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2021.12.27

工事資金が足りない! 管理組合の借入れは“悪い”こと?

長期修繕計画

工事資金が足りない! 管理組合の借入れは“悪い”こと?

とあるマンションにおいて、「資金を“借入れ”てでも大規模修繕工事を行うべきか」という議案が、総会にかけられた。

このマンションは、36期を迎え3回目の大規模修繕工事を実施しようとした際、2千万円の資金が不足していたのだ。

議案化された大規模修繕工事の施工範囲は、状態の良好な廊下・階段を除外し、一方で4回目の大規模修繕工事の計画としていた玄関扉を、不具合が多発していたこともあり前倒しで実施する予定としている。それなりに、しっかり建物状態を精査した上での合理的な工事計画ではあった。

総会では「資金不足なら大規模修繕工事を延期すべき」、「大規模修繕工事には賛成だが、借入れはしたくないので、足場が不要な玄関扉などの工事は先延ばしして欲しい」といった“借入れ反対派”の意見が目立ったが、最終的に議案は可決された。

より早く住環境を改善し、より長く快適を享受する

「借入れ」といえば、“借金”や“赤字”など、ネガティブなイメージが強いため不安になるのも当然のことだ。
そんな反対意見を押し切り、資金の借入れまでして、なぜ大規模修繕工事を実施することに合意できたのだろう。このマンションではどんな想いや考え方があったのかを探ってみたい。

玄関扉のような足場が不要な工事は急ぐべきではないという意見はもっともだが、なかには体当たりしないと開かないような扉があったり、雨風が強く当たる最上階の扉表面は退色しているなどの美観上の問題もあった。

住民の高齢化も進行しており、防犯面や震災の際の閉じ込め問題など不安も高まっていたのは事実で、扉交換ではダブルロック※1やプッシュブルの開けやすい取っ手※2、対震枠※3などの機能改善も盛り込まれている。

仮に次の大規模修繕工事まで扉の改修をしないことになれば、最低12年程、我慢し続けることになる。
それなら少しでも早く住環境を改善し、快適さを享受したいという想いも理解できる。

新築マンションの購入者の平均年齢は40歳前後といわれており、昨今の永住志向の高さを考えれば、36年目のマンションに住まわれている人の年齢は、平均で70歳半ばを超えていることになる。借入れをしないで我慢するという節約思考も大切だが、確かな返済のめどがつくのであれば住環境の改善を早め、より長く安全・安心で快適に暮らしたほうがメリットも大きいだろう。

※1:ダブルロック
防犯性の向上のために扉に2つ錠前を取り付けること
※2:プッシュブルの開けやすい取っ手
ドアノブのように掴んで回すことなく、取っ手を押す・引くだけで扉が開く設計
※3:対震枠
扉と枠の幅にゆとりを設けることにより、地震による変形を吸収し閉じ込め等を軽減するドア枠

長期修繕計画を活用するとは?

今回のケースでは、一時的に借入れが必要になったものの、数年前に「エレベーター更新工事」「排水管更新工事」など、長期修繕計画の中でもサイクルが長く、かつ数千万円単位の大型の設備改修工事をやり終えたばかりのタイミングでもあった。今回の大規模修繕工事を実施した後は、大型の設備系工事は、さらに30年以上先の築70年目程度となる。当然、その頃は建替えや敷地一括売却なども視野に、住み繋いだ次世代の区分所有者が検討していくことになる。また、これからも周期的に発生する4回目・5回目の大規模修繕工事では、長期修繕計画の資金計画では赤字にならない想定でもあった。

早い話が、今回の36期は、設備系工事と大規模修繕工事が近い期間で重なり、一時的にお金が足りなかったということ。そう胸を張っていえるのも、長期修繕計画を見直し、超長期の資金繰りの見通しが立っていたからということにほかならない。

しかし、そのためには、長期修繕計画を適宜見直し更新する、またこのツールとしての長期修繕計画の活用方法も正しく理解しておく必要がある。

具体的には、見直す時点からさらに30年以上の超長期の期間を設定し、社会環境の変化も想定し改良工事や新しい改修方法も視野に入れ、資金面では物価変動も反映させ資金計画を立てる。また、この見直しと同時に、管理組合全体で住環境の“あるべき姿”を考えていくことも重要になる。それが、マンションの将来ビジョンを共有するということになるのだ。

十分な計画性を持たず、修繕を「お金が無いから・・・」「借入は利子がかかるから・・・」という理由だけで我慢し先延ばしするケースは多い。その結果、通常の補修で回復できていたものが、劣化が進み、基本的な性能さえも失われ交換をしなければいけなくなるなど、より大きな費用が発生してしまうことも十分にあり得る。
また、時が経てば経つほど、高齢者や年金受給者が増える。一時金の徴収どころか、工事そのものを推進することさえ難しくなってしまうケースはあまりにも多い。

そんな我慢やタイミングを逸する“つまずき”が、マンション荒廃に向かうプロローグにさえなり得るのだ。

決して“借入れ”を推奨しているわけではないが、一時的に借入れしても帳尻が合う修繕積立金の資金計画が前提にあるのであれば、借入れを“一時的に活用する”のも、住環境の維持・向上の一つの手段ともいえるはずである。

マンションの積立金、あなたは把握している?

都心や駅に近いなど、利便性の高い立地のマンションは、高く売れる。高く売れるから資産価値が高いといわれている。購入するなら、当然、高い買い物にはなるが。

しかし最近は、新型コロナウイルスのせいもあるだろうがリモートワークをはじめ、あらゆるコト・モノが遠隔で賄える時代に変わった。すでに暮らしの価値観は大きく変わりつつあるといって良い。

たとえば、静かで緑豊かな環境、建物がメンテナンスされ、設備も更新され、美観にも気を使っている中古マンションがあるとしよう。そして超長期の資金繰りも安心できるマンションなら、いわゆる住むに安全・安心、快適がそろった居住価値の高いのマンションといえる。築古でも、管理組合の次世代を担う若い世代が住み繋いでくれるサステナビリティが備わりやすいマンションということだろう。

そのためには、「住み続けたいマンション」をそれぞれ区分所有者が自分事として考えていくことが大前提だ。
区分所有者全員のお金でもあるのだから、総会のたびに長期修繕計画を確認し、また修繕工事が予定されているなら、工事の必要性・発注金額の妥当性・発注先の信頼度などをしっかり議論する。それが当たり前ということに全員が気付くことなのだ。

この“借入れ”の話もしかり。借入れが不要であるに越したことはないが、大切なことは、計画修繕工事の支出と積立金計画を把握していれば、突然の借入れ話で慌てる必要もないということ。

まずは、あなたのマンションの長期修繕計画の支出及び積立金の状況を確認してほしい。

住みやすい環境を整えるためには、維持・修繕が必ず必要になってくる。そしてそのための資金は必ず必要になる。支出と収入を把握し、管理組合員一人ひとりが自分事として考えていくことが、最初の一歩でもあるのだ。

修繕積立金の算出根拠でもあり、マンションの将来ビジョンを探るためのツール──長期修繕計画を活用し、今後、長く住み続けるあなたのマンションの安全・安心、快適を考えてみてはいかがだろうか。

元気ラボの関連コラムもぜひ併せて読んで欲しい。

関連リンク
ウチは大丈夫? 修繕積立金のからくり

長期修繕計画をLCC(ライフサイクルコスト)から考える
 

この記事の執筆者

田所 良太

管理業務主任者、eco検定(環境社会検定試験)合格。2016年大和ライフネクスト株式会社入社。入社以来、技術部門にて修繕工事を経験し、現在はマンション修繕コンサルタントとして管理組合サポートを行う傍ら、マーケティング業務などに従事。

田所 良太

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