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2022.9.29

「管理計画認定制度の一番大変なこと」とは⁉

マンションの法制度

理事会・総会

認定制度の申請に総会決議が必要なわけ、とは⁉

管理計画認定制度は、申請することを総会で決議し、その議事録も合わせて提出する必要がある。理事会、もしくは管理組合員の誰かが、勝手に申請しても受け付けてはもらえない。
総会で審議し申請の是非を問う必要があるからだ。
管理組合全体で制度の意味や狙いを理解し、一人ひとりが“自分事”にした証が、この決議になるといっていいだろう。

当然議案化する以上は、制度の内容や目的、管理組合や区分所有者のメリットなども重要だが、特に次の3点を丁寧に説明する必要がある。
①    申請した場合、認定されるかどうかの目算
②    認定のために生じる費用負担
③    認定のために必要になる区分所有者の負担

以下、順に整理してみよう。
 

認定制度で認定されるかどうか、確認が大切!

ご存じの通り、認定制度は全ての基準項目をクリアしない限り認定落ちしてしまう。併用して申請が可能なマンション管理業協会のマンション管理適正評価制度があるが、こちらは認定ではなく“評価”する制度なので6段階で評価が付く。

認定落ちしてしまうか、何らかの評価ランクが付くのとでは、大きな違いだ。

もちろん、認定されるか・認定落ちするのかを考慮せずに議案化してしまう管理組合はないだろう。議案化する際には、認定基準を正しく理解したうえで、認定落ちしないかどうか、また欠けている点があるなら何を補完すればOKなのかを検証する必要が出てくる。

いずれにしろ、認定制度を熟知しているマンション管理士などのアドバイスをもらいながら検証することをお勧めしたい。なぜなら、国土交通省が提示している認定基準は、斜め読みしてしまうと簡単に思えるのだが、十分に理解していないと勘違いをしてしまうような点がいくつもあるのだ。

そのような点は、特に長期修繕計画(以下「長計」という)のところに多い。例えば以下のようなことだ。
●長計を標準様式に準拠して作成するとは、どういうことか
●長計の見直しやその期間に、7年以内とか30年以上などの期間が謳われているが、いつからいつまでを指すのか
●修繕積立金の一時金徴収は不可だが、段階増額方式でも一時金徴収と判断されるケースがあるとは、どういうケースなのか
●長計の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額とは、どう理解したらよいか
 

認定基準の概略

ほぼすべてのマンションで補完作業が必要に⁉

さて、専門家のアドバイスをもらい、認定されるかどうかをきめ細かく確認していくと、補完すべき点も見えてくる。

次は、認定取得のための処方箋を提示することになるのだろう。

「健全な管理を行っていれば大丈夫。認定は難しいものではない」という人は多い。私も同感であるが、一方で健全な管理状態でも、補完の作業を怠ってしまっては、おそらく7・8割は、認定落ちしてしまうかもしれない。

 “補完”には、費用が発生したり、区分所有者に負担が生じたりすることも想定できる。
そのための合意をどうしていくかを探るためにも、認定されるかどうかの確認と何を補完すべきかを明確にし、スケジュールを立てることは大切なのだ。

その鬼門になりやすいのが、長計の見直しだ。長計を作成していても、“見直し”を適宜行っている管理組合は少ない。

また、 長計における“見直し”の定義が適切に理解されていない場合も多い。例えば、実施・未実施などを丁寧に長計に反映させ毎年“更新”している管理組合もあるのだが、これだけでは十分であるとはいえない。
 

長計の見直しとは

ガイドラインの様式に準じて、図面から数量を拾い、工事履歴を整理・反映させるなどは基本中の基本。それに加えて、現状の劣化状態などから修繕周期を再考する。また最新・最適な工法を想定し、物価変動の実績などを考慮し工事単価の洗い替えを行う必要がある。

また、一定の築年数を経たマンションでは、暮らし方の変化や住民意向も反映しながら、改良や長寿命化のための策を盛り込む必要もある。マンションの将来ビジョンを管理組合全体で考えていくためのたたき台とするためだ。

もちろん、長計の見直しは専門家に依頼する必要もあるだろう。また、理事長が中身を理解したうえで住民説明会などで管理組合全体に共有し、総会で承認を取る必要もある。それには経費も時間もかかる。

健全な管理を行っていたとしても、長計の見直し作業ができていなかったのなら、認定取得のための補完作業は1年がかりになりそうな話である。長計の見直しを例に説明したが、他にも会計処理や未収金などのお金周り、管理規約などで補完が必要になるなら、そちらも同様に1年ほどかかってしまうかもしれない。
 

管理計画認定制度の申請に向けて タスクとスケジュールイメージ

認定のために費用が発生し、区分所有者の負担が増加⁉

認定の費用はそう大きな金額ではない。しかし、長計の見直しを専門家に依頼すれば、当然、それなりの費用は発生する。

そもそも修繕積立金が足りない、または管理費会計がショートし修繕積立金会計から流用しているなど、健全とはいえない状態であるなら、区分所有者の負担増を覚悟して修繕積立金や管理費の改定を行う必要がある。未収金が多いなら、弁護士に依頼し法的手段も講じなくてはならない。これには大手術が必要だ。

このように、単なる補完ではなく根本的な改善が伴うなら、理事会にとっても時間とパワーがかかり、さらには認定を取ることのメリットがあるかどうかについての議論も巻き起こりそうだ。

ところで、認定取得のメリットとはなんだろうか。

新築マンションでは予備認定という制度があり、これを取得し新規で売り出しするマンションには、住宅金融支援機構のフラット35の金利が、当初5年間は0.25%に引き下げられるといった新築購入者向けのメリットがある。

中古マンションでも、認定を取った場合、中古マンション購入者向けのフラット35の金利の引き下げが検討されており、こちらも購入者向けのメリットがある。

一方で、日本では未だに永住志向が強いことから、「終の棲家なので売る気はない」と考える人も多いだろう。
そういった人にとっては、管理費や積立金を値上げし、区分所有者の負担を増やしてまで、認定を受けるメリットはあるのかという話にもなりかねない。

しかし、それではマンションの将来がなくなってしまう。

年を重ね高齢化が進む。管理組合の資金が枯渇し、必要な修繕もできなくなる。そんな不健全な状態が、進行してしまっていいはずがない。

こういった危機感を共有できるかどうかが、管理計画認定制度の一番大変なところで、最も大切なポイントなのかもしれない。
 

認定基準は、管理組合のあるべき状態を示した“目標”という考え方

管理計画認定制度は、その認定基準において管理組合のあるべき状態を示した、いわば目標だ。だから、認定されることは「具体的な目標をクリアし、適正な管理をしている」という証になる。将来、管理不全や資金不足で居住価値がいちじるしく低下してしまう不安を最小限に抑えようということが、本制度の狙いだ。すでに管理不全に陥ってしまった多くのマンションが、その結末を示している。目先の損得にとらわれて、その轍を踏んではいけない。
住民一人ひとりが主体的に関わり「より良いマンションにしたい」という連帯感を作り出すためのきっかけが、認定制度ということになる。

所有者責任を見つめ直す。居住価値を追求し、持続可能性のために何をすべきかを考えるチャンスとなるのが、今回の制度における最大のメリットなのではないだろうか。
 

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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