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2023.10.26

オートロック、防犯カメラ、専有部分セキュリティ、警備員の配置
マンションに関わる防犯対策を徹底比較!

防犯・防災

オートロック、防犯カメラ、専有部分セキュリティ、警備員の配置 マンションに関わる防犯対策を徹底比較!

1.緊急センターに入電した不審者に関するお問い合わせ

 当社の緊急センターに1年間(2022年4月1日~2023年3月31日)に入電した34,234件のうち、不審者に関する通報は183件(0.5%)であった。このうち、代表的な電話の内容をいくつか紹介しよう。
 マンションに現れる不審者は、いわゆる窃盗を目的としたものだけではなく、詐欺と疑われるもの、酔っ払いの行為と思われるものなどさまざまだ。

お問い合わせの例

 こうした不審者に対するマンションの防犯設備として考えられるのは①オートロックシステム、②防犯カメラ設備、③専有部分セキュリティシステム(窓枠等へのセンサー設置等)④警備員の配置、であろう。今回はこういった防犯設備等の実態について調査した。

2.オートロックシステムは意外と古い歴史がある

 よく知られている話ではあるが、オートロックシステムは万全ではない。居住者の背後をつけ、オートロック扉が開錠されると同時に扉を通過し館内に侵入するといったことが起こりうるからだ。また、住戸の鍵を紛失した場合、玄関扉の鍵は交換してもオートロックキーまでは紛失した鍵を無効にしていない場合が多い。この場合、紛失した鍵で部屋内に入ることはできないが、オートロックシステムを通過して館内に侵入することはできる。
 今ではすっかり一般的となったオートロックシステムであるが、総務省統計局 平成25年 住宅・土地統計調査・住宅の設備によれば、「非木造」の共同住宅のオートロック化率は図1の通りであり、導入されはじめたのは45年程前のことのようである。
 ここでいう「非木造」の住宅には、分譲マンションと賃貸マンションの区分がないため、その両方が含まれているものと考えられる。また、総務省のデータにおいて次の調査年度である平成30年にはオートロック化率は調査項目から外れてしまい、平成25年(2013年)以降調査はされていない。総務省統計局の調査結果では、2013年当時、築20年を経過していたマンションでの導入率は60.3%である。これらのマンションは現在築30年を経過している。これを当社の管理受託マンションと比較してみる。

図1

 当社の管理受託マンションにおけるオートロック化の状況は図2の通りである。築30年を経過しているマンションでの導入率は72.9%であり、総務省統計局と比較すると高くなっている。この差は、分譲マンションで賃貸マンションよりも先にオートロックの導入が始まったと推測されること、そして平成25年度以降も「後付け」によりオートロック設備の設置がされていることなどが考えられる。分譲マンションに限れば、総務省統計局の数値の10%程度高い導入率であると言えるのではないだろうか。

図2

※築56年、築51年のマンションはいずれも「後付け」によりオートロックを設置した事例であり、総数が1、2のところそれぞれに1棟ずつの設置がされたため、100%、50%の導入率となっている。

 オートロックシステムは、後述の防犯カメラや専有部分セキュリティシステムなどと比較すると、早くから分譲マンションの設備として浸透している。
 推測ではあるが、45年程前と言えば、マンションに住みたい人は「あまり近所付き合いをしたくない」「濃厚なコミュニティは好まない」といった傾向があったと言われている。このことから、オートロックシステムの導入は居住者に好意的に受け取られ、早くから普及していったのではないだろうか。

3.防犯カメラは「後付け」で積極的に設置されている

 当社の緊急センターに1年間(2022年4月1日〜2023年3月31日)に入電した34,234件のうち、警察から「防犯カメラを見せてほしい(画像を提出してほしい)」という依頼は、110件ある。典型的な電話の内容を紹介しよう。

お問い合わせの例

 このように、市中に設置されている防犯カメラ映像は警察の捜査対象であり、重要な証拠となり得ること推測される。

 当社の受託管理マンションのうち、防犯カメラの設置を当社で把握しているマンションは348件※1である。これらのマンションについて台数等の設置状況を調査した(図3参照)。

※1:当社と防犯カメラのメンテナンス契約を締結しているマンション数以外の防犯カメラ設置数が把握できず。管理組合が直接導入していることも多く、実態としては管理物件の中にもまだ多数設置しているマンションはあると考えられる。

 総戸数が多くなるほど、防犯カメラ設置台数が多くなる。戸数が多くなると敷地が広くなること、自転車置き場など死角になりやすい場所の面積が大きくなることなどから、戸数に比例して台数が増加するものと考えられる。
 居住者が立ち入ることのできる箇所すべてに防犯カメラを設置しようとするのは現実的ではない。しかし、エントランスに1台という程度では充分とは言えない。20戸未満でも4台は設置されていることから、マンションで人の出入りが気になる箇所は最低でも4か所はあることが推測される。

図3

 さらに、当社の管理受託マンションのうち、防犯カメラの設置を当社で把握しているマンション348件における設置台数を築年数別に分類した(図4参照)。

図4

 防犯カメラの設置開始時期については、特定することができなかった(※2)。
※2:防犯カメラはレンタル契約、リース契約での導入が多く、契約が更新されるため初回設置時期が特定できず。

 筆者の記憶では、オートロック設備が一般化された後に、防犯カメラが設置されはじめた。つまり、築45年以上経過しているマンションは、新築分譲時には設置されておらず後付けされているものが多いと考えられる。こうしたマンションの中には、配線ができる場所が限られるなどの物理的制約や、設置費用は分譲時の長期修繕計画には含まれておらず、計画外の支出になるなどの資金的制約もあるだろう。それでも平均して5台~6台の防犯カメラが設置されている。

 また、図4のカメラ設置台数のグラフは、築15年以上20年未満にピークに、築35年以上40年未満にボトムを描くN字となっている。これはどのような理由によるものなのだろうか。築45年以上の建物について、敷地配置図、防犯カメラを設置した当時の総会議案書、議事録などからこの理由を推察した。

総会議案書に記載された設置理由(例)
 「当マンションのエントランスは、オートロック設備がなく、開放型であるため、当マンション以外の人の出入りが自由な状況で、防犯面に心配な要素があり、かつて管理員が常駐していた場合でも泥棒に侵入されたことがあります。また、マンション敷地内に煙草の吸殻が捨てられているという状況が散見されます。理事会では、このような状況に鑑み、防犯カメラの設置について検討を進めてまいりました。」
 

 この議案書から推測できる防犯カメラの設置理由は次の通りである。
①建物が外部に対して開けた敷地形状である。特にオートロックのない雁行型のマンション(※敷地配置図例参照)の場合は死角が多く、設置台数が増加する傾向がある。
②防犯カメラはオートロック設備等と比較すると、比較的安価に設置できる。

※敷地配置図例:築30年以上、オートロックなし、雁行型の敷地配置図例
 周辺道路のどこからでもマンション内に立入り可能であることがわかる。


 

敷地配置図例

 オートロック設備が一般的ではなかった時代に、外部に向かって開放的に建築されたマンションにおいては、後からオートロック設備を設置するより、防犯カメラの方が安価で導入しやすいということなのだろう。

4.高経年のマンションにも検討してほしいセキュリティサービス

 当社の管理受託マンションにおいて、セキュリティサービスは47%の管理組合で導入されている。ここでいうセキュリティサービスとは、窓ガラス等の開口部にセンターなどを取り付け、専有部分内に侵入があった場合や、部屋内での非常ボタンが押された場合に、警備会社と連携し、警備員が駆け付けるサービスである。管理組合が全戸一括で契約している場合もあれば、管理組合は基本契約のみ、希望する住戸が個別に契約している場合もある。
 こうした防犯対策は、不審者の侵入などのほか、例えば室内で突然動けなくなった場合や室内での転倒事故でも非常ボタンを押して通報できることから、管理会社としては必要性が高いと考えている。
 しかし、当社の管理受託マンションを対象に行った調査によれば、築年数が経過すると導入率が減少する傾向がある(図5参照)。築年数が経過している建物ほど、高齢者が多く居住していると推測できるが、実際の加入は進んでいない。

図5

 なお、戸数帯別の導入率をみると、30戸以下の小規模を除き、おおむねどの戸数帯でも導入率に変化はない(図6参照)。

図6

5.一番贅沢なセキュリティ、警備員の配置

 マンション管理において最もコストがかかるのは人件費だ。警備員の勤務に関しては、最高裁判例がある。「大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)」
 この事件を契機として、警備業界の賃金の支払い方法が一変した。それまで、仮眠時間は「寝ているのだから、働いているとは言えない。」という理由で賃金の支払いをしていない警備会社も多かった。しかし、制服の着用など一定の条件下にあれば、労働時間となり、賃金を支払う必要が生じた。
 なお、警備員の仮眠時間を労働時間と認めない裁判例(ビソー工業事件、仙台高裁平成25年2月13日・労判1113号57頁)もあるが、分譲マンションの警備員に該当する可能性は低いものと思料されるので、ここでは触れないこととする。
 例えば、仮眠時間の設定を、1日6時間とすると、時給×6時間分の人件費の上昇となる。さらに、月の労働時間は上限がある。上限時間を超えてしまうと、今まで2名で勤務していたマンションにも3名ないし4名の勤務体制にする必要が生じる。新たに警備員を雇用するとなれば、賃金だけでなく、社会保険料や交通費などの負担も増加する。
 警備会社からすると大幅なコスト増につながったであろうことは想像に難くない。
 筆者の主観ではあるが、この判決以降、警備員を配置するマンションは減少したように思う。これからも人手不足は深刻化し、人件費は高騰しつづけるであろう。管理員や警備員を配置する、という人によるサービスは、今後のマンション管理において最も贅沢な管理仕様になっていくだろう。

6.これからのマンションの防犯対策とは

 最近の報道を見ていると、組織的な振り込め詐欺や、白昼堂々の強盗など犯罪の傾向も変化しているように思う。
 例えば、振り込め詐欺で言えば、被害者宅にアポイントを取った後に現場に来る「受け子」と呼ばれる現金受け取り役が、オートロック扉や玄関扉の前で被害者と話をしている様子などを冷静な第三者が目撃する機会があれば、声をかけるなどして犯罪を未然に防ぐことができるかもしれない。
 押し込み強盗が下見をして、高齢者の一人暮らしであることを確認すると表札にマーキングをすると言われている。こうしたマーキングを見かけたら本人確認の上、廃棄できるなどの管理組合内で取り決めをしておけば、抑止につながるかもしれない。

 マンションの防犯対策は行き過ぎると周囲から隔絶された要塞のようになってしまい、むしろ住みにくくなってしまう。これからは、人が集まるマンションだからこそできる「人の目」「人のつながり」を生かした防犯対策を考えることも必要だろう。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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