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2022.10.20

第3回 マンションみらい価値研究所セミナー
「高経年マンション~答えが無いのが答え」

オンラインセミナー第3弾が10月5日に配信された。今回は、明海大学准教授の小杉学氏を迎え、これまでの研究とご実績を伺う。 

小杉准教授は、明治大学理工学部建築学科を卒業後、千葉大学大学院自然科学研究科に進み博士号を取得。現在は日本で唯一の不動産学部である、明海大学不動産学部で教鞭を揮っている。専門は都市計画ということで、准教授となるまでの経験も踏まえお話しいただいた。

冒頭、小杉准教授は「ひらがなで書く“まちづくり”に関心がある」と述べ、デベロップメントである“街づくり”との違いを示唆する。つまり、「まちづくり」は「人」や「暮らし」が関与することを意味する。准教授がコーポラティブ住宅の研究に参画するきっかけとなったのも、まさにこの点である。

それは1枚の写真に衝撃を受けたことにはじまる。その集合住宅の名前は「ユーコート」。入居希望者が組合を作り、土地取得から設計・建築の手配まで行うという点まではいわゆる「コーポラティブ住宅」と同じだが、大きく違うのは「住んでから」。全48戸の住宅はすべて間取りが異なって作られた自由さを備えているが、共用の中庭に犬を放し飼いにして全員で世話をし、子どもたちは親だけでなく大人全員で見守るという、一昔前の下町のような共同生活が存在するという。つまり、建てるまでが共同なのではなく、住んでからも共同であるところが「コーポラティブ住宅」の概念を超越している。小杉准教授にとってまさにパラダイスに見えた。

こんな理想的な住まい方もあるのだというお手本をみつけたところで、小杉准教授は我に返り、「これはレアケースだろう」とユーコートへの興味を一時期失うことになる。郊外で資産価値が低下する高経年・高齢化マンションなど、より社会性のあるものを研究テーマに切り替えた。

しかし巡り巡って、恩師より、25年が経過したユーコートの調査チームに参加してほしいと誘われる。再びユーコートと向き合うことになるのだが、そこで目にしたのは「25年間変わらないコミュニティがあった」こと。「それどころか独自の文化に成長を遂げていたんです」と語り口調にも熱が入る。彼らチームはこの現象を「集住文化」と呼び、どのような工夫のもとにこのコミュニティが形成されたのかを分析していく。

結論を先に言ってしまうと、ユーコートの管理組合の在り方にヒントがあり、そこでは「全員同意」が大前提に執り行われているのだという。この「全員同意」が肝であり、それには徹底的な話し合いがなされるといい、次第に団結力へと昇華、今ではユーコートはブランド化されるにまで至っている。どういうことかいえば、こうした集住文化のコアなファンがつき、売買もある意味“オーディション”で決定されている。レアケースであるかもしれないが、高経年マンションの成功例としては十分な事例だろう。
 

ユーコートの件が一旦の結論を迎えたところで、話題は再び建替え問題に。日本の現在の建替えの問題点は「どんな建物でも直せるが、そこには莫大なお金がかかる」こと。

そこで取り組んだのが、横浜にある約450戸の団地の建替え。住民の約55%と半分以上の人が権利を手放して転出している状態であり、建替えの難しさを感じさせた。資金面で自己負担せず建替えを行う道を選択すれば、手に入るのは建て替え前より狭いわずか30平米程の部屋。さらにのしかかるのは、建替え期間中の仮居住費用、引越し費用という経済面、さらに高齢者であれば肉体的な問題も加わる。「建替え」というと「新しいところに住める!」と思いがちだが、現実はそうも容易にはいかないことが多い。

ではそのまま古い建物に住み続けることができるかといえば、建物の老朽化が地域社会に与える影響を考えるとそうもいかない。そうした八方塞がりな現状に風穴をあけるべく、小杉准教授の同僚である藤木亮介先生が「建替えをせずに建物を新築時のレベルまで引き上げる」ことを研究、また都内のある集合住宅で提案しているという。これが可能になるのはまさに理想であり、悲願だ。

マンションを買った、住んだはいいが、その後の維持や終わり方に多大な心労と費用を要する結末を迎えている。これを小杉准教授は恋愛に喩え「太古から現代まで『こうすればうまくいく』という答えがない。だから想像力を働かせて自分磨きをしたり関係性を良くしようとしたりする」と語る。

結局のところ、建物というハード面の問題に関してであっても、人と人の話し合いにより解決できることがたくさんあるということ。慣例や法律の前に辛酸を嘗めるのではなく、共有する者同士が想像力を働かせ、徹底的に話し合うことで打開できることはいくらでもあるそうだ。先のユーコートがその理想を示してくれている。

次回の放送は12月7日(水)16時より、「“第三者管理方式”の本質を探る 見えてくる大切なこととは?(仮)」と題し、第4回マンションみらい価値研究所セミナーを予定している。
 

この記事の取材者

浅井ユキコ