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2023.2.16

長期修繕計画と仲良くしませんか?

長期修繕計画

長期修繕計画ってどんなもの?

まず初めに、長期修繕計画の定義と目的について確認します。

長期修繕計画作成ガイドラインによると、その定義は「将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を算出するために作成するもの」であり、その目的は「マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持すること」と示されています。

多くのマンションでは、この長期修繕計画をもとに将来に必要な積立金の概算を算出し、資金計画の見直し時に活用することが多く、場合によっては、管理会社が作成した長期修繕計画が管理組合に提出され、総会で承認されている、ということもあります。
 

長期修繕計画が活かされていない⁉

「長期修繕計画で、給水ポンプユニット更新工事として600万円の計画費が読まれているけれど、その工事をするだけでこんなに高いはずがない!」

「インターホン設備は20年使っている所は他にある。こんなに早く更新(あるいは、修繕)が必要なはずがない!管理会社が工事をさせたいだけではないのか!?」

例えば、皆さんが管理組合の役員であったり、または、管理会社のフロント担当であれば、このような意見を耳にすることがあるかもしれません。

長期修繕計画は、個々の建物の将来に向かって、とても重要な情報が詰まっているもので、本来は管理組合と管理会社がともに磨けば、しっかり輝き始める、いわば原石のようなものであるはずなのです。

しかし実際には、長期修繕計画が本来の目的通りに活用されていなかったり、内容がきちんと理解されないまま計画費用ばかりが注目されてしまうなど、とても大切な資料でありながら、不遇な評価を与えられていることが多いのです。これでは、せっかくの長期修繕計画は原石のままくすんでしまいます。

では、なぜ正しく活用されなかったり、別の問題に目がいってしまうのでしょう。

もちろん、長期修繕計画の目的が正しく理解されていないという点もありますが、長期修繕計画を請け負っている管理組合と、長期修繕計画を作成している管理会社との価値観が異なることが主な要因と考えられます。長期修繕計画が、管理会社の営業活動ツールとして警戒されることがあるのも、まさにこの価値観の違いからでしょう。

管理組合と管理会社の考え方はこんなに違う

管理組合にとっての長期修繕計画は、長期間にわたる工事費の累計が示されることもあり、修繕積立金改定時の根拠として使用するのが一般的です。当然、自分たちの費用負担は最小限にしたいと考えるので、必要な計画費は抑えつつ、無駄なく積立金の改定をおこないたいと考えます。

つまり、積立金改定時の根拠とする将来的な工事費の累計額には「正確性」を求めたくなるのが、管理組合側の心理といえます。また、工事費をできるだけ安く抑えられるように、点検の時に異常がなければ、たとえ長期修繕計画で実施時期を迎えていたとしても、実際にその設備等が故障する間際まで修繕を行いたくないといった「倹約性」も加わってくるかもしれません。

一方で、管理会社側から見たらどうでしょうか?

管理会社が心配することは、いざという時に修繕費用が足りないという状況です。例えば、重要な設備が急に故障してしまい、すぐに修繕手配をしたい。けれど、修繕積立金がしっかり残っておらず、それができないとしたら──。こうした状況に陥らないようにするために「積立金不足の回避」を優先して考えます。

そもそも管理会社としては、重要な設備が壊れてしまった「事後に」対応するのではなく、先を見越した予防保全の観点から「事前に」管理組合に対する更新提案をしていきます。予防保全を怠ってしまうと、ときにはライフラインに関わるトラブルにも繋がります。例えば、本来の更新時期に実施を見送っていた給水ポンプがある日突然故障してしまい、水道を使用することができなくなり、緊急で改修するにも日数がかかってしまった……など。こうした事態を防ぐために事前の提案をするのも、管理会社の重要な役目です。

以上のことから、いざというときに修繕費が足りないことを危惧する管理会社としては、計画費として想定する際に、ある程度の余裕を持たせて作成・提案をするのが当然の考え方といえます。長期修繕計画の作成にはこうした背景がある中で、設定された計画費だけに着目すると人によっては高額に見えてしまい、結果「計画費が高すぎる」といってあてにされなかったり、管理会社の営利目的であるとの誤解もされやすいのです。

こうした誤解を回避して、より建設的にマンションの将来を議論するためには、管理組合と管理会社が足並みをそろえ、かつ長期修繕計画をしっかりと理解すること、つまり「長期修繕計画と仲良くなること」が必要なのです。

仲良くしている場合と、そうでない場合の例

長期修繕計画と仲良くしている管理組合とは、いったいどのような状態なのでしょうか。

ある管理組合は、現在24期となり2回目の大規模修繕工事を間近に控えています。長期修繕計画作成ガイドラインでは、大規模修繕工事の周期は12年として示されていますが、国内の管理組合では、2回目の大規模修繕工事を迎える際に、資金が大幅に不足していることが多いといいます。

しかし、この管理組合では、修繕工事に先駆けて行った建物診断で出された設計予算と比べても積立金が下回ることはなく、さらに、工事を実施した後にも、十分な積立金が残るような状況となりました。
 

なぜ、ここまで計画的に積み立てができていたのか。その理由は、積立金の改定が頻回に行われていたことにあります。

改定数を合計すると、竣工から24年の間に、なんと9回に及びますが、管理費と積立金を合算した㎡単価は、周辺相場の平均の範囲に収まっています。もちろん、積立金改定をした回数が多いほど良いという意味ではなく、習慣的に長期修繕計画の確認と資金状況に関する見直し検討がおこなわれていないとこのような改定頻度にはならない、ということです。

また、このような検討を、輪番で変わっていく管理組合の役員間で継続していくためには、理事会で、長期修繕計画の示す情報や、それをもとにした検討の方針が正確に引き継がれていなければならないほか、理事がしっかりとかじを取ることも必要不可欠です。

こちらの管理組合では、ほぼ毎期、習慣的に積立金の現状確認が行われ、熱意のある理事のもと、状況に応じてのシミュレーションや見直しもなされていたことから、健全な積立金計画が成り立っています。いつもすぐそばに長期修繕計画があり、二人三脚で仲良く歩んできた結果が今に繋がっているのでしょう。

一方で、長期修繕計画と仲良くしていなかった場合はどうでしょうか。同じく、あるマンションを一つ例に出したいと思います。

こちらの管理組合では、長期修繕計画ガイドラインが示す通り5年ごとに長期修繕計画の見直しがされていましたが、実情は、それが単に見直されただけで終わってしまい、その後、何にも活用せずに時間だけが経過していました。

本来は見直しの時に将来の不足額をしっかり確認して、積立金改定の検討が進められるべきだったのですが、検討のタイミングを逃し続けてしまったため、最終的に16年間で1度の積立金の改定に留まってしまい、その結果、1億円近い修繕費不足が生じることになってしまったのです。

この後、不足を解消するためのやむを得ない措置として、積立金を2倍以上に値上げすることで対応することになりました。当然、マンションの区分所有者にとっては突然の大きな支出増となり、中には積立金の改定が決まった途端に住戸を売却する区分所有者も出てしまう事態を招いてしまいました。

このようなことが発生してしまうと、マンションの資産価値は下がってしまい、資産としてマンションを所有している区分所有者にとっては、とてつもない痛手となってしまいます。

では、それぞれの事例やこれまで述べた背景を踏まえて、私たちは長期修繕計画と仲良くなるためにどのようにすべきなのでしょうか。

これからの長期修繕計画との付き合い方

長期修繕計画と仲良くなりマンションの資産価値を維持していくには、まずは毎年の理事会活動計画に長期修繕計画の検討や見直しを盛り込むことが必要です。長期修繕計画そのものの見直しは5年ごとでも構いませんが、資金計画の検討や確認は毎年、習慣として行わなければ、資金状況の変化に都度対応ができなくなる可能性があるからです。

必ず理事会活動に長期修繕計画の見直しが盛り込まれていたり、毎年総会で長期修繕計画や積立金計画を議案として上程することで、長期的な課題であると所有者全員に周知できるようにしていたら──本来改定すべきタイミングを逃したとしても、挽回する機会を増やせると思いませんか?

そのような習慣を作り上げたうえで、実際に現場で検討を行う管理組合と、さまざまなリスクをふまえてより安心な金額をご提案する管理会社間では、前述のように価値観の違いがあることをお互いにしっかり理解をしておくことも必要です。
管理組合側は、どうしても、無駄なく、正確に積み立てたい。管理会社側は、どうしても、余裕を持って、安全に積み立てたい、という対立するような価値観があります。しかし
管理組合も管理会社も、そのマンションをより良くしたいという共通の思いは変わらないのですから、目線を合わせればマンション運営をより良い方向に進めていくことができるはずです。
 

大切なのはあなたの熱意

最後にもう一つ、とても大事なことがあります。
それは、役員の熱意です。積立金改定の様に、各戸のお財布事情に直結する問題を検討しなければいけない場合には、それを検討する役員にも、相応の熱意が求められます。もちろん、偶然輪番が回ってきて役員になることが多い現状もあり、また、それぞれの仕事や家庭もある中で、自分が役員の時にやらなくてもいいのではないかなど、先送りの心理が働きやすく、ましてや中長期的な目線で考えることも難しいと感じることもあるでしょう。それでも、長期修繕計画の検討を習慣化させることで、管理組合全体で共通の熱意を持つことができたら、健全な管理組合運営に近づけるのではないでしょうか。

長期修繕計画と仲良くなれたマンションでは、区分所有者一人ひとりひとりの将来に対する意識も変わることでしょう。積立金資金計画の改善による資産価値の維持はもとより、区分所有者間でのコミュニケーションの円滑化、管理会社とのさらなる連携強化など、きっとマンションの将来にとってより良い効果がもたらされているはずです。

この記事の執筆者

上地 光

不動産賃貸仲介業での満室経営に向けた提案営業、顧客対応を経た後、不動産管理による資産価値向上に興味を持ち、2019年に分譲マンション管理会社である大和ライフネクストへ転職。現在は、フロント担当として10棟以上のマンションを担当。管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士、宅地建物取引士。

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