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2022.8.4

ペット問題は解決したのか

組合運営のヒント

管理規約・細則

ペット問題は解決したのか

 20年以上前、マンションで発生する居住者間の問題と言えば、ペット問題、騒音問題、漏水問題が三大トラブルと言われていた。いずれかの住戸が加害者となり、被害者となる。そのため、解決に長期間を要し、たとえ解決したとしても後に感情的なしこりが残ることもある。
 騒音問題、漏水問題は今でもよく耳にするが、ペット問題についてはあまり事例を聞かなくなった。新築マンションのほとんどが、ペット飼育可として販売されていることもその要因だと考えられる。では、ペット問題はもう解決したのだろうか。

1.管理組合におけるペット可、不可の割合

 本レポートにおいてペットの飼育可、不可を次のように定義する。

 ペット可:一定の条件で犬、猫の飼育を可とする管理組合
 ペット不可:観賞用小魚、小鳥以外は不可とする管理組合
  ※盲導犬、聴導犬、介助犬のみの飼育は可とする管理組合を含む
  ※猫のみの飼育は可とする管理組合を含む
  ※現に飼育している犬、猫の一代限りの飼育は可とする管理組合を含む

 管理組合(団地型における各棟、複合用途における部会を含む)3,939件のうち、ペット可、不可の割合は図1のとおりである。

図1

 ペット可とする管理組合が51.8%、不可とする管理組合が47.9%であり、可とする管理組合の方がやや多い。また、ペット可とは、必ずしも管理規約や使用細則に規定されているとは限らず、総会の決議(普通決議)で決定し、管理規約の改正(特別決議)をしていない管理組合や、長い間の慣習で可としている管理組合も含まれる。また、ペットの飼育についてなんら取り決めのない管理組合も11件ある。

2.管理規約、使用細則の定め

 ペット可、不可を管理規約や使用細則に規定している管理組合の割合は図2の通りである。

図2

 管理規約や使用細則でペット可、不可の規定がある管理組合は88%あるが、規定していない管理組合も12%存在する。規定していない管理組合12%、475件の内訳は図3の通りである。

図3

3.マンション標準管理規約とペットに関する条文

 マンション標準管理規約で、ペットの飼育について初めて記載されたのは、中高層共同住宅標準管理規約と呼ばれていた平成9年のことである。昭和57年に標準管理規約が公表されてから平成9年までの間、ペットに関する規定は標準管理規約にも存在していなかった。

中高層共同住宅標準管理規約 平成9年改正 第18条関係コメント、マンション標準管理規約 平成28年改正 第18条関係コメント

 また、標準管理規約では、「規約で定めるべき事項」とコメントに記載していながら、条文中にその規定はない。平成28年、平成29年の改正時には、暴力団排除条項や住宅宿泊事業法の規定など、従来、管理組合が独自に管理規約や使用細則に制定していたものを管理規約に記載すべき事項として条文中に追加した。しかし、ペットに関する条文はコメントにおける記載のまま、条文中には規定していない。「規約で定めるべき事項」なのであれば、条文中に追加してもよいのではないか。
 多くの管理組合が標準管理規約をもとに管理規約を定めている。平成9年以前に原始規約が作成された管理規約ではペットに関する可、不可が定められていない。その後の管理規約の改正で、ペットに関して問題が生じていなければ、そのまま条文を追加する検討がされなかったのではないかと考えられる。
 調査した管理組合のうち、管理規約や使用細則でペット可、不可の規定がない管理組合475件はすべて平成9年以前に原始規約が策定された管理組合であった。管理規約や使用細則に規定がない原因は、この標準管理規約に条文がないことに関係すると考えられる。

4.現に飼育している一代限り可のケース

 ペット不可の管理組合において、その規定に違反してペットを飼育している居住者がいる場合、その解決策のひとつとして、「現に飼育している一代限り飼育可」とする総会決議をとる方法がある。ここで間違えてはならないのが、この「現に飼育している一代限り飼育可」はペット可になったのではなく、「不可」であるがその例外を認めるものであるということだ。
 図1に示したペット不可の管理組合1,886件のうち、現在もこの「現に飼育している一代限り飼育可」の運用をしている管理組合は40件ある。この40件のうち、「現に飼育している一代限り飼育可」の決議がされた年は最も古い年で2003年、最新では2022年である。
 犬の平均寿命は一般的に14年程度であるとされている。つまり、生まれたばかりの子犬の時に「現に飼育している一代限り飼育可」の決議がされたとしても、その後、おおよそ14年間かそれ以上、管理組合は例外措置を継続していくこととなる。

◆2度目の「現に飼育している一代限り飼育可」の決議
 2008年に「現に飼育している一代限り飼育可」の決議をし、2022年に再度「現に飼育している一代限り飼育可」の決議をした管理組合がある。この管理組合では、2008年当時に届け出をした犬猫のみ飼育されているはずが、一代限りとされているのにもかかわらず二代目の飼育がされるなど、規定を遵守せずにペットを飼育する住戸は後を絶たず、ペット不可の規定が形骸化していた。その結果、2度目の「現に飼育している一代限り飼育可」が決議されるに至っている。
 「現に飼育している一代限り飼育可」の決議をした場合には、それ以降に飼育している住戸がないか、飼育開始時の年齢から平均的なペットの寿命を経過した場合は、当該ペットの飼育状態を確認する等、形骸化を防止する取り組みも必要となる。
 

5.ペット可の流れはいつからか

 竣工年別にペット可、不可を調査すると図4の通りとなる。

図4
水色:ペット可 ピンク色:ペット不可

 ペット可と不可の割合が大きく変わるのは2003年であり、分譲会社が原始規約の規定をペット不可から可に大きくかじを切ったと考えられる。それ以前に竣工したマンションにおいてペット可となっている管理組合では、原始規約の段階ではペット不可であったものを、その後にペット可に変更したものが多いと考えられる。なお、竣工年が2013年〜2017年のペット不可マンション1件と、2008年〜2012年のペット不可マンション5件のうち4件は、複合用途型の商業部会、店舗部会等におけるペット不可規定である。専有部分の用途が住居であってペット不可である管理組合は竣工年が2012年以降、存在していない。

6.考察

 20年以上前、筆者の経験では、規約に違反してペットを飼育している居住者がその飼育の理由として「マンションの購入時に不動産会社の担当者から飼育してもよいと聞いた。」等、不動産会社から誤った情報が提供されたと主張するケースが多かった。しかし今では、売買時に不動産会社が管理会社に対して調査し、管理会社から管理委託契約に基づき提供される重要事項調査報告書においてもペット可、不可に関して明記されており、誤認は生じにくい。こうしたことから、マンション管理におけるペットに関するトラブルは一頃に比較するとあまり報告されなくなっているように感じる。しかし、ペット不可である管理組合は今なお、約半数近く存在し、さらに「現に飼育する一代限り可」の対応を継続している管理組合もある。世の中の関心は薄くなっているのかもしれないが、ペット問題はまだまだ解決したとは言い切れないようである。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子