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2023.9.7

第10回 マンションみらい価値研究所セミナー「住まい方ひとつで人間関係は変わる。〜マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援~」

8月17日(木)、第10回となるセミナーが開催された。今回は静岡大学名誉教授 外山知徳先生、そして先月のセミナーでもご登壇いただいた不動産コンサルティングマスターの株式会社CAN代表取締役 加納幸典さんをお招きし「住まい方ひとつで人間関係は変わる。〜マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援~」と題してお届けする。

「8050(はちまるごーまる)問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、高齢化問題のひとつとして取り上げられ、80歳代となった親が引きこもり状態にある50歳代の子どもの世話をする、といった逆転の構図を表したものである。

こうした家庭のあり方は今後さらに深刻化が予想されることから、昨今ニュースとしても頻繁に取り上げられるようになった。このように多様化する親子関係が生み出すさまざまな社会問題を「住まい」の観点から研究されているのが、住居学の専門家で一級建築士の資格を持つ外山先生だ。

セミナーの中で先生は、過去に担当した登校拒否児童の例を挙げ「家の中に自分のテリトリーを形成できたことで、登校拒否が直った」ことを解説。これに対し「マンションみらい価値研究所」所長の久保依子が「親からの愛情が希薄だったのか?」という疑問を投げかけると、外山先生は「そんなことはなかった」と言う。

では、何が原因で登校拒否をするようになってしまったのかについて、外山先生は「家の中で自分の居場所を確保できなかったことが問題」だとした。居場所とは、自分用の部屋を提供することが必ずしも最善策ではないようで、「たとえば『ここはお父さん専用の場所』と座布団一枚を用意するのでもいい」と言う。それにすかさず反応する久保は「ええ、うちの夫がそうです(笑)」と笑いを誘った。つまり、その人物にとって心の安定が担保できる居場所づくりが重要だということだ。

先の登校拒否児童も、兄が就職して独立したことをきっかけに、兄が使っていた部屋に自分の机や寝具を置き、好きなアイドルのポスターを張り、部屋の在り方を変えたことにより、自身の居場所を確保することができ、心の安定を取り戻したようだ。

このことからも、子ども部屋を与えることが問題の予防策になるとは必ずしも言えないが、一方で与えないことで起こり得る問題もあると指摘。噛み砕くと、自分の部屋を与えられたとして自立に耐え得る成長を満たしていない子どももいるであろうし、親と離れた環境を提供することで抵抗心を抱く場合もあるという。

その反対に、自我が確立され思春期を迎えると、四六時中親と寝食を同じ空間で過ごすことにストレスを感じることもあるだろう。肝心なのは、子どもの成長過程を見守ることと、普段からのコミュニケーションであり、それらをふまえた上で住まいの空間分けなどを考えるべきなのだと語る。

この流れから、国民的マンガ『サザエさん』一家の住まい環境を事例に挙げ「成長したカツオを、いつまでも妹のワカメちゃんと同じ部屋に住まわせるわけにはいかないだろう」「その場合、ワカメちゃんにはどの間取りを提供すべきか」とし、「カツオには玄関脇の6畳間を提供したらいいのではないか」、その場合「ワカメちゃんは客間が相当か?」「タラちゃんは……」という具合に、国民的マンガの家族を例にとって考察するなど、より身近に考えさせられる一幕もあった。

こうした「テリトリー形成能力」を意識した家づくりを提案する外山先生とタッグを組み共同開発した住まい提供をした経験があるのが、当時はデベロッパーで勤務していた不動産業界活用コンサルタント・加納さん。

企画・開発当時は、デベロッパーと大学が共同研究をすること自体が珍しかったため、加納さんが所属する会社内で賛否あったようだが、既存顧客に配布する会報誌でこの話題を取り上げたところ、予想を越えた反響があったと振り返る。その共同研究の末、「絆プラン」という住まい方を開発し、実施に販売に至ったのもこうした背景があったからだと言う。

購入当初の家族構成や年齢による住まい方、そして経年後の住まい方に対し、フレキシブルに対応できるのがこの「絆プラン」であり、家族一人ひとりの快適な暮らしを「間取り」がサポートしていくというものだ。

また、セミナー後半では「バリアフリー」という言葉にも触れている。この解釈として認識の最前にあるのは「段差のない空間」であるだろうが、外山先生はここにも10のADL(日常生活動作/Activities of Daily Living)を高める住居のポイントがあるという。

こうした議論を受け、加納さんは今後のデベロッパーの取り組みとして「現状だけではなく、中長期目線で対応する姿勢が求められる」とコメントした。

今回使用したレポート:マンションで暮らす「配慮が必要な方」への支援のあり方(2023.8.3)


次回は9月14日(木)16:00から「老いの本質をとらえて、マンションライフを考える」と題し、配信を予定している。
 

この記事の取材者

浅井ユキコ