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2022.6.23

第1回 マンションみらい価値研究所セミナー
「マンションの“みらい”への期待と課題」を開催

マンションの”みらい”への期待と課題

6月1日、マンションみらい価値研究所は「マンション元気ラボ」と統合。合わせて、「マンション元気ラボメルマガ会員」も「マンションみらい価値研究所メルマガ会員」と改称して、新たなスタートを切ることとなった。

これを記念し、情報発信・交流の場として新設された配信スタジオ「赤坂プラスタ」にてオンラインセミナーを開催。「マンションの“みらい”への期待と課題」をテーマに行われ、約100名の方にご視聴いただいた。

セミナーには、マンションみらい価値研究所・所長の久保依子が出演、ファシリテーターを同じく研究所メンバーでコラムニストの丸山肇が務めた。そしてゲストには、横浜マリン法律事務所の弁護士でマンション管理士の資格を有するの佐藤元(げん)氏を迎え、座談会形式でのセッションとなった。

対談の様子

冒頭、法律家である佐藤氏が、「マンション管理適正化法」や「建替え円滑化法」などの相次ぐ法改正をどう見ているかというポイントから議論はスタート。これについて佐藤氏は「マンション管理適正化法の改正により、管理計画認定制度が導入されると共に、管理が不適切なマンションへの勧告制度が創設されたことで、今後空き家措置法のように強固な措置が議論されていくかに注目している」と述べた。さらに建替え円滑化法については、「団地の敷地分割が実務でどう使われていくかにも関心がある」とコメントした。

また久保は区分所有法に触れ、「実はマンションだけの法律ではなく、戸建てでも共有部分があれば団地管理組合が成立する。マンション同様、修繕積立金を集めて維持管理を行うだけでなく、集会棟にEV充電器を設置して共用のレンタカーを運用したり、太陽光パネルを設置していたり、街づくりという点ではマンションより進んでいる例もある」とあいさつに一言を添えた。


そして議論は、本セミナーのお題である「マンションの“みらい”への期待と課題」へ。「マンションとは私たち日本人にとって、なんなのだろう?」という点に着目してはじまった。

口火を切ったのは佐藤氏で、「国土交通省の調査によると、分譲マンションのストック数は一昨年の年末時点で675万戸であり、国民の1割超が居住している計算になる。その上で“マンションとは私たち日本人にとって、なんなのだろう?”に沿って考えると、区分所有者が管理のためにやらなければならないこと、やれることのギャップが大きいと感じている」と発言。

そのギャップについての説明として「運営の中には、技術的なこと法的なこと、難易度の高い判断が求められることが多い。理事会のメンバーに専門家がいるとは限らない中、コンサルタントや弁護士に委任して意思決定していく必要がある。しかし役員のなり手不足は深刻で、これでは理事会管理方式が成り立たないことも頭を悩ませる問題だ」とした。そこで話は「区分所有法」へと進む。

「昭和37年に制定された区分所有法は、建替えや解消の規定を備えていなかった。これではまずいと昭和58年に全面改正し、建替え決議を追加。その後平成14年にも改正を行い、建替え要件を一部緩和している。この時の建替え円滑化法により、建替え決議がなされた事案を、行政法のスキームを使って進められるようになったのは大きい」と評価。「平成26年の改正では敷地売却制度を新設したことにより、5分の4の決議で実現できるように。また阪神・淡路大震災を受け『被災マンション法』が制定されると、全壊の場合5分の4の決議で再建できるようになり、東日本大震災後の平成25年には大規模一部滅失の場合でも5分の4の決議で解消、敷地売却ができるようになった」と解説した。

「しかし、問題は区分所有法。現状で区分所有法に解消の制度はない」と指摘。出口を考えずに走りだしてしまった制度だと憤った。


これに対し久保は「建替えや売却など、マンションに解消という出口がないということは問題だが、実は区分所有者にも出口は用意されていない」と斬り込む。

「独居老人となった時、自分の死後はどうなるのかという問題がある。相続人がいなくても国が引き取ってくれるというわけでもない。管理組合には重くのしかかる問題となり、相続財産管理人制度を利用せざるを得ない状態になる」と八方ふさがりの事例を展開する。

果たして日本人にとってマンションとはなんなのだろうか、その解決の糸口を探るべく、リゾートマンションの温泉設備を巡る維持管理や滞納管理費の問題、またシニア向けマンションでは認知症を患うと退去しなければならないという規約がある問題、投資用ワンルームマンションの利益相反への問題、タワーマンションの解体問題なども例に挙げられる。

一方で丸山は定期借地権へと話を移す。「50年など期限付きの借地の上で建てられていることで、出口が明確になっているマンションもある。この出口に向け解体費用を積み立てることは、終わりを想定していない場合と異なる点では総じて評価できるのでは」という持論を展開した。

さまざまな観点からの議論がなされたところで、丸山が「これまでに出てきたキーワードを分類し、マインドマップのように見える化してみる」ことを提案。カテゴリー分けされた課題について、より専門的な見解を促した。
 

マインドマップ

先に回答を求められた久保は、「高齢化」が最たる課題だと指摘。建物の高齢化はもちろん、人の高齢化は「認知症問題」へと発展し、マンション内でも認知症の入居者を巡るさまざまなトラブルが起こっている実情を紹介した。また、独居老人の孤独死も起こり得ることであり、人の高齢化とマンション、そして認知症対策こそ、これからのマンション管理業界のミッションだとコメントした。

続いて佐藤氏が挙げたのは、「区分所有法」について。現在「建替え円滑化法」と共に改正の議論が進められているとし、「日弁連からも検討メンバーを派遣し『区分所有法研究会』を発足された。私もその委員会の特別委嘱委員として参加している。建替え用件では、5分の4の決議を、4分の3ないし3分の2まで緩和できないかなどが検討されている」という貴重な情報を明かしてくれた。

高度成長期に住宅不足であった日本において、とにかく建物を作るために作られた法律であったことは間違いない。これによりマンションブームが起き現在に至る。しかしながら、弊害や将来の不安も見えてきた現代。そのまとめとして丸山は、悲観的な言い方になってしまうようだがと付け加えた上で「“マンションとは日本人にとって、なんなのだろうか?”、その答えは、あるべき姿を法律が示してくれないが故に、経験と知識のない多くの日本人を困らせる住まいへとなってしまいそうだ」とした。

「出口のあるマンション」──ここに着目することで、マンションの未来と課題に対する“出口”が見えてきそうだ。

次回の配信は7月27日(水)16時より、「管理計画認定制度施行された!管理組合が絶対押さえておくべき重要ポイントとは」というテーマで、ゲストにはマンション管理に関わる弁護士の土屋賢司先生をお招きし、セミナーを予定している。

この記事の取材者

浅井ユキコ