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2020.7.22

外部区分所有者協力金の現状
~役員のなり手不足の解消、不公平感の是正はされているか~

会計・資金

理事会・総会

外部区分所有者協力金の現状 ~役員のなり手不足の解消、不公平感の是正はされているか~

 役員のなり手不足の解消、不公平感を是正する手段として役員に就任した区分所有者に役員報酬を支払うことができることは、マンション標準管理規約第37条にも規定されている通りである。ここでは、前回レポート(Report 13:管理組合の役員報酬・防火管理者報酬の実態について)とは反対の発想となる、役員に就任しない区分所有者に一定の金銭的負担を求める管理組合についてその現状を分析する。
 本レポートで使用する用語の定義は下記の通りである。
 ● 協力金:特定の区分所有者に管理費等以外に求める金銭をいう
 ● 外部区分所有者:マンションに居住していない区分所有者をいう
 ● 内部区分所有者:マンションに居住する区分所有者をいう
 2020年5月マンションみらい価値研究所レポート「管理組合の総会では何が決議されているか」で明らかにした通り、協力金請求事件(最高裁判所平成22年1月26日判決平20受666号、以下「判例」という)により、外部区分所有者に協力金を求めることが認められて以降、特定の区分所有者に負担金を求める管理組合が増加している。
 総会議案書、議事録を読み解くと、判例以前は、役員に就任しない区分所有者に対し、ある意味、罰金的な要素のある協力金に対して否定的な意見も存在していたが、判例以降はそうした否定的な意見よりも役員就任をめぐる不公平感を是正しようとする意見がより強くなっているように思われる。協力金は管理組合が徴収する金銭として一般化している傾向があるのではないかと考えられる。

1.協力金を徴収している管理組合の属性

 協力金のある管理組合はどのような管理組合であるか、またその理由は何かを下記の通り推察した。
( )内は理由

 ①小規模マンション(輪番制により、役員への就任が比較的早く回ってくる)
 ②外部区分所有者が多いマンション(物理的距離を理由として役員会に参加しない、できない者が多い)
当社受託管理組合総数3,961件のうち、協力金を徴収している管理組合は231件(5.8%)である。
 マンションの戸数帯別に受託管理組合総数と協力金を徴収している管理組合とを比較したが、協力金を徴収している管理組合は少戸数マンションに多いという傾向はみられなかった。受託管理マンションのうち、50戸未満のマンションは54%、協力金を徴収している管理組合のうち50戸未満のマンションは53%であり、その差はほとんどない(図1参照)。

図1:協力金あり管理組合の戸数傾向

 マンションの築年数別に受託管理組合総数と協力金を徴収している管理組合と比較すると、協力金を徴収しているマンションは築年数の経過したマンションに多いという傾向がみられた。受託管理マンションのうち、築20年を経過したマンションは49%であるが、協力金を徴収している管理組合のうち、築20年を経過したマンションは68%である(図2参照)。

図2:協力金あり管理組合の築年数傾向

 外部区分所有者の割合を受託管理組合全体と、協力金を徴収している管理組合とで比較すると、協力金を徴収している管理組合は外部区分所有者が多いという傾向がみられた。受託管理組合全体の外部区分所有者比率は11.0%であるが、協力金を徴収している管理組合の外部区分所有者比率は14.2%である(図3参照)。

図3:外部区分所有者比率

 以上から、協力金を徴収している管理組合は、下記の通り、戸数ではなく築年数と相関関係があると考えられる。
 ①築年数が経過したマンション(後述)
 ②外部区分所有者が多いマンション(物理的距離を理由として役員会に参加しない、できない者が多い)
()内はその理由

2.協力金の対象となる者

 協力金を徴収している管理組合231件の管理規約、使用細則、総会議事録から協力金の規定を抽出すると251件の規定がある※。具体的な規定の内容は下記の通りである(表1参照)。
※1件の管理組合で複数の規定があるものは複数算入しているため、管理組合数とは一致していない。

表1

 管理組合の規定ごとに対象者に重複があることから、対象者ごとに分類すると下記の通りとなる(表2、4)参照。

表2
図4:協力金の対象となる者(N=251)

 外部区分所有者に協力金を求める規定が68.3%と最も多くなっているが、内部区分所有者であっても役員を辞退する者(30.3%)、役員に就任したとしても一定数の役員会に参加しない役員には協力金を求める規定(1.2%)もあり、外部区分所有者ばかりでなく、区分所有者全員に対しても協力金を求める傾向がうかがえる。役員に就任しないことへの不公平感は外部区分所有者のみならず、内部区分所有者に対しても存在していると言える。

3.協力金の額

 協力金の徴収は、毎月であったり年1回であったり、請求方法は管理組合ごとに様々である。年額に換算すると10,000円以上15,000円未満が34%と最も多く、次に20,000円から25,0000円未満が20%となる(図5参照)。月額にすると1,000円から2,000円の範囲が半数以上となる。
なお、最低額は年額200円、最高額は年額60,000円である。

図5:協力金の年額(N=251)

4.まとめ

 マンションの入居者名簿には、年齢を記載する欄がないことが多く、当社でも各マンションの年齢構成は把握していない。売買や相続による区分所有者の変更があるため、一概には言えないが、築年数の経過したマンションの区分所有者が築年数に比例して高齢化していると仮定するなら、高齢であることを理由として役員就任を辞退する区分所有者が一定数存在するのではないだろうか。

 不動産広告等で「戸建てとマンションのどちらを購入すべきか」というタイトルを見かけることがある。マンションを購入するデメリットとして、所有し続ける限り管理費等の負担が生じること、高齢者には負担が大きいことが挙げられていることがある。高齢者に管理費等が負担であるなら、高齢を理由として役員を辞退する区分所有者にとっては、さらに負担が増加することになる。過度に負担が大きくなると未収金の増加にもつながりかねない。

 一部のマンションでは、協力金の規定があるものの、免除の特例を認めている事例もある(図6参照)。協力金に差を設けたり、免除規定を導入することも大変参考になる。ただし、管理組合が入居者名簿等により収集していない個人情報(年齢や続柄等)の提供を求めなければ確認できない免除規定は、その個人情報の取扱いに注意が必要である。

図6

 本レポートにより、協力金の負担のあるマンションは概ね下記のようなマンションであることが明らかとなった。
 ①築年数が経過したマンション(高齢であること等を理由として役員に就任しない、できない者が多い)
 ②外部区分所有者が多いマンション(物理的距離を理由として役員会に参加しない、できない者が多い)
 今後、マンションの高経年化、区分所有者の高齢化はますます進んでいく。それに伴い協力金の導入を検討する管理組合も増加することが予想される。本レポートを参考に不公平感の是正が適切になされることを望みたい。

以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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