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2022.7.14

管理組合は修繕積立金を値上げできるか。
~積立金の値上げ議案に対するネガティブな質疑の6類型~

会計・資金

長期修繕計画

管理組合は修繕積立金を値上げできるか。 ~積立金の値上げ議案に対するネガティブな質疑の6類型~

 管理組合の修繕積立金不足が問題になって久しい。積立金不足を解消するには、積立金を値上げする必要があるが、総会で可決するのはなかなか厳しい議案のようである。
 管理組合の理事の多くは輪番制である。積立金の値上げ議案が審議される総会では区分所有者から多くの質問が出る。多くの人は、自分が理事長になった年に積立金の値上げをしたくはないだろう。そのため、この議案の上程には及び腰になると想定される。
 積立金の値上げ議案に関する質疑応答の傾向をまとめたものは筆者の知る限り存在しない。こうしたことから、理事長の不安を解消する手段はなく、積立金の値上げ不足の対応はますます後手になっていく。
 2015年8月から2021年7月までの6年間に積立金の値上げを総会の議案とした1,694組合3,316議案のうち、無作為に1,086組合(調査率64%)2,531議案(調査率76%)を抽出し、その内容を調査した。
 今回は、この分析結果から、値上げに対してネガティブな意見を述べた区分所有者の発言内容を分類し、適切な積立金の値上げについて合意形成を図るにはどのようにしたらよいかを考察し、総会前に準備できる質疑応答への対応策をまとめた。

1.質疑応答の有無

 積立金の値上げ議案について、議事録に「特に質疑応答はなく、原案通りに可決された」等の記載がある議案は483件(19%)、何らかの質疑応答がある議案は2,048件(81%)であった(図1参照)。

図1

2.質疑の内容

何らかの質疑応答の記載がある議案2,048件の質疑の内容は、図2のとおりである。

図2

 それぞれの質疑における具体的な質問例は表1のとおりである。

表1

3.ネガティブな質疑の6類型

 さらに質疑は、議案に対してどのような立場で発言されているのかにより分類することができる。特に値上げに対してネガティブな発言では、同じ質疑の内容でも、誰に向けられた質問や意見なのか、どのような質問形式なのかによってそれを受けた議長や議長の指名する者の回答が異なっている。
 こうした質疑応答の形式について分析したところ、代替案提案型、自己主張型、理事会批判型、管理会社批判型、売主批判型、他者代弁型の6類型に分類されることが分かった(図3参照)。

図3

 それぞれの類型における特徴的な発言は表2の通りである。

表2

4.ネガティブな質疑の6類型と他の区分所有者への影響

 総会議事録を読んでも、直接、発言者の感情の強弱が推測できるわけではないが、ネガティブな意見の場合、議事録の文脈から感情を読み取ることはできる。「怒り度」ともいうべき感情の強弱と、他の区分所有者の質疑への影響度合いをイメージ図に表すと図4のようになる。

図4

 自己主張型は議事録の文脈から発言者本人の「怒り度」は伝わってくるが、具体的な根拠がないことから、その後の総会の審議において他の区分所有者がその発言に追随する可能性は低いだろう。
 管理会社批判型、売主批判型、理事会批判型はいずれも他者に対する非難を軸とする発言である。その中でも管理会社批判型は「怒り度」が高く、他の区分所有者がそれに追随する傾向がある。総会の場に出席している中で、「値上げ」という共通の問題に対し、管理会社だけが部外者であり、かつ企業と顧客という関係の中で「批判しやすい」存在であることが拍車をかけているのだろう。
 理事会批判型は、理事長から質疑に対して丁寧な説明がされれば、そのまま終了してしまうことが多い。同じ区分所有者同士でもあり、面と向かってはなかなか言いにくいということもあるのだろう。
 他者代弁型は、自己主張型の主語を「私は」から「他の区分所有者の方は」に変換した形である。「高齢の方は」「厳しいご家庭の方は」等、別の立場を代弁する形で発言をしているため「怒り度」は伝わってこない。一方で、他の区分所有者を主語としながらも、実際は、本人の隠れた本音を第三者的に発言している可能性もある。
 代替案提案型の発言は最も他の区分所有者にも影響していると考えられる。代替案の実現可能性が高く、建設的な提案である場合は、その後の総会も建設的に終了しているが、非現実的か、または実現できるにしても相当の時間を要する提案である場合は、議案の審議が他の方向に進んでしまい、結果として決議しなかったり、否決につながっていたりするケースもある。
 

5.考察

 類型別に質疑応答の内容とその対応を考えてみる。

5-1.代替案提案型

 ネガティブな質疑の6類型のうち最も影響力のある代替案提案型の典型的な質疑応答の流れを再現する。
A. 積立金が不足しているのは、駐車場に空きが多いからではないか。収益のあがらない機械式駐車場に多額の修繕費をかける必要はない。積立金の値上げより駐車場空き対策が先だろう。
B. 周辺の駐車場と比較して駐車場使用料が高いと思う。積立金を値上げするより駐車場使用料を値下げして稼働率を上げるのがよいと思う。
C. 他のマンションでは、機械式駐車場を一部平面化したという話を聞いたことがある。台数が減らせれば修繕費も減るだろう。
D. 意見のあった案に対してシミュレーションを提示してほしい。こんなに意見が出るというのは理事会の検討が不足しているということ。管理会社のサポートにも疑問が残る。本総会では決議すべきではない。値上げに関しては次期理事会で検討するべきだ。 

この審議では、次のような論点が交錯している。
① 駐車場の修繕に多額の費用がかかること
② 駐車場に空き区画が多いこと
③ 駐車場使用料が周辺相場に比較して高いこと
④ 機械式駐車場のコスト削減には機械式駐車場の平面化などの対策方法もあること

 積立金の値上げを審議していたはずであるが、駐車場使用料の設定や機械式駐車場の平面化工事に論点が拡散している。これらの意見を反映した長期修繕計画と積立金をシミュレーションしようとするなら、少なくとも次のような収入と支出のパターンを検討することになる。
(ア)駐車場使用料を変動させた収入シミュレーション
(イ)機械式駐車場の平面化工事を実施する場合の工事支出シミュレーション
(ウ)機械式駐車場の平面化工事を実施する場合の駐車場台数の変動に応じた収入シミュレーション

 上記3通りの変動要素を組み合わせて、それぞれに3通りずつの計画を作成したとすると、27通りの長期修繕計画が必要となる。
 たとえ27通りの長期修繕計画を策定したとしても「積立金の値上げをしたくない」という心理状態に置かれたままの区分所有者に、その中から管理組合にとって最も適切な計画を選択するのは難しい。筆者の経験上、すでに積立金を値上げしなければならない状況にあるマンションにおいて「積立金を値上げせず、駐車場使用料を値下げした。」という結論が出たような事例はない。シミュレーションを繰り返す管理組合は、理想の結論を求めて混迷が続くことになりかねない。

◆代替案提案型への対応
 提案された代替え案を採用できるのか、できないのかに対して「調査してからご回答します。」といった回答の場合、提案がどんどん拡大していく可能性がある。代替案が出た場合に「その案はすでに検討し廃案としています。」「その案は実現可能性が極めて低いと思われます。」などの回答ができるようにする必要がある。
 過去に理事会にて検討した工事や過去の修繕履歴などは事前に用意しておくとよいだろう。

◆長期修繕計画の位置づけに理解を
 積立金の金額の根拠となるのは、長期修繕計画である。しかし、長期修繕計画とそれに伴う資金計画は、数多くの変動要素からなっている。修繕周期を変更したり、工事内容を変更したりすれば、無限の数の長期修繕計画が立案できる。積立金の金額の妥当性を追求しようとすると、無数の長期修繕計画を検討せざるを得なくなる。
 長期修繕計画はあくまでも「めやす」にすぎない。工事金額にしても工事会社に見積書を取得している訳ではない。実際の工事費用とは大きく乖離することもある。こうした長期修繕計画の内容への理解が必要である。数年に一度、長期修繕計画について説明の場があるのでは理解は進まない。少なくとも年1回は長期修繕計画とは何かを確認する機会があってもいいだろう。

5-2.管理会社批判型

 積立金の値上げの提案や長期修繕計画の説明は、ある程度の専門的な知識も必要とすることから、議事録を確認すると、区分所有者からの質問に対し、理事ではなく、管理会社が回答しているケースが多い。
 ただし、6種類の質問の型のうち「管理会社批判型」から議論が始まっている場合は、管理会社が回答することよって、論点が積立金の値上げから管理会社批判に移りやすい。
 管理会社は総会の場において値上げの当事者ではなく、かつ企業と顧客という関係から批判の対象となりやすい。積立金の値上げ提案というより、管理会社に対する損害賠償請求事案と化しているような極端なケースさえ見受けられる。

◆管理会社批判型への対応
 積立金値上げ議案の場合、冒頭の説明はもとより、管理会社から回答すべき質問以外は、理事から説明するほうが理解を得られやすい。事前に想定問答集を用意しておき、理事の間で共有しておくべきだろう。

5-3.理事会批判型

 管理会社批判型と比較して理事会批判型は数は多いが「怒り度」は低い。この型の質問として特に多いのが、アンケート調査に関するものである。

① 値上げに反対するか賛成するかを問うアンケート調査の場合
 このケースでは「反対意見が多いのに、なぜ値上げが総会の議案になっているのか。」などの理事会の審議への不信感を生じさせている。
 情報提供がないまま、値上げに賛成するか、反対するかを二者択一形式で調査した場合、反対が圧倒的に多くなるのは当然だ。過去の修繕履歴、将来の修繕工事予測、そうした情報の提供を受けて、初めて値上げについて賛成か、反対かの判断がされるべきである。アンケート用紙だけでなく、他に十分な資料を添付する必要があるだろう。

② 値上げ額について複数の案から1つを投票させるアンケート調査の場合
 このケースでは総会の開催時に、アンケート結果とは異なる増額案を議案とした場合、次のような質問や不信感を生じさせている。
・アンケートの多数意見と異なる値上げ幅の案が議題になっているのはなぜか。
・アンケートと異なる議案にするなら、アンケート調査の意味がない。
・値上げありきでアンケート調査をしている。増額幅を問うアンケートはおかしい。
 総会議案書にアンケート結果と異なる議案としたことについて十分な説明が必要であろう。

③ アンケート調査結果を告知していない場合
 アンケート調査には、その回答結果を区分所有者に告知すべきである。それがされていない場合に「アンケート結果の報告がないのはなぜか。」という質問がある。さらに「アンケートの結果を知らせたくない理由があるのか。」といった質問に発展しているケースもある。

④ 総会において議長への委任状、議決権行使書で可決が決定している場合
 総会開催の前に理事長あてに提出された委任状や議決権行使書が出席予定組合員数の過半数に達している場合、総会の開催前にほぼ可決することが決定している。
 アンケート結果において反対数が多い場合に、この委任状の取扱いに異議が出ている。
・事前アンケートで反対した人が委任状を出しているのは、委任状の意味がわかっていないのではないか。本人の意思であるアンケートの賛否を優先して採決するべき。
・総会の場で審議してから決定すると思っていたのに、委任状と議決権行使書で可決することが決まっていたのなら、総会を開催する意味がない。総会に出席した人だけで決議すべき。

 こうした意見を未然に防ぐために、アンケート結果は理事会の審議の上の参考資料であり、総会の議案の提出はあくまでも理事会の決議事項であることを伝えておく必要があるだろう。
 積立金の値上げが定期的に可決し、計画的な修繕がされているマンションは、区分所有者の長期修繕計画の理解が浸透し、総会における区分所有者の発言の型に応じた理事長のファシリテーションが適切になされている管理組合である。十分な議論が尽くされ、適切な積立金が積み立てられていく参考資料になれば幸いである。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会法制委員会委員を務める。

久保 依子

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