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2024.7.11

マンション標準管理規約の規定と実運用に乖離がある条文
~窓ガラス等の改良、価値割合の議決権、法人の理事~

管理規約・細則

マンション標準管理規約の規定と実運用に乖離がある条文~窓ガラス等の改良、価値割合の議決権、法人の理事~

1.開口部は誰のもの? 第22条(窓ガラス等の改良)

 マンション標準管理規約(以下、中高層住宅標準管理規約とあわせて「標準管理規約」という)第22条(窓ガラス等の改良)について誤解している人は非常に多い。
 「管理組合が玄関ドアや窓ガラスなどの開口部についての工事を実施できない場合に、区分所有者がその工事を実施してしてもよい」ひたらくいうとそういう条文だ。
 一方で、通常、私たちの経済活動では、お金を払った人がその所有権を取得すると考えるのが常識だ。例えば、私が小売店でハンドバッグを購入したとしよう。このハンドバッグは私のものだ。これがあたり前の市民感覚というものだ。しかし、この第22条窓ガラス等の改良の工事においては、この市民感覚と異なることが起きる。
 管理組合が工事を実施せず、区分所有者が窓ガラス等の改良をしたとしよう。もちろん工事会社への支払いは区分所有者が行うことになる。改良された開口部に造作物などがあっても、それは区分所有者のものにはならず、共用部分のままなのだ。つまりマンションの区分所有者全員の共有物なのである。
 「私がお金を払って工事をしたのだから、ここは私のものだ!」そう主張したくなるだろう。しかし、管理規約は、「工事をしてもいいですよ」と言っているが、専有部分と共用部分の境界線は変更していない。共用部分の工事を区分所有者が自分のお金で「やってあげた」ということなのである。
 さらに、それから何年かして、管理組合で共用部分の工事を実施する決議をしたとしよう。この場合、「この部分は、数年前に自分で工事をしたから、やらなくていい。その代わりウチにかかるであろう費用分を返金してください」と言っても総会で賛成の決議がなければその希望はかなわない。
 専有部分の排水管や給水管の更新工事については、先行して工事を実施した者への補償について標準管理規約コメントに記載がある。しかし、窓ガラスやサッシなどを先行して実施した者への補償について何ら言及されていない。管理組合に工事を実施したいという届出がされたら、補償の有無について説明しておくことがよいだろう。

【参考】(窓ガラス等の改良)
第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面又は電磁的方法による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。
3 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「第22条第2項の工事」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事」とあるのは「第22条第2項の承認を受けた工事」と読み替えるものとする。

2.お金持ちはたくさん払って! 第46条関係コメント

 収入の高い人に管理費と積立金をたくさん負担してもらうという価値割合という考え方がある。
 昭和57年の標準管理規約から、共用部分の持分割合は、専有部分の面積割合であった。区分所有法では、それ以外の割合を認めてはいるものの、管理規約はこの当時から「専有部分の面積が共有持分割合となる」と規定されてきた。そして、管理費や修繕積立金の負担は、この共有持分割合によるものと規定されてきた。
 マンション管理においては、古典的な質問である「私はエレベーターを使わないから、エレベーターのメンテナンス費用や修繕費用を払いたくない。なぜ、支払わなくてはならないのか。」という質問がある。あらゆる入門書にこの質問が掲載されている。
 この問いに対しては、「あなたにも共有持分があるからです。」という回答がされている。管理費の負担は、1階であろうが、20階であろうが、エレベーターを使うか否かは関係ない。面積が一緒なら、負担額は同一であるという「マンション管理の常識」は40年以上にわたり堅持されてきた。
 平成29年、標準管理規約に価値割合のコメントが追加された。共有持分割合はマンションの価格によって決めることもできる、というものである。この考え方が追加された当時、マンション管理業界では、この記載について否定的な意見が多かった。販売価格は、部屋内の仕様や階高(上層階か、下層階か等)、向き(南向きか、否か)、間取りなどのマンション内の条件に加えて、そのマンションのエリア特性や駅からの距離、分譲時の経済環境などが絡み合って決められている。価格の割合では、将来にわたり、納得感が得られる説明ができない。価格が高い部屋の方が屋上防水工事や給水ポンプ交換工事の費用を(結果的に)専有面積割合以上にたくさん負担する合理的な説明が難しい。
 もともとこの価値割合がコメントに追加された意図はなんだろうか。これは私の想像であるが、「最終的に建替えをしやすくしたい」という意思の現れであると考えている。
 高額の住戸を購入した区分所有者は、相対的にそのマンション内において収入が多いと考えられる。高収入の区分所有者が持分割合が多くなれば、建替え決議がしやすくなると考えたのではないか。現在成功している建替え決議は、容積率の緩和などにより区分所有者の追加負担なく建替えができた事例ばかりである。しかし、これからの建替えはそういう訳にはいかない。自主建替えとなれば、相当な負担となることも考えられる。この時に、「収入の多い人」や「お金をもっている人」が議決権をたくさん持っていれば、資金難を理由とする反対議決権が少なくなり、結果として建替えがしやくなると考えたのだろう。
 この標準管理規約の改正後、価値割合を持分割合とした原始規約は生まれたのであろうか。私の知る限りにおいていまだその事例はない。
 マンション標準管理規約は、マンション管理業界に非常に大きな影響力をもつ。「標準管理規約に書いてあるとおり」に規約を制定しようとする力学がはたらきやすい。
 しかし、この価値割合については、標準管理規約をもってしても、いまだ浸透はしておらず、世の中の流れを変えることはできなかったようである。
 
【参考】第46条関係コメント(抜粋)
住戸の価値に大きな差がある場合においては、単に共用部分の共有持分の割合によるのではなく、専有部分の階数(眺望、日照等)、方角(日照等)等を考慮した価値の違いに基づく価値割合を基礎として、議決権の割合を定めることも考えられる。
この価値割合とは、専有部分の大きさ及び立地(階数・方角等)等を考慮した効用の違いに基づく議決権割合を設定するものであり、住戸内の内装や備付けの設備等住戸内の豪華さ等も加味したものではないことに留意する。
また、この価値は、必ずしも各戸の実際の販売価格に比例するものではなく、全戸の販売価格が決まっていなくても、各戸の階数・方角(眺望、日照等)などにより、別途基準となる価値を設定し、その価値を基にした議決権割合を新築当初に設定することが想定される。ただし、前方に建物が建築されたことによる眺望の変化等の各住戸の価値に影響を及ぼすような事後的な変化があったとしても、それによる議決権割合の見直しは原則として行わないものとする。なお、このような価値割合による議決権割合を設定する場合には、分譲契約等によって定まる敷地等の共有持分についても、価値割合に連動させることが考えられる。

3.総務課長の人事異動に対応できません! 第35条(役員)

 法律と実務のギャップが一番大きいのが、この法人が理事になる場合の規定だろう。標準管理規約コメントでは、「役員として意思決定を行えるのは自然人であり、法人そのものは役員になることができないと解すべきである。したがって、法人が区分所有する専有部分があるマンションにおいて、法人関係者が役員になる場合には、管理組合役員の任務に当たることを当該法人の職務命令として受けた者等を選任することが一般的に想定される。」とある。
 しかし、大企業が区分所有者であればあるほど、この条文を厳密に実施することは難しくなる。
 例えば、社宅等で住戸を使用している場合は、社宅を管轄する「総務課長」の肩書がある人がその任にあたることが多い。法人から職務命令をうけた総務課長を総会で理事に選任するとしよう。総会議案書には、次のような氏名が「次期役員選任の件」として記載されることになるだろう。
 
「理事 501号室 〇○株式会社 総務部総務課 課長 山田太郎」
 
 この方が総務課長であり続ける限り問題は生じない。しかし、企業の人事異動は管理組合に関係のないところで起きる。
 ある日、理事会に参加すると「この度、人事異動があり、総務課長が山田から鈴木に変更になりました。みなさま、これからよろしくお願いします」と鈴木さんがニコニコしながら座っている。そんなことはよくある。
 企業側からすれば、総務課長が交代すれば、当然に理事会に出席する人も交代になる。その場にいる他の理事も、会社員である方が多いから、通常の業務の引継ぎと同様で誰も疑問に思わない。
 しかし、厳密にいえば、総会で選任された理事は、山田さんであって鈴木さんではない。
 標準管理規約コメントでも「理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。」など理事の個人的資質に着目した記載がある。
 こうした考え方に基づけば、総会の決議で理事の選任を山田さんから鈴木さんにやりなおす必要がある。しかし、現実的に、臨時総会を開催して選任しなおしている管理組合はほとんどないのではないか。法人の理事の場合、区分所有者は個人の資質ではなく、企業の肩書に対して信任されているのである。この点が標準管理規約の考え方が実運用の考え方と大きく異なっている。
 
 標準管理規約を下敷きにして、疑問を持つことなく管理規約を改正すると思わぬところで運用に支障をきたすことがある。「標準管理規約に書いてあるから」という理由だけで管理規約を改正するのではなく、個々のマンションの実情にあわせて検討することが必要だ。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

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