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2022.4.28

ITを活用した総会・理事会の開催実態(第1回)
~フロント社員アンケート調査結果から~

組合運営のヒント

理事会・総会

ITを活用した総会・理事会の開催実態(第1回) ~フロント社員アンケート調査結果から~

1.これまでの動き

  新型コロナウィルス感染拡大前から、クラウドコンピューティングを使用したWeb会議(例 Zoomや Microsoft Teams等 以下、「ITを活用した理事会、総会」という)は実験的に検討が進められてきた。問題点や課題は明らかになっていたが、当時は一部の管理組合の導入に留まっていた。
 その後、コロナ禍を迎え、ITを活用した理事会、総会に対する関心が一気に広がった感がある。ただし、2020年頃は、管理規約等に何の記載がなくともITを活用した総会の開催ができるのか、管理者による事務報告をIT を活用した総会で実施してもよいのか等の質問が関係各団体等に多く寄せられたようである。こうした質問 に回答する形で各団体から様々な公表がなされていた。これらをまとめる形で、2021年6月に改正されたマン ション標準管理規約およびそのコメントが公表され現在に至っている。
 それでは、実際にITを活用した理事会、総会はどの程度開催されているのだろうか。今月は第1回目としてITを活用した理事会に焦点を当てる。

年表

2.アンケート調査の概要

 大和ライフネクスト株式会社に勤務するフロント社員、および技術系社員にIT総会・理事会の開催に関するアンケート調査を実施した。

アンケート概要

[用語の定義]
リアル理事会:集会室や近隣の公民館などの特定の場所で開催する理事会
IT総会・IT理事会:ZoomやTeamsなどを利用してリアル会場と会場以外の場所にいる区分所有者等と通信回線を用いて開催する総会・理事会

3.アンケート調査の結果

アンケートの設問とその結果を図で示す。

3-1.オンライン理事会の活用状況

[設問1]
あなたの担当マンションのうち、①~⑤に該当する組合数を選択してください
①ほぼ毎回のようにオンライン理事会を活用している組合数
②半分以上はオンライン理事会を活用している組合数
③半分以下だが、オンライン理事会を活用している組合数
④オンライン理事会を活用することを検討したが利用していない組合数
⑤オンライン理事会を活用するこは検討したことがない組合数
□0 □ 1~2 □ 3~4 □ 5~6 □ 7~8 □ 9以上

 アンケートはMicrosoft Formsを利用して作成しており、選択肢は6肢までに制限される。そのため、1~2、3~4と幅を持たせた選択肢とし、集計時は1~2を1.5組合、3~4を3.5組合、9以上を10組合と中央値にて集計した。担当組合数と中央値での組合数の誤差は8組合であり、これを不明としている。

■図1 ITを活用した理事会の開催状況             N=1,996組合

設問1に関する考察

 ITを活用した理事会を開催したことがある管理組合は12%である。これを高いと考えるか、低いと考えるか。 管理組合の意思決定は、会社組織にあるようなスピードでは進まない。理事会は月に1回もしくは隔月に1回、という開催頻度が平均的なところである。ビジネススピードで考えれば数日で判断が得られるような議題 でも、意思決定に数か月はかかる。マンション管理に関わったことのない方には理解しにくいことかもしれな いが、管理組合のスピード感をビジネスと同一に考えてはならない。
 ITを活用した理事会は、2021年6月のガイドラインの公表からまだ1年しか経過していない。ガイドライン が公表されてから、1理事会役員がそれを知り、2試しに利用してみようかという声が出て、3理事のIT利用 環境についてお互いに情報を共有し、4試験的に活用の準備をし、5試験的な開催をする、それだけで半年以 上の時間は経過するであろう。
 つまり、理事会や総会で活用しようとしている管理組合にとっては、2022年が「ITを活用した理事会開催元 年」とも言える年になる。すでにITを活用した理事会が12%で開催されているのは、こうした検討プロセスを 1年以内に実施できたということであり、アーリーアダプターであろう。多くの理事会にとって、ITの活用はま だ検討段階であると考えられる。

3-2.理事会へ参加する役員の数

[設問2]理事会へ参加する役員の数の変化についてお聞きします。①~③に該当する組合数を選択してください
①リアルのみで開催していた時よりも、参加する役員が増えた組合の数
②リアルのみで開催していた時と、変化はない組合の
③リアルのみで開催していた時よりも、参加する役員が減った組合の数
□0 □ 1~2 □ 3~4 □ 5~6 □ 7~8 □ 9以上

■図2 理事会に参加する役員の数の変化                 N=239

設問2に関する考察
 
 ITを活用した理事会は、「時間と場所」の制約から「時間」だけの制約となるため、理事会に参加する役員の数は増加するのではないか、という仮説を立てていた。アンケート結果では、参加する役員の数が増えたとする管理組合が26%、減ったとする管理組合が11%となった。仮説通りに増加するとした管理組合がある一方で、減ったとする管理組合はどのような理由で減ったのだろうか。アンケート調査ではその理由に関する設問を用意しなかったが、フリー記入欄に記載されている事項やアンケート調査後に担当者にヒアリングした結果から次のような理由があると考えられる。
①リアル理事会の場合、参加人数や欠席者が誰であるかは一目瞭然であるが、ITを活用した理事会はそうした出席状況が分かりにくい。「欠席すると他の理事に迷惑がかかる」等の心理が働きにくいのではないか。
②時間と場所の指定がある方が、理事会という環境が整いやすい。時間指定だけの場合、「どこにいても参加できるであろう」ことから、結果として個々の役員の場所という環境が整わないのではないか。(例 周囲が散らかっている、子供が近くにいる等)

3-3.理事会の開催頻度

[設問3]理事会のうち、リアル理事会の開催回数の変化についてお聞きします。①~③に該当する組合数を選択してください 。
①リアル理事会だけで開催していた時よりも、リアル理事 会の開催回数が増えた組合の数
②リアル理事会だけで開催していた時と、変化はない組合の数
③リアル理事会だけで開催していた時よりも、リアル理事会の開催回数が減った組合の数
□0 □ 1~2 □ 3~4 □ 5~6 □ 7~8 □ 9以上

■図3 理事会の開催回数の変化 N=239

設問3に関する考察

 2年間にわたるコロナ禍で理事会の開催数は減少していた。ITを活用することにより、理事会の開催回数の減少傾向は止まるか、むしろ従来の開催回数に戻り、増加傾向にあるのではないかという仮説を立てた。理由は次の通りである。
 ● 対面への不安が払拭されること
 ● 事前に公民館等の会場の予約が必要がないことから集会室のない小規模なマンションでも開催しやすいこと。
 アンケート結果では、増加したとする理事会が9%、変わらないとする理事会が71%、合計で約80%の管理組合で従来通りの理事会が開催されており、仮説通りの結果となった。一方、減ったとする理事会が20%あった。その理由について設問2と同様にヒアリング調査を行った。
 ● 理事会の開催はあらかじめ事業年度の初めに月1回、隔月1回など日程が決められており、一度決定した理事会の開催数は変更されない。
 ● 一部を除き、理事会はできる限り開催しない方向に意見が流れがちであり、ITを活用した理事会の開催が可能になっても増やそうという意見は出にくい。
 理事会活動に消極的な管理組合は、ITの活用の如何にかかわらず一定数は存在する。こうした理事会を活性化させるツールにまではなり得ていないようである。

3-4.役員の議題への理解度

[設問4]リアル理事会だけで開催していた時と比較して、役員 の議案への理解度に変化はありましたか?①~③に該当する組合数を選択してください。
①リアル理事会だけで開催していた時よりも、議案への理解度が増えたと感じる組合の数
②リアル理事会だけで開催していた時と、変化はない組合の数
③リアル理事会だけで開催していた時よりも、議案への理解度が減ったと感じる組合の数
□0 □ 1~2 □ 3~4 □ 5~6 □ 7~8 □ 9以上


[設問5]「理解度が増加した」または「理解度が減少した」要因について、ご自身のお考えをご記入ください。
【例】・パワーポイント資料などを共有できるので理解が深まりやすい ・音声が途切れることがあり理解しにくい 回答を入力してください。(フリー記入)

■図4 議案への理事の理解度の変化 N=239
■図5 理解度が増加したと感じる理由 N=22
■図6 理解度が減少したと感じる理由 N=64

設問4、5、6に関する考察
 
 ITを活用した理事会では、パワーポイントの利用や写真や画像、動画の共有なども可能であることから、役員の議案への理解度は増加したと感じている担当者が多いのではないか、という仮説を立てた。
 アンケート結果では、増加したとする理事会が8%である一方、減ったとする理事会が33%となった。仮説とは異なる結果である。
 理解が増加したと考える理由として回答あった22件のうち、画面の共有ができることが8件と最も多かった。理解度が減少したとする理由は回答のあった64件のうち「音声が聞き取りにくい」が24件と最も多く、続いてWeb参加者が発言しないとする理由が10件あった。なぜITを活用した理事会では発言しなくなるのか。考えられる理由は次のようなものである。
 ● 音声が聞き取りにくいため、論点がわからない。
 ● 議長や参加者の反応が分かりにくい。的外れな発言をしてしまうのではないかという不安。
 ● 反応のタイミングが分かりにくい。発言が他の人とかぶってしまうのではないかという遠慮。
 音声が聞き取りにくい、画面が不鮮明などは通信環境などの外的要因によるものであるが、それらに起因し て、不安や遠慮が生じていると考えられる。クリアな音声と画像は理事会の開催には必須であると考えられる。しかし、ITの活用とリアル理事会を併用して開催する場合には、集会室等にWi-Fi環境がない場合が多く、また、役員の個人の通信環境も様々だ。こうした通信環境をどのように整えるのかが最大の課題であろう。
 
 次回は、ITを活用した総会についてアンケート調査結果とともにレポートする。

以上

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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