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2023.6.8

分譲マンションにおける防災活動の課題 (727棟のアンケート結果および分析)

防犯・防災

分譲マンションにおける防災活動の課題 (727棟のアンケート結果および分析)

 都市部における主要な住居形態である分譲マンションは、RC造やSRC造など火災や地震に強く堅固な構造を有している。そのため洪水や津波に対する一時避難施設や震災時の在宅避難施設、帰宅困難者のための収容施設など、私有財産ではあるが防災対応では公共財に近い側面を有し、災害時の活用が期待されている。しかし、一方では、十分な耐震強度を持たない旧耐震あるいは旧々耐震基準のマンションも残存している。管理費や修繕積立金が不足し、管理状況の悪化や計画的な修繕の未実施などの課題を抱えるマンションもある。またマンション単位で見れば、高齢者・要配慮者への支援が期待できなかったり、自治会や自主防災組織などとの連携が不十分だったりすることも想定される。
 分譲マンションにおいて、管理組合の運営状況や要配慮者の存在、防災マニュアルの作成状況など、防災対応に関する活動状況や課題は多様であり、地域の自治会や自主防災組織などとの連携の仕方もマンションごとに異なる。こうした状況にも関わらずこれまでその実態が明らかにされず一様に取り扱われてきたことが、マンションの防災対応が十分に進展してこなかった要因とも考えられる。
 こうした認識から、大和ライフネクストに所属する分譲マンションの管理担当者(以下「フロント担当者」とする)にアンケート調査を実施し、防災や災害対応に関する分譲マンションの現状を明らかにすることとした。
 なお、本調査は、マンションみらい価値研究所と国立研究開発法人防災科学技術研究所、株式会社中央地学が共同して行った研究となる。 

アンケートについて

 回答者の性別および年代は以下のとおりであった。

図1、2,3
図4

1.アンケート回答結果

問1 これまでのマンションの被災体験について(複数回答)

 フロント担当者に対し、担当マンションにおける被災体験について、台風や地震などの災害を列記して尋ねた。本設問は以下の設問からの複数回答とした。

図5

 マンションにおける被災経験については、「台風等の強風による被害」が最も多く205棟であり、これは回答があった全727棟の30%弱に相当した。次に多かったのが「地震の揺れによる被害」で114棟(約16%)、洪水や内水氾濫等の水害が37棟(約5%)と続く。これら以外では「地震による液状化」「地震以外が原因の火災」などが数棟みられた。
 「その他」について具体的な被災状況は、噴火による降灰被害や福島原発事故による除染作業、また集中豪雨などによる地下駐車場やエレベーターの冠水被害、外壁内壁の破損などの記述がみられた。

問2 特質すべき被災体験について(自由記述)

 特質すべき被災体験について、自由記述によって回答を求めたところ、以下のような内容が得られた

● 台風の強風によるものでは、バルコニー手摺の落下、庇の破損、屋上防水の剥がれ、倒木、防火戸のはずれ、フェンスの飛散や傾き、バルコニー天井の飛散、パーテーションの破損など
● 地震の揺れに起因するものでは、壁面タイルのひびやはがれ、建物躯体の破損(クラック)、バルコニーからの漏水、エクスパンションジョイントの歪み、管理事務室の漏水など
● 浸水に関するものでは、1階住戸の床上浸水、1階廊下の冠水、内水氾濫、エントランス浸水、地下の機械式駐車場の水没、エレベーターの冠水、駐車場地下部の水没、など
● その他、液状化による駐車場の傾き、地盤沈下による建物設備被害など

問3 自治会・町内会等の地縁団体について

 分譲マンションの防災について考えるにあたって、当該マンションの自治会・町内会との関係を把握するべく、以下の設問を選択回答とした。

図6

 「周辺地域と一緒に自治会・町内会等を形成」がもっとも多く、464件(63.8%)を占めた。「その他」については、自治会等への加入は居住者の任意加入である場合や、周辺地域に自治会・町内会等はあるがマンションとしては加入していない場合などがあった。

問4 防災活動の実施体制

 防災活動の実施体制について選択回答とした。「主に管理組合が主導して実施している」がもっとも多く、約39%であった。次に多かったのが「全くあるいはほとんど実施していない」であり、約37%であった。

図7

問5 防災活動等に関しての実施事項(複数回答)

 マンションで行われている防災活動等について、以下の設問から複数回答とした。「①標準管理規約に沿った規定」や「⑥ハザードマップ」の周知などが多いが、これは、継続的な対応の必要性が低く、短期間(短時間)活動を行えばよい活動と言えるだろう。「②定期的な防災訓練(消防訓練)」の回答が多い理由としては、多くのマンションで消防訓練の義務付けがあることが考えられる。

図8

問6 その他防災上特徴のある事項について

 その他の防災上の特徴のある事項について、自由記述で活動などの状況を求めた。以下のような内容の回答が得られた。

● 名簿作成に関するもの
 管理員が独自に要支援者などの一覧を作成している、自治会担当理事が要支援者名簿を作成し自治会と共有している、自治会が要支援者名簿を作成している、高齢者リストを作成している、など
● 防災訓練等に関するもの
 居住者が行う防災訓練とは別に年1回管理事務室主導の防災訓練を実施、複合施設の為ビル管理会社と連携し合同消防訓練を実施、消防署勤務の方を中心に防災訓練を実施、元消防隊員の管理員が防災に関する豆知識を不定期に掲示し周知、など
● 防災マニュアルに関するもの
 行政の無償支援により防災マニュアル改定中、管理組合独自の防災マニュアルを作成し全戸へ配布している、など
● 防災備品や備蓄に関するもの
 各戸に防災備品を配布、防災用品の整備と保管場所を毎年確認し情報共有を実施、毎年総会議案書に備蓄品リストを掲載、国交省の住宅グリーンポイントを活用して防災備品を購入した、土のうを備蓄している、など
● 組織やコミュニティに関するもの
 災害協力隊という組織がある、防災組織委員会を立ち上げ予定である、理事会とは別に防災当番を選任している、居住者同士のコミュニケーション強化に注力している、エレベーターが止まるような地震が発生した際には理事役員が役割分担し安否確認を実施している、など
● 近隣との連携や避難に関するもの
 近隣の保育園の避難先になっている、町内会との連携を模索中である、町内会による年末の夜警巡回を実施している、など
● 具体的浸水対策など
 地下駐車場や電気室への浸水対策、浸水対策としての止水版の設置、など

2.アンケート結果に基づく分析

分析① 県別の防災活動数(1棟あたりの平均活動数)

 県別の防災活動数について、1棟あたり平均活動数をみると、被災経験数の多い宮城、福島、熊本、大阪府、北海道などでは防災活動数も多い傾向にある。ここで問題になるのは、県別の被災経験数と防災活動の関係となる。確かに宮城、福島、北海道、熊本など近年、地震等の被害を受けた県では、明らかに被災経験数が多い。ところが、県別の防災活動数をみれば、熊本のように被災経験と連動して防災活動数が高い県もあれば、宮城、福島、北海道などは防災活動数が高い方ではあるが特に高いとは言えない県である。一方で、被災経験数はそれほど多くなかった県でも、東京、埼玉、神奈川、千葉などに関しては、防災活動数が比較的多い結果となっている。
 この要因の一つとして、データの散布の問題が考えられる。県別の防災活動数で、宮城、福島、北海道、熊本などの標準偏差は小さい(どのマンションも同じ程度に防災活動を行っている)のに対して、東京、埼玉、神奈川、千葉などは標準偏差が大きい。すなわちマンションごとに防災活動に大きな差がある。実際に東京、埼玉、神奈川、千葉などは、最大12〜14個の活動を行っているマンションがあるが、福島や熊本では最大4〜5個となっている。つまり、関東の一部の地域では、非常に多くの防災活動を行っているマンションが少数ではあるが存在するため、平均値が引き上げられていると考えられる。

図9

分析② 被災経験と防災活動数

 一つのマンションにおける被災経験数は最大3回で、3回経験しているマンションは7棟のみであった。

図10

 以上、分析①と分析②の結果から考察すると、被災経験と防災活動数との関係について、マンション単位でみると、平均的には被災経験数が多いほど防災活動数も多い傾向にあるが、個々のマンションでの違い(偏差)が大きい。これは、被災経験が多い地域では、多くのマンションが、被災した経験にもとづいた現実的な防災活動をまんべんなく一定数実施すると言えそうだ。一方で、被災経験が少ない地域では、将来的な不安を背景にして、比較的少数のマンションが、(災害による被害を最小限に抑えようと考えて)数多くの防災活動を実施する傾向がありそうである。
 被災経験がマンションの防災活動に何らかの影響を与えているのは確かだと思われるが、他にもさまざまな要因が影響しあった結果だと考えられる。

図11

分析③ 築年数別の1棟あたり平均防災活動数

 築40~49年のマンションにおいて平均の防災活動数が上昇している傾向がみられた。マンションが竣工からある程度年月を経ると、住民同士の関係性や建物の状況など、ハード面およびソフト面の両方に変化が生じて、防災活動の必要性が高まる要因となっているのかも知れない。一方で、築50年以降のマンションにおける防災活動数は、急激に減少している。

図12

分析④ マンションの築年数と防災活動内容の関係

 設問を「必ずしも居住者間の交流を必要としない活動・短期的な活動」と「居住者間の交流や地域との連携が必要な活動・継続的な活動」に分け、その活動数と築年数との関係を調べた。築年数を経るにつれて、後者の居住者間の交流(≒コミュニティ)での対応が必要となる活動が増える傾向が見られたが、築50年以降では活動の減少が見られた。

図13

3.まとめ

 分譲マンションでは築年数が増加するにつれ、規約の整備やハザードマップの配付などに加え、名簿の整備などといったコミュニティで対応しなければならないものが増加している。居住者もまた高齢化が進み、助け合いを要する活動の必要性が高まっているのかもしれない。また、築40年以降で防災活動数が大きく上昇する時期があり、築50年以降では大きく減少するといった傾向もみられた。これには当該マンションの竣工時期の社会情勢や入居者特性が影響しているのかもしれないが、防災活動が一度は活発になったマンションであっても、居住者の高齢化が進むにつれて防災活動の担い手となる居住者が不足し、防災活動が減っていくことが危惧される。
 また県別にみると、被災経験数が多い地域にあるマンションが防災活動数も多い傾向にあるが、個々のマンションでの違い(偏差)も大きい。被災経験を経るのみでは、マンションの防災活動が高まる決定要因とは言えず、その他の要因も影響していることが考えられる。
 冒頭で述べた通り、マンションは洪水や津波に対する一時避難施設や震災時の在宅避難施設、帰宅困難者のための収容施設などの災害時の活用が期待されている。また、マンション単体で見た時には、高齢者・要配慮者への支援や自治会などとの連携が不十分だったりすることも想定されている。マンションの防災活動の活発化は地域防災の観点からも重要な課題であるが、有効な促進要因は現状では判然としない。マンションの防災活動の活発化に関連する要因について今後も研究を続けていきたいと考えている。

この記事の執筆者

田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

田中 昌樹

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