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2024.3.19

第15回 マンションみらい価値研究所セミナー「驚愕!! こんなに違うの?〜韓国のマンション管理事情〜」

2月29日(木)、第15回となるオンラインセミナーが開催された。今回はゲストに韓国で最も多い管理戸数を誇る「ウリ管理株式会社」の盧 炳龍(ノ・ビョンヨン)会長をお招きし、「驚愕!! こんなに違うの?〜韓国のマンション管理事情〜」と題してお届けした。司会とナビゲートは、マンションみらい価値研究所・所長の久保依子。

今回ご登壇いただいた盧会長は日本語が堪能で、さらに日本の住宅事情にも詳しいのだが、そのご経歴について伺った。大学では建築工学を学び、卒業後は現・サムスン物産建設部門に入社。その後日本の大成建設にも出向の経験を持つ。さらに1年間にわたり慶応義塾大学ビジネススクール(以下、慶応ビジネススクール)で学んだ経験をお持ちだということだ。

さて、今回は日本と韓国の管理会社の違いを考察する回として、まずは管理会社の受託戸数の比較を行った。マンション管理新聞が毎年発表する「2023年版 マンション管理会社受託戸数ランキング」によると、大和ライフネクストは第6位にランクインし、戸数は約27万6千戸。そして第1位の管理会社は約50万戸、第2位が約49万戸となる。

一方で盧会長が起業したウリ管理会社はというと、なんと98万2千戸の管理を受託しているという。その数は、日本の1位2位を合算した戸数に匹敵する。韓国といえば、韓流ドラマにもよく登場するセレブリティなマンションをイメージする人も多いだろう。さぞや韓国のマンション管理事情は大きなお金が飛び交っているのだろうと思いきや、「実はあまり儲かっていない」と盧会長は明かす。さらに、国民の3/4がマンション住まいであることから、必ずしもステータスになるとは言い難いとも。その実態をひとつずつ紐解いていった。

1997年、盧会長が慶応ビジネススクールで受講をしている頃、韓国では「通貨危機」が起こる。国家破綻の危機ともいえる事態を受けて、本来であれば1998年春の卒業予定を半年早める形で急ぎ帰国したという。当然住宅産業にも大きな影響を及ぼし、順調に分譲していたマンション市場は大混乱となり、未分譲が増えていったという。

韓国では、建設会社がマンションを建設し、販売も行っていた。盧会長が未分譲の解消のために日本の分譲マンションビジネスの実態を研究したところ、日本では建設会社ではなくデベロッパーが分譲マンションを計画し、販売を行っている事実を知る。日本のデベロッパーにヒアリングを行った際、盧会長が「韓国では100倍・200倍の競争率がある」と話したところ、「それはもっと高く売れるものを安売りしているということであって、機会損失になっているのではないか」との指摘があったそうだ。そのほかにも、韓国の建設会社では「売ったら終わり」であるのに対し、日本のデベロッパーは「売った後の暮らし方」にまで携わることなど、管理に対する感覚の違いを知り、学べる点が多かったという。

ヒントを得たのは「管理はストック産業である」という言葉だったと盧会長は話す。「まさに目からウロコが落ちる思いがした」と、発想のギャップに驚いたようだ。

こうした経験をもとに、2000年にサムスン物産の子会社として管理会社が設立され、盧会長が当時副社長に就任。その後に独立し、2002年に既存のマンション管理会社を4社買収して「ウリ管理会社」を起業した。ウリ管理会社は設立当時から現在までに至るまで、韓国最大手の管理会社である。

一方で、その収益構造にはまだまだ課題があるようだ。実際にどのような仕組みでビジネスを行っているかについて、韓国のマンション管理法律年表を用いて解説が行われた。その中でも注目すべきは、1984年4月に施行された「集合建物の所有及び管理に関する法律制定」だ。これは日本でいうところの「区分所有法」にあたり、実際に日本の区分所有法から学び作られたものだとした。

日本では区分所有法を前提とし、そこからさまざまな法律が施行された経緯があるため、ここも日本と韓国で大きく異なるポイントであるといえよう。

また、2015年には「住宅管理士制度」が新設されており、300戸以上のマンションには必ず住宅管理士を管理事務所長にすることが法律で定められているということだが、これは日本でいうところの適正化法に定める「管理業務主任者」にあたると思われる。

日本では、分譲マンションの区分所有者で管理組合を構成し、区分所有者が理事長をはじめとする役員を選出、そして理事会がつくられることが一般的である。一方韓国では、区分所有者および占有者が区分所有者の中から入居者代表会議のメンバーを選出する仕組みで、2020年からは区分所有者が不足する場合に占有者もメンバーに選ばれることが可能になったという。とはいえ、占有者──つまり賃借人が会長の座に就くことはできないようだが、占有者も議決に参加できたり、メンバーに選出されるという点で日本とは大きく異なっている。


その占有者だが、韓国では管理費を支払うのは区分所有者ではなく占有者であり、修繕積立金は区分所有者が払うのだそうだ。

そして先述した通り、盧会長が講演中に語った「受託戸数の割にあまり儲かっていない」という管理の仕組みについて紹介する。「管理会社の位置づけ」として、まず日本では、管理会社と管理組合は管理受託契約を締結し、管理会社から管理員やフロント社員などを派遣する形で運営をサポートしている。

一方韓国では、入居者と管理会社が管理受託契約を締結するところは同じで、「委受託契約」というのだそう。形式上は似ているのだが、実際の中身はというと「管理組合の管理会社への支払いは委託手数料のみ」だという。そこで問題は、管理事務所長である住宅管理士をはじめとする多くの常駐管理員の給与がどこから支払われるのかということだ。その給与は、入居者代表会議──つまり日本でいうところの管理組合が直接支払いをしているという。つまり、管理会社は住宅管理士などを雇用し教育を行っているのに、彼らに給料を支払っていないということだ。よって「委受託」による「手数料」には人件費は含まれないことになるのだ。

その「手数料」がどのぐらいになるのかという質問では、「恥ずかしいですね」と盧会長が前置きしつつ、「坪あたり2円が韓国の平均」だとした。これでは、韓国の通常のマンションでは、戸当たり数十円となってしまう。なお、韓国の「手数料」にあたるものを日本にあるもので置き換えて考えてみると、標準管理委託契約書に定める「事務管理業務費」となるが、これは一般的には戸あたり数百円から千円を超える程度といわれている。

このような仕組みとなった理由として盧会長は「以前は悪徳業者の横行などもあり、管理会社がお客様から信頼を得ていなかったからではないか」と考察した。

盧会長が管理会社を起業した当初は、日本の管理会社をモデルに事業基盤を築こうとしたとも明かす。しかしそこには韓国特有の仕組みが大きなハードルとして立ちはだかったことから、日本のモデルを追うのではなく、いかにして韓国独自の管理事業を展開していくかが現在の課題だと話す。そのためには、人を核としたプラットフォーム化を通じて、マンション管理を発展させていきたいと語った。

この記事の取材者

浅井ユキコ