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2023.2.22

マンションにおける漏水事故の実態
~最も多い原因は「給湯管の不具合」~

マンションを取り巻くリスク

設備・清掃

マンションにおける漏水事故の実態~最も多い原因は「給湯管の不具合」~

1.はじめに

 マンションで起きる漏水事故が、管理組合とそこに住まう人々の頭を悩ませるのは、マンションという建物が上下左右で住戸が連なっている共同住宅であること、そして水という物質が、場合によって床や壁をも通り抜けてしまう性質を持つことの2点に起因すると考える。
 一般的に、給水管・給湯管・排水管など、水が流れる配管で部屋内に存在するものは、床下や壁の内側など、私たちからは見えない場所を通っている。仮にこれらの管から水が漏れたとしたら、その被害は当該住戸に住まう人よりもはやく下階住戸からの申し出によって気付くことになるだろう。そして、これらの管は基本的に専有部分という位置づけである。たとえ日常的に目視で確認できない場所にあったとしても、それらが原因となる漏水事故の多くは、部屋の所有者が加害者となってしまう。(ただし、コンクリートスラブを貫いて下階の天井裏を通る場合など、特定の区分所有者が利用する配管であっても共用部分となる場合もある)
 また、漏水の原因は、水が流れる配管だけに限らない。雨水や人為的にこぼした水が直接原因になることもある。漏水事故の原因(加害者)と発生先(被害者)は、共用部分と専有部分のどちらもありえる。さらには、漏水の原因箇所が不明となることも往々にしてある。マンションに人が居住している状況下で、水の侵入経路をたどり原因箇所を断定するのは容易ではない。

2.事故原因の大半は専有部分、その中で最も多い原因は「給湯管の不具合」

 当社が管理を受託する東京都内の分譲マンションにおいて、2021年10月1日から2022年9月30日までの1年間に起きた漏水で、他の専有部分や共用部分に損害が出た漏水事故を調査した。この調査には当社の保険事故データを使用した。結果、1,167組合のうち218組合において299件の漏水事故が起きていることが分かった。原因箇所の内訳は図1のとおりである。1つの管理組合あたりの1年間における発生率は18.7%であり、発生した管理組合では平均で年間1.4件起きている計算になる。

図1

 最も件数が多いのは「給湯管の不具合」による漏水だが、これについては次章でより詳しく取り上げるため、この章ではそのほかの原因について先に触れたい。
 
◆漏水事故原因:共用部分
 共用部分が原因となった事故は56件あった。竪管や雨水管などの共用配管の詰まりや破損などが原因になることもあるが、屋上防水やバルコニーの防水シートの切れ目、外壁のひび割れ、シーリングが劣化した開口部まわりからの雨水の侵入など、その原因はさまざまである。具体例を挙げると、台風による強風に煽られた雨が、前述のようなわずかな隙間を通って部屋内に侵入し、水濡れの被害が発生したケースがある。水の侵入経路を探るために散水試験をすることもあるが、それが難しい場所であると、侵入箇所と疑われる隙間を充填材などで塞いで様子を見るという対処法が行われる。その後しばらく雨天を待ち、再発しなければその箇所が原因だったということになる。状況によっては、大規模修繕工事など足場を組んで行われる補修作業の時期を待つという判断もある。
 なお、本調査は当社の保険事故データをもとにしているため、共用部分の漏水原因箇所が特定できている場合など、管理組合が加入する火災保険および個人賠償責任保険の対象外であるものは調査対象に含まれないが、その点はご容赦いただきたい。
 
◆漏水事故原因:水栓・シャワーホース不具合
 図1のうち、共用部分の不具合56件・原因箇所不明26件を除く217件は、専有部分内に原因がある漏水である。その中で、給湯管の次に発生件数上位となるのが、水栓・シャワーホース不具合によるものだ。日常生活の中で視界に入る部分であれば、下階に水が漏れる前に気が付くことができるだろうが、キッチンや洗面所のシンク下で、水栓の結合部やシャワーホース本体から水が溢れ、知らぬ間にシンク下の扉を開くと水浸しになっていることがある。床下の配管と異なりシンク下を覗けば気付けることがあるため、定期的に「水でぬれた形跡はないか」「カビ臭さはないか」などを確認するだけでも予防につながる。図1の調査結果にある31件の発生時期をみると、築10年以下では0件だったが、10年を超えると水栓・シャワーホースの不具合が発生し始める傾向にあった。

3.給湯管からの漏水発生率とその背景

 漏水事故原因として最も多かったのは「給湯管の不具合」である。図1にある給湯管からの漏水事故の発生数および発生率を築年数別に見ると、以下の表1のとおりである。

表1

 漏水事故は築20年を経過する頃から増え始め、31~35年目では2割強の発生率となる。そして、これには給水管の材質が関係していると考えられる。というのも、ひと昔前までは、給湯管は銅製が主流だった。銅管は、経年劣化により、管に針でさした程度の小さな穴(ピンホール)が空くことがあり、そこから出た水が床下で時間をかけて水たまりとなり、コンクリートスラブのクラックなどを通り、下階住戸の天井に染み出ていく。そのため下階で水が漏れてきた箇所のすぐ真上がピンホール箇所とは限らない。給湯管を測定して減圧があればピンホールが原因だろうと予測ができ、ピンホールの多くは負荷がかかる管の曲がり部分(エルボ)に見られるという特徴はあるものの、床下を通る給湯管のどこにピンホールがあるか探る作業にも時間を要する。このように、調査を行い、原因箇所を特定し、修理をして、被害住戸の復旧作業を行うまでを含めると、事態の収束には相当な時間がかかることが想像できるだろう。給湯管からの漏水は特に、加害者と被害者になってしまった上下階それぞれの居住者にとってストレスが大きい問題である。
 一方、新築マンションでは20年ほど前から架橋ポリエチレン管やポリブデン管が使われるようになった。管の材質が変わったことで経年劣化によるピンホールの懸念は低くなったと言われており、今後は年数の経過とともに給湯管からの水漏れの増加傾向は鈍ってくるものと推測する。

4.給湯管からの漏水に対する管理組合の対応事例

 しかし、依然として漏水のリスクがある材質の給湯管が使われているマンションにおいては、漏水事故の発生リスクが大きな悩みの種になっていることは間違いない。経年とともに発生可能性が高まることをふまえると、当然1つのマンションで漏水事故が複数回起きていることも多くある。それらの管理組合は、どのように対応しているのか。いくつか事例を紹介したい。
 
 もうすぐ築30年を迎える約70戸のマンションAでは、築15年を過ぎたあたりから給湯管の漏水事故が起きはじめ、これまでに約30件発生している。この管理組合では、漏水原因の調査と被害を受けた住戸の復旧費用について、管理組合が加入する火災保険で得られる保険金で対応している。なお、漏水事故発生住戸の修理費用は保険の対象とならないため、発生住戸の区分所有者負担としている。保険に頼る事後保全というのは、同じ悩みを抱える多くの管理組合で採用されている選択肢だろう。しかし火災保険は、自然災害の増加に加えて、マンション老朽化による漏水事故が全国的に増加していることを受けて、近年どの保険会社も大幅な保険料の値上げをしており、自動車保険料が契約者の事故歴により割引や割増されるのと同様に、事故が多いマンションの保険料が高くなる料率設定も行っている。マンションAの管理組合は、次回の保険更改時に備え保険料の支出を少しでも抑えるため、専有部分内の給湯管取り替えの実施に加え、区分所有者に対し、自身の保険に個人賠償責任保険を付与することを呼びかけている。個人加入の個人賠償責任保険は、現状では事故の有無による保険料の割り増しがないため、万が一漏水事故の加害者となってしまった場合はそちらを利用することを勧めている状況だ。
 
 このように管理組合で加入している火災保険および個人賠償責任保険を頼みの綱とする対応には限界があるとし、中には修繕積立金を使い専有部分の給湯管の取り替えを実施した事例もある。それが、約50戸のマンションBである。このマンションでは、住戸内リフォームの際、給湯管等の取り替えも行うよう管理組合が総会資料等で呼びかけていたものの、実際に取り替えをしていたのは50戸のうちわずか4戸のみだった。この実例から、給湯管の取り替えに関して、個人のリフォームで予防的に工事を実施する区分所有者は少ないことが想定できる。
 また、20戸弱のマンションCは、給湯管からの漏水事故が過去に11件も起きていたことから、専有部分の給水・給湯管の一斉交換を実施を決定した。その際は、それらの費用を長期修繕計画に組み込み、その議案も同時に総会へ上程し承認を得ていた。

5.おわりに

 マンションで起きる漏水事故で最も多い、給湯管からの漏水。漏水が起きてしまえば、漏水原因箇所の修理だけでは済まないことがほとんどで、解決には時間を要する。年に複数回起きるようになった際には、各区分所有者のみならず、管理組合としてどのように対応するかを検討する必要が生じてくる。配管の経年劣化は年々加速し、前述のとおり区分所有者個人での問題解決を期待することは現実的ではないことを考えると、マンションにおける二つの老いが今後ますます進む中で、管理組合が事業として給湯管の一斉交換工事を行い、その費用を修繕積立金から支出することは解決方法のひとつとして増えていくのではないだろうか。
 しかしながら、管理規約に専有部分の設備を管理組合が行うことを規定し、長期修繕計画に費用を含めて記載したとしても、管理組合が共用部分と一体性がない専有部分の給湯管工事を実施しその費用を修繕積立金から支出することは、区分所有法に違反するとする法律解釈があることも念頭に置きたい。そのうえで管理組合は、反対者による訴訟リスクを含めて広範に検討を行う必要があるだろう。
 最後に、マンションみらい価値研究所が行った別の研究論文を紹介したい。専有部分の配管工事を共用部分と一体化して実施する場合の合意形成についての事例研究だ。一体化工事を検討した11事例から、合意形成において越えなければならないハードルについて分析したところ、管理規約の改正や区分所有法をめぐる議論よりも、先行して個人的に配管工事を済ませている区分所有者への補償金額の充分な検討こそが必要だという結論が出ている。11事例のうち8事例は、給湯管も一体化工事の対象としていた。この場合、先に個人での給湯管取り替えを実施した住戸が増えるほど補償金額の検討が難航することが想定されるため、やはり管理組合としての対応策の検討は先送りしないほうが賢明だと考える。
 
「令和4年度国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行う事例」 マンションみらい価値研究所ホームページ

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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