化法の改正もあり、管理計画認定制度もスタートする。自治体としての動きもより鮮明になっていくのだろう。

少子高齢化の日本にあって、世田谷区の生産年齢人口は増加傾向にある。しかし、サザエさん一家のような三世代の大家族は昔の話になったのかもしれない。今は単身者が全体世帯の半分を占め、また障がい者の人口も増加傾向にある。

そんな中で第4次住宅政策の基本方針が紹介された。

【基本方針】暮らし・住まい・まちづくり
⚫ 主体性:安全・安心で愛着を育むまちづくりを地域住民の発意と協働で実現できるまちづくり
⚫ 多様性:多様な存在を認め合い地域連帯を支える暮らしづくり
⚫ 持続可能性:いつまでも安心して、次世代に引き継ぐ質の高い住まいづくり

あなたのマンションで唱え、深掘りし行動に移そうとお話しさせていただいた言葉と同じ3つのことが浮上していた。住生活に基盤を置けば、同じ言葉になるのかもしれない。

「言霊の幸ふマンション」とし、あらゆる危機からマンションや管理組合を救い、幸福をもたらしてくれる言葉とは、「主体性・多様性・持続可能性」ということ。そして、“唱える”とは、あなたのマンションや管理組合で深掘りし行動に移していくということなのだと思う。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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