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2022.1.31

中古マンションと「人の死」

マンションを取り巻くリスク

高齢化社会

中古マンションと「人の死」

人にはやがて必ず死が訪れる。どこで亡くなるかはさまざまだが、1985年以降、亡くなる場所は「自宅」を抜いて「病院」が一番多くなった。

とはいえ、自宅で亡くなる方も多数いらっしゃる(※1 厚生労働省データより)。
また相続となれば、売却など不動産取引を検討するタイミングになりやすい。自宅で亡くなったケースでは、売主や仲介する不動産業者にはどんな告知義務が発生するのだろうか。

人の死の告知に関するガイドライン

国土交通省は、2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という※2)を公表した。ガイドラインは宅地建物取引業者向けではあるが、売主にも義務はある。

一般的に「孤立死」「孤独死」の定義は定まっていないものの、ガイドラインでは「居室内で長期間発見されずに特殊清掃を行わなければならない」場合が告知の対象となる。同様に家族に最期を看取られず独居にて亡くなったとしても、早期に発見され特殊清掃の必要がないケースは、告知の対象外だ。

宅地建物取引業者による調査の範囲は

ガイドラインでは、宅地建物取引業者がマンションの仲介を行うような場合は、近隣住民に聞き取り調査を行うような義務はなく、住戸を売却しようとする売主や管理業者に照会することで足りるとしている。つまりどういうことかというと、「売却相談のやり取りの中で、その部屋における独居の方の死を知った範囲で」、ということだ。

以下、ガイドラインから抜粋:
「宅地建物取引業者は、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行うべき業務上の一般的な義務を負っている。ただし、人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、人の死に関する事案が発生したか否かを自発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上は認められない。」
「調査の過程において、照会先の売主・貸主・管理業者より、事案の有無及び内容について、不明であると回答された場合、あるいは回答がなかった場合であっても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、照会を行った事案をもって調査はなされたものと解する。」

 

マンション管理会社の告知義務はどこまで?

売主・貸主と並列に管理会社がある。賃貸管理を行う賃貸不動産業も管理会社というくくりに入るだろうが、今回は分譲マンションのマンション管理会社に絞り込んで考えてみよう。

マンション管理会社は、敷地及び共用部分の管理事務等の委託を管理組合から受けている立場になる。よって、専有部分にて生じたことについて、告知する立場にはないということは明確だ。

では、「敷地及び共用部分」で発生した場合にはどうなるのだろう。

国土交通省マンション標準管理委託契約書では、管理会社が宅地建物取引業者から売買取引に際して、管理状況の照会をうけた場合の対応について、次のように記載されている。

(管理規約の提供等)
第14条 マンション管理会社は、宅地建物取引業者が、管理組合の組合員から、当該組合員が所有する専有部分の売買等の依頼を受け、その媒介等の義務のために、理由を付した書面または電磁的方法により管理規約の提供および別表第5に掲げる事項の開示を求めてきたときは、管理組合に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、管理規約の写しを提供し、及び別表第5に掲げる事項について書面をもって、又は電磁的方法により開示するものとする(略)。
※一部筆者により甲乙をマンション管理会社・管理組合に読み替え。
そして、この別表第5には、「敷地及び共用部分における重大事故・事件があれば、その内容」と記載されている。

マンション標準管理委託契約書からいえば、マンション管理会社は、宅地建物取引業者に対して「敷地及び共用部分における重大事故など」は、情報を提供すべきということになるのだ。

実際の管理委託契約書はどうなっている?

さて、実態はどうなっているのだろう。

マンション標準管理委託契約はあくまでも国土交通省が提示した「ひな型」であり、この契約内容でなければならないというものではない。よって、マンション管理会社と管理組合の合意によって、ひな型とは異なる条文で締結されていることも多い。

先に述べたマンション標準管理委託契約第14条の別表第5の「敷地及び共用部分における重大事故・事件があればその内容」の表記がない管理委託契約は、実際のところは多いのだ。

多くのマンション管理会社は、敷地及び共用部分で生じた転落事故などの情報を提供するという判断はしていない。中古流通の影響を考えれば、管理組合としても、マンション管理会社としても、必要以上に情報公開をしない判断をするのも理解できるし、この手の事故の捉え方は人によってさまざまでもあろうし、センシティブな情報をあえて積極的に説明はしない、ということなのだろう。

つまり、宅地建物取引業者から照会があっても、敷地及び共用部分で発生した重大事故についてマンション管理会社から宅地建物取引業者に情報提供がなされる可能性は少ないということだ。

センシティブ情報だからこそ・・

実際に、転落事故はマンションに居住する方ばかりではなく、外部からの侵入者が事故にあうケースもある。

いささか生々しい話ではあるが、第一発見者がマンションの管理員であった場合、警察に通報し、到着を待つまでの間に人目に触れないようブルーシートで覆い、パイロンを設置し居住者が近寄らないようにするなどの対応を行う。役割とはいえ、精神的にもつらい仕事になろう。しかし、こうした管理員の現場対応のおかげで、他の居住者は何も知らないまま終了することが多いのも事実だ。

人の死の受け止め方は千差万別であり、その受け止め方に関して、何かを述べるつもりは毛頭ない。

しかし、マンションに勤務する管理員は、業務の一環として人の死に向き合うこともあり、時にはご遺族とともに涙することもある。

中古マンションを売ろうとする者、買おうとする者、またそれを仲介しようとする者、それぞれの立場を考えれば、このようなセンシティブ情報の扱いは極めて難しい。

宅地建物取引業者などが、ガイドラインの枠を超えて執拗な詮索を行うケースも耳にすることもある。センシティブ情報でもあり、売買時に告知されるべき心理的瑕疵にあたるのかなどは、ガイドラインに沿って判断すべきであろうし、またマンションの売買にかかわるすべての方に正しく知ってもらう必要もあるのだろう。

※1 厚生労働省データ
医療提供体制を取りまく現状等について - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000493996.pdf
※2 国土交通省
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会法制委員会委員を務める。

久保 依子

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