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2023.8.24

高経年マンション、未来をつなぐ次世代とは!?(前編)

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マンションは住みつないでいくべき

マンションを長寿命化させるために何ができるか──。

マンションの長寿命化の秘訣。それは、なんといっても、“次世代への住みつなぎ”をどう成功させるかにかかっている。住みつなぎを成功させるためには、新たな世代の主役たちがどの年代に位置し、またどんな行動特性を持っているのかなどを知っておく必要がある。

そこで今回は、“今、住んでいる人の世代”と“住みつなぐ次世代”との価値観や行動特性の違いを2部構成で深掘りしていく。本コラムはその前編として“今、住んでいる人の世代”についてを整理する。

“次世代”につなぐ必要性を考える

そもそも、次世代につないでいく必要があるのだろうか?

建物の老朽化と住まう人の高齢化は、時間の経過と共に必ず生じる。これは、理事の成り手不足・賃貸化・管理組合の資金不足など、さまざまな問題を引き起こす原因となり、何も手を打たなければ着実にマンションの価値は下がっていく。

そこで「建て替える」「長寿命化に向けた改良工事を行う」など、建物にアプローチして解決策を探る話は多い。しかし、私はそこに住まう人やコミュニティをどうするかという切り口の方がよっぽど大切ではないかと思っている。なぜなら、建て替えるにしても、長寿命化工事を行うにしても、住まう人たちがそれらを実行する意志を持たなければ、いずれの施策も前に進めることはできないからだ。
マンションの高齢化問題におけるもう一つの特徴は、人と建物の“寿命の差”である。端的にいえば、建物は人より寿命が長いのだが、人が住まなければマンションの存在意義は消滅する。つまり、物理的に人よりも長く生きることのできるマンションを、その存在意義も含めしっかり長寿命化させるためには、適切な方法で次世代につなぐこと以外にないのだ。

“今、住んでいる世代”や“住みつなぐ次世代”の価値観や行動特性を深掘りした資料や研究報告は、私が調べた限り現時点では見当たらなかった。よってここでは、2つの世代についての仮説を立てて考えてみる。

ボリュームゾーンは“ベビーブーマー世代”

まず前編では、次世代と比較するために、“今、住んでいる世代”を整理してみよう。

すでに日本のマンションの平均築年数は25年を超え※1、住まう人(世帯主)の半数が60歳以上、高齢者予備軍といえる50歳代を含めると、なんと70%を超える※2ことになる。これが今の日本のマンション事情ということだ。

1946年から1964年までに生まれ、年齢でいえば50代後半から70代半ばまでが、 “ベビーブーマー世代”といわれている。20年余りをひとくくりでいってしまう乱暴さもあるが、日本では団塊の世代・バブル世代ともカテゴリーされている。

それぞれに異なる点もあるが、今回の仮説を立てるには、この2つをまとめたベビーブーマー世代で十分成り立つ。

彼らはすでに、定年を迎えた年金受給者であったり、リタイア間近の世代。働き盛りを高度経済成長期、もしくはその余韻を残す昭和後半で過ごしてきた。この世代の前期の人たちは社会人になってから、後期の人たちは学生時代に、バブル経済やその崩壊を経験した。

バブル崩壊前は、働けば働くほど給与は増え、また年々賃金も上昇した時代。その経験で刻まれたものは、「努力は必ず報われる」「正しい行いは評価される」という、いたって健全で前向きな信念であり、彼らの高い勤労意欲を支えていた。

1968年にモーレツ社員という言葉が流行った。石油会社のCM「Oh! モーレツ!」が転じて、若き彼らの猛烈な働きぶりを指した言葉だ。バブル崩壊後も、彼らのハートに深く刻まれたモーレツぶりは、置かれた環境によって発揮できる・できないに関わらず残り続けてきた。

もう一つ、忘れてはいけないのが、大量生産・大衆消費市場の時代に生まれ育ったことだ。彼らは上がり続ける給与を当てに、車を買い、マンションを買う。経済成長の原動力でもある国内消費の中心を担ってきた。特にモノやブランドに対しての所有欲は強い。いわゆる所有価値を重視する世代ということだ。

※1:国土交通省_分譲マンションストック戸数から算出
※2:平成31年 国土交通省マンション総合調査より

ベビーブーマー世代の行動特性がもたらすマンションへの影響

さて、そんな特性を持つベビーブーマー世代が、管理組合活動にどのような影響を与えているのかを考えてみよう。

なお、ここで語るのはあくまで世代の特徴から推測されるものであり、データに裏付けられたものではなく、また世代の良し悪しを語るものではないことをご理解いただければと思う。

また本コラムでは、問題提起のためにも、あえて管理組合を悪い方向に進めてしまうパターンについて考えてみたい。

ベビーブーマー世代の初期にあたる人は、すでに定年を迎えて久しい方もいる。まさに「モーレツ」な働き方が評価される時代に生き、令和から始まった働き方改革を体験していない。さらには、多様性が叫ばれるようになった今の時代とは異なる環境下で育ち、自分自身の置かれた状況を他者にも同様に当てはめて考える傾向があると考えられる。

また自分の努力や正しい行いは、必ず報われなくてはならないという強い信念がある。報われるとは、人に認められるということとも通じる。“承認欲求が強い”というのと、当たらずとも遠からずだろう。

このような特徴が管理組合活動で発揮されると、どういったことが起こり得るのか。実際にあったのは、管理組合活動に対して飛びぬけて高い意識を持っていた理事が、自らの意見を、ほかの住民や管理会社の考えや立場を無視して押し付け続けた結果、「あの人にやらせておきましょう」という、いわゆる“無関心”マンションとなってしまった、というケースだ。なかには「管理会社から解約通知がきてしまった」という相談も何件かあった。

もちろんご本人は、一生懸命で役割意識も強く、決して悪意があるわけではないのだが、ご自身の価値観を何が何でもと周りに押し付け過ぎた結果なのだろう。

収入の激減が盲目的な節約志向に!

ベビーブーマー世代が持ちうる特徴がマイナスの方向に発揮された場合についての傾向を申し上げたが、ほかにも理解しておきたい世代的な背景がある。

勤労意欲が高いベビーブーマー世代であっても、仕事をリタイアしてしまえば、収入は年金のみとなる。つまり、大衆消費市場の時代に生きてきて、またバブル崩壊後の痛手も肌で感じてきた彼らは、収入が激減すれば余計な出費はできないことが、痛いほどわかっている世代でもある。金融庁が発表した老後2000万円問題※3も記憶に新しい。

また2019年のOECD加盟国(≒先進国)の高齢者の相対的貧困率※4の平均が13.5%なのに対して、日本では20%(夫婦世帯の場合)と先進国のなかでも高水準だ。特に女性の独居世帯では相対的貧困率は50%を超える。近年では物価が上がり、年金が実質目減りしていく時代にもなった。と、なれば収入が激減したベビーブーマー世代の節約志向はさらに強まる。

ベビーブーマー世代は、所有価値を重視し、利用価値への意識は低いといわれている。自分のマンションのローンも払い終わり、所有していること自体に満足は得ている一方で、その利用価値を向上させることには意識が向いていない。この場合、利用価値を維持する、また向上させることにお金を使うことよりも、目の前の節約志向の方が勝ってしまうケースがある。

そうなると、必要な修繕積立金の値上げをしない、工事では費用を抑えることに熱中しすぎ適切な業者を選ばないなどといった、長い目でみてマンションの資産価値を下げる選択をしてしまうことが考えられる。

なお、これらは、あくまでも悲観的な仮説を記したにすぎない。かくいう私自身もベビーブーマー世代だ。もちろんこれからの人生に、華もあるだろうし夢だってある。ベビーブーマー世代でスクラムを組んで、「今の若い者には負けられない」と気勢を上げるのも良いが、このコラムで紹介した特徴に当てはまるような行動を続けているようでは、マンションのみらいを担う次世代が寄り付かないのも事実だろう。

※3:老後2000万円問題:金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書。老後の20~30 年間で約1,300 万円~2,000 万円が不足する」という試算が由来。

※4:相対的貧困率:低所得者の割合や経済格差等を示す指標。収入から税金等を引いた可処分所得が中央値の半分に満たない人の割合。年代や性別などでも算出可能。絶対的貧困率とは異なる。

住みつなぐ次世代「ミレニアル世代」とは?

国土交通省の『令和3年住宅市場報告書』によれば、分譲マンションの一次取得者(世帯主)の購入時の平均年齢は39.5歳。この平均年齢よりも、着目すべきなのは全体の約60%のボリュームゾーンが30歳代以下(20代7%・30代50.5%)ということだ。まさにこれからのマンションを住みつなぐ世代といっていいだろう。

この世代は、ミレニアル世代と呼ばれる。彼らがどんな価値観や行動特性を持っていて、どういったマンションに住みたいと考えているのか。ベビーブーマー世代であるあなたが所有するマンションが彼らに適切に住みつがれていくためにはどうあるべきか。そこが、肝心な部分だ。

ここから先は後編の「高経年マンション 未来をつなぐ次世代とは!?(後編) 」で整理していこう。
 

この記事の執筆者

丸山 肇

マンション管理士。株式会社リクルートにて住宅情報北海道版編集長、金融機関への転籍を経て、大和ライフネクスト入社。管理企画部長・東京支社長などを歴任。マンションみらい価値研究所にてコラムニストとして活動。

丸山 肇

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