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2023.8.10

シリーズ「共用部分と専有部分の狭間で」
第1弾 マンションの給排水管は誰のものか

改修工事

管理規約・細則

シリーズ第1弾は、給排水管は誰のものかについて

専有部分の範囲はどこからどこまで? 管理組合のお金で専有部分の工事もできるの?
という質問はよく聞く話。今回は、専有部分にまで続く給排水管を題材にシリーズで考えてみる。

上水道でいえば、浄水場からの水が道路の下に張りめぐらされている本管を通り、マンションの敷地内の配管に引き込まれている。マンション毎の給水方式によって異なるが、多くは受水槽に溜められた水が加圧ポンプで各住戸に送られ蛇口へ。

下水道もそう。洗濯や風呂、台所、トイレの汚水など、流してしまえば簡単かつ衛生的に処理ができる。

いつでも清潔な水が使え、洗浄した水を排水できる日常は、もはや当たり前のことだが、それもすべて「給排水管」があってのこと。

そこで今回のシリーズを「共用部分と専有部分の狭間で」と題し、この給排水管をテーマにその物理的な境い目やその扱い方について、
シリーズ第1弾では、「マンションの給排水管は誰のものか」
シリーズ第2弾では、「専有部分と一体で行う給排水管更新工事の注意点」
シリーズ第3弾では、「専有部分と一体で行う給排水管工事の実例」
といったように、全3回に分けて考えていこうと思う。

専有部分の範囲をおさらい

まずは、基本中の基本、「専有部分の範囲」について考えてみよう。

標準管理規約第7条によると、間仕切りの壁、いわゆる居室内の部屋と部屋を仕切る壁などは専有部分だ。一方、隣住戸または上下階住戸に接する躯体の壁や床のスラブは共用部分となる。つまり、3LDKの部屋の間仕切りを取っ払って、広い1DKにリノベーションすることは基本的には可能。

また、玄関扉は錠と内側の塗装部分だけが専有部分で、扉の本体などは共用部分。よって、勝手に自分の好みのドアに取り換えることはできない上、2重鍵を取り付けることも管理組合の許可や使用細則などを確認する必要がある。

窓枠や窓ガラスも同様に共用部分である。早い話が、躯体部分等に張り付いている壁紙や塗装、建物の構造に関係ない間仕切りも含めた躯体の内側の空間が専有部分ということだ。そしてもちろん、専有部分は区分所有者の責任と費用で管理することになる。

一般の居住者にとって、なんとなくわかっているようで曖昧なのが、共用部分である建物躯体内からずーっとつながっている給水管・排水管。果たしてお部屋の蛇口や排水口からどこまでが専有部分でどこからが共用部分なのか、イメージが付かない人も多いかもしれない。

蛇口まで続く給水管、排水口の先の排水管、専有部分はどこまで?

標準管理規約の別表第2には、共用部分はここまでと具体的に箇所や設備名を上げて記載されている。

給水管の本管から各住戸のメーターまでが共用部分。専有部分はメーターから出ている部屋に向かう配管からとなる。一般的にメーターから本管側を1次側、メーターから出て部屋に向かう配管を2次側と表現されている。

雑排水管(台所や風呂など)や汚水管(トイレ)などの排水管は、各住戸からの排水・汚水を集めて流す立て管と、この立て管と専有部分からの横引きの枝管をつなぐ配管継手までが建物の付属物となり共用部分。継手から先にある枝管が専有部分となるわけだ。

給水管が専有部分内でどんなルートでどんな管が巡っているのか、また枝管の先の配管継手はどこにあるのかなど、実際に見たことのある人はほとんどいないのでイメージが付かないのは当然だろう。

しかし、専有部分となる配管の点検や修理は所有者の責任であり、万が一専有部分の配管からの漏水で下の階に被害を与えてしまったら、所有者が損害を賠償しなければならない。
それが大原則だ。

マンション標準指針コメントより

専有部分の給排水管は所有者の責任で管理って?

天ぷらの残り油は新聞紙に吸わせて可燃物として廃棄するなど、最低限度の生活上のマナーは守っていても、配管の経年劣化は避けられない。いつまでも配管に穴が開かないように管理することは難しい。

給水や給湯機を通ってバスや洗面台に向かう給湯管も同じだ。もちろん時代と共に材料も変わり、今は劣化がしづらい塩化ビニル系やポリエチレン系の素材が多く使われているが、少し古いとライニング鋼管や銅管などの金属系のものも多い。金属系は気泡の衝突や異物の付着でピンホールという小さな穴が開くなどで漏水に至ることがある。こんなケースもお住まいの方にとっては、管理のしようがないだろう。

排水管を例に“もしもこんなことが起きたら”というトラブルを紹介しよう。継手に至る枝管が床下のスラブを貫通し下の階の住戸の天井裏を通っている。このような造りは古いマンションで多く見られるのだが、天井裏の配管から漏水が発生し、下の階で大きな被害が発生してしまったらどうなるのだろう。

原則通りで考えれば、継手につながる枝管は専有部分だから損害の賠償責任は上階の区分所有者となりそうだが、最高裁判所はこの枝管は共用部分に当たると判断した(平成12年3月21日判決)。

構造上、下の階の天井裏にある枝管の点検や修理は、上の階の区分所有者には不可能であるというのが理由だ。構造上、個人で責任を負うことができない場所であったため、この枝管を共用部分と判断したわけだ。

ちなみに、この「スラブ下排水管」は、マンションの建替え等の円滑化に関する法律で要除去認定の要件にも指定された(令和3年国土交通省「要除去認定実務マニュアル」参照ください)。

しかし、仮にこの配管が床下のスラブの上に配置されていたとしても、スラブの上のフローリングやカーペットをはがして点検を行う人はまずいない。リノベーションなどで大幅な室内工事を行わない限り、専有部分の給排水管の更新工事も行わないのが普通だろう。

管理組合の費用で行う雑排水管清掃

専有部分は個人の責任という話だったが、管理組合で実施する雑排水管清掃について考えてみよう。専有部分も含めての清掃作業を管理組合の費用で行うことができるという根拠は何かという点だ。

この清掃作業を年に1回以上必ず実施しているマンションは多いと思う。それは、作業員が専有部分にお邪魔し、台所や風呂、洗濯機の排水口などから高圧の水を流し、詰まりや溢れの原因になる固着した汚れなどを洗い流す作業だ。

基本的な手順は、最初に建物屋外のマンホール、そしてマンホールにつながる共用部分の横引き管、各部屋の雑排水を集めて流す立て管、といった順番で清掃する。その上で、1階、2階、3階と下から順に専有部分の作業を進めていく。

実は、下から順番に行うのにはわけがある。下流に汚れが溜まったままで上流から削ぎ落された汚れが流れ込めば、そこで詰まって溢れ出してしまう。

管理組合の費用で行う理由は、この清掃の手順の説明で察しがついたかもしれない。専有部分の枝管にこびりついた汚れが、共用部分の立て管の詰まりの元になるわけで、一体で清掃を行うことが理想的だからだ。

標準管理規約第21条2項に、
「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる」
とある。

ずーっとつながっている構造上一体の排水管、そして一体で管理を行う必要があるのが、排水管などの管ということになる。この2項の「一体として行う必要がある」とは、まさに雑排水管清掃ということ。だから、管理組合の費用で清掃を行えるというわけだ。

給排水管更新工事は専有部分と一体で管理組合が工事できる?

2回目の大規模修繕工事が終わり、エレベーターのリニューアル工事などの大きな山を越えたあたりに、給排水管が修繕対象になるかもしれない。

給排水管として使われている素材も時代と共に変わってきたため一概にはいえないが、築30年を超えれば管更生ではなく、劣化のしにくい素材で配管を更新する時期がくる。

「管理組合の修繕積立金で、共用部分の給排水管更新工事の際に専有部分も一体で工事が行える。共用部分だけを更新しても、個人に任せてしまって専有部分を更新していなければ、いつ漏水事故が発生するかわからない、とんでもない高経年マンションになってしまう」という意見もあるだろう。

一方で、「大きな費用を管理組合が負担することになり、専有部分の配管の長さは修繕積立金の負担割合となる部屋の面積と比例するわけでもない。また、すでに大規模なリフォームを行って更新を済ませている住戸もあるだろう。結果不公平になり、専有部分の管理はそれぞれの区分所有者が行うという原則から外れる」という意見も当然出てくるはずだ。

結論を言うと、管理規約の変更や先行で工事を行った区分所有者への調整は必要にはなるが、専有部分も含めた一体工事は可能だ。

どんな根拠で、どんな管理規約の変更が必要で、どんな調整が必要なのかは、シリーズ第2弾の「専有部分と一体で行う給排水管更新工事の注意点」で整理していこう。

次回もお楽しみに。

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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