HOME > レポート > 失われるマンションのコミュニティ活動

2022.10.6

失われるマンションのコミュニティ活動

コミュニティ

失われるマンションのコミュニティ活動

 平成28年のマンション標準管理規約改正において、いわゆるコミュニティ条項が削除された。特に管理組合が主催するイベントの開催については、コメントにも多くの否定的な記載がされた。この当時は、管理組合がコミュニティ活動を行うことの是非について、マンション管理に関係する諸団体等において大きな議論が巻き起こった。その多くが、マンション標準管理規約のコミュニティ条項削除に関わらず、コミュニティ活動は「してもよい」という考え方であり、「禁止されている」「してはならない」とした考え方ではなかった。また、当時、マンション標準管理規約の改正を理由として従来より開催されていたコミュニティ活動を中止したり、既に管理規約に規定のあるコミュニティ条項を総会決議により削除したりした管理組合はない。
 改正から6年を経過した現在、マンションのコミュニティ活動はどのようになっているだろうか。

1.マンション内コミュニティ活動の有無

 マンション内で行われているコミュニティ活動の有無について3,961組合(一部、団地型の一部の棟、複合用途型の部会を含む)を調査した(図1参照)。
 なお、本調査にあたっては、コミュニティ活動の主催者を管理組合に限っていない。区分所有者の有志で実施しているものや、マンション内に管理組合とは別に組織されている自治会を主催者としているものも含んでいる。
 さらに、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から一時中止をしているが、コロナ禍が収束した場合には再開する予定のある活動も含んでいる。

図1

 マンション内のコミュニティ活動がある管理組合は14%である。平成28年当時、当社で調査した管理組合におけるコミュニティ活動が「ある」としたマンションはおおむね30%であった(当時の非公開社内資料)。再開予定を含む数であるのにも関わらず、コミュニティ活動は縮小している。この6年の間に、新型コロナウイルスの感染拡大を除き、縮小の主な原因と考えられる事項が見当たらないことから、コロナ禍における生活様式の変化の影響が大きいと考えられる。

2.コミュニティ活動の内容

 コミュニティ活動があるとされた543件のうち、その内容は図2、内容の詳細は表1の通りである。

図2
表1

 コロナ禍においては、イベントの開催状況も一変している。
 例えば、パーティーを中止してクリスマス飾りつけや七夕飾りつけに変更している例である。エントランスにもみの木や笹を設置し、クリスマスオーナメントや短冊を置いておく。居住者がエントランスを通過する際に、自分の気に入ったオーナメントを飾りつけたり、短冊に願い事を書いて笹に吊したりすることで、徐々にエントランスが華やいでいく。このように、一度に集まらなくても居住者同士で季節のイベントを楽しめるような工夫をしている管理組合も多いと聞く。

3.戸数帯別コミュニティ活動状況

 コミュニティ活動に掲げられている内容は、ある程度の人数や敷地の広さを必要とするものが多い。例えばサークル活動をしようにも、同じ趣味を持つ居住者がある程度存在する必要があり、小規模なマンションでは成立しにくい。
 コミュニティ活動の状況をマンションの戸数帯別に調査した(図3参照)。

図3

 大規模なマンションほど、コミュニティ活動が行われている率が高いことがわかる。それでも、50戸以下のマンションで合計176件のコミュニティ活動があると報告されている。内容は、防災訓練や清掃活動や植栽活動を掲げているマンションが多い。
 小規模なマンションは、管理組合の財政状況が大規模なマンションと比べると比較的厳しい場合が多い。経費を削減するために、清掃活動や植栽活動の実施とコミュニティ活動をつなげて考えようとする意識が働いているのかもしれない。こうした場合は、清掃や植栽の経費が捻出できれば、清掃活動や植栽活動は中止になる可能性もあると考えられる。

4.これからのコミュニティ活動

 前述の通り、平成28年当時、マンションのコミュニティ活動について多くの議論がされた。その必要性の是非については今更語る必要はないだろう。
 しかし、コミュニティ活動は、現在中止中のものを含めて14%のマンションでしか実施されていない。管理組合役員の人手不足や合意形成の困難なマンションの存在が課題となって久しいが、その解決策のひとつとされていたコミュニティ活動が失われつつある。コロナ禍が収束することはあっても、いつまた感染症が拡大するとも限らない。さらにIT技術の発達で防災訓練ですらVRを活用してバーチャルで実施でき、総会や理事会も通信を活用してリモートで実施できる時代である。こうした状況において、対面型のイベント活動に依存するコミュニティ活動の縮小傾向は今後も継続し、このままではいずれ失われてしまうのではないだろうか。
 対面型のイベントに頼らずとも成り立つような、コミュニティの形成方法を検討する時期にきている。筆者にもまだ解決策はない。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

Related post

2020.10.30

レポート

新型コロナウイルスの影響により理事会や総会の開催数、共用施設の使用率はどのように変化したか。~ウィズコロナ時代におけるマンションの「人の集い方」を考える~

新型コロナウイルスの影響により理事会や総会の開催数、共用施設の使用率はどのように変化したか。~ウィズコロナ時代におけるマンションの「人の集い方」を考える~

2019.12.20

コラム

「マンションコミュニティ」ってなに?――さぁ、どうする

2020.6.1

コラム

“楽しんで学ぶ”が知識習得の近道 ~マンション「キッザニア」化計画~

2019.9.5

コラム

「コミュニティ担当理事」が関係性の潤滑油