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2023.9.28

分譲マンションにおける高圧一括受電について

設備・清掃

会計・資金

1.はじめに

 昨今の電気代高騰に頭を悩ませる管理組合も多いだろう。電気料金削減策の一つとして、2005年の50kW~500kW高圧区分における電力自由化以降に登場した「高圧一括受電サービス」というものがある。
 このサービスは、各戸ごとに自ら選んだ電力会社から低圧契約により電力を購入するのではなく、マンション1棟で高圧のまま一括で電力を購入し、その後マンション内で低圧に変換して専有部分および共用部分に供給するものだ。工場やテナントビルなどに代表されるように、電力を多く使う大口ユーザーを対象とした契約形態である。高圧の電力を一括で購入することで、低圧での購入よりも料金が安くなるため、金額的なメリットを享受できる仕組みだ。なお、1棟での使用電力量が一定以上でなければこのサービスは成り立たないため、マンションへの導入時には戸数や築年数などの条件がつく。
 分譲マンションでは、専有部分ごとにそれぞれ電力会社と契約をすると、この大口契約はできない。しかし、共用部分に加え専有部分の全戸が同一の電力会社を選択すれば、この高圧一括受電サービスを導入することが可能となる。一方で、専有部分を含めた導入には対象者全員の合意形成を図る必要があるため、サービス導入が容易にできないことは想像がつくだろう。 

2.高圧一括受電サービスを導入している管理組合の調査結果

 弊社にて管理する3,950管理組合を対象に、2023年7月時点における高圧一括受電サービスの導入数を調査したところ、導入していたのは473組合という結果だった。割合で見ると全体の約12%を占める。

図1

1.導入時期

 前述した導入済みの473管理組合のうち、導入のタイミングについて、「分譲当初から」あるいは「管理組合設立後」のどちらなのかを調査した結果が、図2のグラフである。

図2

 このサービスが始まったのが2005年以降であるため、新築の分譲時からサービスが導入されている管理組合の数は限られ、全体の約28%だった。これらのマンションは、販売パンフレット等に高圧一括受電である旨が記載されており、区分所有者はマンションの購入検討段階でその旨を承認している。

2.管理組合設立後に導入を検討したマンションでの審議状況

 賛否両論に分かれ、導入までの道のりが険しいものとなりやすいのは、管理組合設立後に導入する場合だ。導入提案時の議案や議事録の中で見られる、導入に対しての主な反対意見や懸念事項は以下のとおりである。

表1

3.管理組合設立後に導入したマンションの規模(戸数)

 管理組合設立後に高圧一括受電サービスを導入する場合、戸数帯が小さい方が合意形成を図りやすいのではないかと仮説を立てたが、表2のとおり、実際には300~400戸を超えているマンションにおいても導入事例が複数あった。

表2

4.金額的メリットをどのように還元するか

 高圧一括受電サービスは、低圧で区分所有者がそれぞれに購入する場合との料金差を利用したサービスだと先に述べたが、この金額的メリットに関して、共用部分(管理組合)または各専有部分(個人)のどちらに還元するのかを、契約時に選択することが可能である。さらには、電力会社によっては両者に還元するプランを提案している場合もある。このように、導入可否についてだけでなく導入した後の仕組みについても、管理組合内で意見が割れやすく、さまざまな意見が出てくるケースが多い。
 前述した導入済みの473管理組合の実態をサンプル調査したところ、分譲当初からの導入の場合は、専有部分への還元プランが多くを占める。これは、分譲時に「各戸の電気料金が安くなる」ことをマンション販売におけるアピールポイントの一つとして訴求したためと推測する。
 一方で、管理組合設立後に導入されている場合は、管理組合としての支出削減の観点から検討を開始することが多く、共用部分の電気料金削減に充てられるケースが目立つ。管理組合設立後に導入した340件のうち、30件の削減対象について調べたのが表3の結果だ。なお、専有部分への還元はあくまでも電気料金のみへの還元を指し、高圧一括受電の電力会社が提供する電気以外の割引サービスは含んでいない。

表3

3.最高裁判例の紹介および導入に至らなかった事例の調査結果

1.判例の紹介

 マンション高圧一括受電に関しては、有名な判例がある。一般社団法人マンション管理業協会ホームページに掲載の「【情報提供】マンション電力契約変更に関する最高裁判例について」から以下に引用する。

>【情報提供】マンション電力契約変更に関する最高裁判例について


 マンション全体で格安な電力供給方式に変更する、いわゆる「高圧一括受電」方式の導入に関し、管理組合総会で「特別決議(組合員、議決権数各々の4分の3以上の賛成)で可決し、導入に向けて、現在、各組合員が契約している電力会社との解約を、各組合員から手続きを進めていた中で、内2名の組合員が、その解約に応じず、全組合員からの同意を得ることが出来なかったことから、「高圧一括受電」方式の導入が頓挫した事件(平成30年(受)第234号 損害賠償等請求事件)がありました。
 一、二審判決は、2名の組合員に賠償を命じましたが、平成31年3月5日、最高裁において、「管理組合の決議の効力は専有部分には及ばない。現在、契約している電力会社との契約を解約する義務はない」として、管理組合からの請求を退ける逆転判決を言い渡しました。

平成30年(受)第234号 損害賠償等請求事件 判決主文
 

 この判例からは、総会決議の多数決で高圧一括受電の導入を決定しても、総会で決議に反対した現に居住する区分所有者または占有者が、導入に伴う高圧一括受電事業者との契約を行わないことが是認され、結果的にはサービス導入が頓挫する可能性があるということだ。また、実際に、弊社管理の管理組合における総会 議案や議事録を読み解いていくと、総会決議での承認の有無に関わらず、導入不可となった経緯を辿る結果となった事例が複数あった。

2.高圧一括受電の導入が頓挫したケースとそれに対する考察

 導入に至らなかった事例としては下表のようなケースがある。弊社管理の管理組合を対象として2005年以降のデータを調査した。いずれも、2023年7月時点で高圧一括受電サービスが導入されていない管理組合における件数である。

表4

 これらの合計65件は、サービス導入の条件をクリアして、検討の土台にのったものの、導入に至らなかった数となる。前述のとおり、管理組合設立後に導入した管理組合数が340であるため、導入見送りの割合としては、約16%ということになるだろう。肌感覚ではあるがこの数字を見る限り、高圧一括受電に関する議案は他のさまざまな議案と比べて管理組合の総会で否決や審議保留になる確率は高いように感じる。
 また調査過程では、現在高圧一括受電サービス導入をしている管理組合の中にも、2回以上の総会上程を行っているものが複数あった。一度は否決または審議保留になったとしても、それで検討を終えないだけのメリットがあると考えられているのだろう。多くの管理組合が、管理費会計の支出削減を目的にしているのだとしたら、管理費会計の中では電気料金削減はインパクトが大きい。合意形成には時間がかかるものの、管理組合の収支改善に貢献できる取り組みだからこそ、組合として何度も検討を行っているのではないだろうか。
 高圧一括受電の電力会社社員から聞いたところによると、賃貸マンションよりも分譲マンションの方が導入がされやすいという。賃貸マンションでは、オーナーひとりの判断であるため導入の決定までは早いが、その後の全員からの契約切り替えの書面回収が困難になることが多いようだ。それに比べて分譲マンションでは、管理組合の決定事項の広報の浸透性が高く、また賃借人の情報整備がされていることや、単身者よりもファミリーが多いので訪問により対象者に接触しやすいことなども影響して、導入までの手続きが進みやすいそうだ。

4.おわりに

高圧一括受電のサービスがスタートして年数の経たないうちに導入を決めた管理組合では、契約期間の10年が経過し契約を更新している事例も出てきている。低圧電力の自由化が広まった現在であっても、高圧一括受電のメリットを有効に感じているからこその結果なのだろう。
 管理組合の収支改善を検討する際に、管理費や修繕積立金を値上げする選択肢もあるが、やはり値上げ検討の前に支出削減へと目が向くのは一般的だ。実際に、高圧一括受電の議案が承認された場合、修繕積立金改定関する議案で、値上げ幅を戸あたり月額1,000円程度抑えられると説明する議案もあった。
 一方で、共用部分の電気料金還元プランで、その削減メリットを戸数で割り算すると月額1,000円程度だったとして、それなら管理費を値上げして、専有部分は各自が好きな電力会社と契約してその分のメリットを享受しても各戸の財布事情に与えるインパクトは変わらないという声もあるかもしれない。しかし、全面自由化以降、低圧電力において多くの企業が新規参入したが、ウクライナ侵攻等により、石炭や液化天然ガスなどの原材料が高騰し、電力卸売市場の電力取引価格が高騰したことで、続々と事業撤退や倒産したりサービス内容が低下したりしたことも記憶に新しい。それに対して高圧一括受電は、10年や15年といった長期の契約であるがゆえに、契約書に謳われた削減率(地域電力会社が契約種別ごとに定めた料金計算式にてその月の電気使用量にて削減後の料金を計算。一部の電力会社では削減率ではなく固定の削減額である場合もある。)は変わらない。導入検討時には懸念事項として捉えられることもある長期契約という点が、今となってはメリットとなっていると言えるのではないだろうか。今からの高圧一括受電導入は、各戸が自由に低圧契約の電力会社を選択している場合、その解約などの手続きを思うと、対象者全員の協力は難易度が高くことが予想され、また、現在の高圧契約の金額的メリットについては調査していないため言及できない。しかし前述のとおり、過去に合意形成に苦慮しながらも導入したマンションには安定したメリットが享受できていると言える。
 今回の調査を通して、電力の契約形態に関わらず、管理組合にメリットがある内容については、中長期的な観点を持ち、変化を恐れず比較検討し、議論を深めることが重要だろうと感じる。

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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