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2019.12.2

管理組合について区分所有法をもとに考える

マンションの法制度

管理組合について区分所有法をもとに考える

はじめに

 東京都において、マンションの区分所有者の団体に対する条例(東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例)が制定された。この条例では、「管理組合がない」「運営が適切にされていない」というマンションの団体が増加し、管理不全マンションが社会問題化することを懸念して、マンションの団体の登録制度などが規定したものである。当該条例を検討する東京都の検討会資料※においては、東京都に立地するマンションの6.5%において「管理組合がない」という説明がされている。

東京都都市整備局マンションの適正管理促進に関する検討会第5回検討会 参考資料2 マンション管理の実態 東京都住宅政策本部ホームページ 平成30年9月12日

 本稿においては、区分所有法第三条に定める区分所有者で構成される団体を「マンションの団体」とし、「管理組合」という用語を用いる場合には、その意図が分かる範囲で使い分けることとする。いわゆる「管理組合」という用語が複数の意味で用いられており、混乱が生じているとも言えるからである。そもそも、区分所有法第三条に基づく区分所有者の団体が管理組合であるならば、それが「ない」という状態は有りえないこととなる。我が国の区分所有法においては、「管理組合」という法律用語はない。

 ここでは、マンションの団体のあり方の整理を行い、いわゆる「管理組合」について混乱が生じている理由や生じている誤解について整理したい。

※マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「適正化法」とする。)第三条(用語の意義)第三項において、管理組合が定義されており、「マンションの管理を行う区分所有法第三条若しくは第六五条に規定する団体又は区分所有法第四七条第一項(区分所有法第六六条において準用する場合を含む。)に規定する法人をいう」とある。これは、単に、区分所有者の団体の定義(三条)や団地管理組合(六五条)、管理組合法人(四七条)を示しており、所謂「管理組合がない」状況を合理的に説明する参考にはならない。

1.区分所有法の確認

(1)区分所有法第三条の確認
 まず、区分所有法第三条を確認したい。
「第三条区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」とある。

 ここでは、以下の4つが規定されている。
 まず、①「区分所有者が全員で団体を構成すること」である。ここで注意する点であるが、区分所有法自体には、前述の通りいわゆる「管理組合」を規定しておらず、構成された団体における性格を具体的に規定しているとも言えない。

 次に、できることが規定されている。それは
②集会を開くことができること。
③任意で規約を定めることができること。
④管理者を置くことができること。

③と④が任意の規定であることは、区分所有法を理解する上で大変重要なこととなる。つまり、規約を定めることや管理者を置くことは任意の規定となっている。なお、区分所有法には理事会についての規定はない。

 これは、我が国の区分所有法が、共同住宅に限定されたものではなく、事務所ビルや戸建てなどに広く利用ができる法律であることにも理由がある。また、賃貸マンションや二世帯住宅などにおいて、相続時のトラブルを予め回避する意図で、区分所有を用いたり、高齢者向けの住宅で区分所有を用いる例も数多く存在する。

 ここから、区分所有法の意味をごく簡単に読み解けば、戸数が少なかったり、親族で所有していたりと、物事を決めることがあまり難しくなければ、1「団体を構成する」だけで十分であり、特に決めるべきことが発生すれば、2「集会を開」けばよい。
 次に、戸数が多くなって来たりして、日常的なことは任せた方がよければ、4「管理者を置」いて、その者にさせればよい。さらに、もっと複雑になってルールが必要であれば、4「管理者を置」いた上で、「規約を定め」て運営をすればよい、となる。

(2)区分所有法の改正(昭和58年)
 区分所有法の第三条については、最初の区分所有法が制定された昭和37年版にはそうした規定はなく、マンションの団体について疑問が生じたこともあり、昭和58年の改正によって、前述の規定が設けられた。改正を検討する段階においては、すでに、「管理組合」と呼ばれるマンションの団体が置かれており、その運営も現在に使いものが多くあらわれていたので、それを取り入れることが法改正のひとつの目的となった。
 改正に伴って出版された「建物区分所有法の改正」(濱崎恭生著法曹会)においては、この規定は、「団体自体に関する規定というよりも、区分所有法上の管理の仕組みに関する総則的規定と言う形の中で、間接的に団体の存在を明らかにする形にとどめられた」とある。昭和58年の区分所有法改正に関する国会審議においても、「管理組合と第三条に言う団体との関係はどうなる」かについて質問があり、法務省は「現在のいわゆる管理組合は」「第三条の団体にほかならない」とこたえている※。

※第98回衆議院法務委員会(昭和58年4月12日)国会議事録より(以下、抜粋)
○高村委員現在でも一般のマンションでは任意に管理組合なるものを設立して、これによって区分所有者によるマンションの自主的管理が行われているようでありますが、この管理組合と第三条に言う団体との関係はどうなるでしょうか(。略)
○中島政府委員区分所有者は当然に一つの団体を構成いたしまして(略)、第三条におきましては、その趣旨を国民一般の皆さんに理解しやすいようにするために確認的に宣言をしたものであります。(略)ほとんどの区分所有建物におきまして任意に管理組合を結成をするという形をとっておるわけであります(略)。管理組合の結成という行為は、(略)、法律上当然のことを区分所有者間で確認し合うものであるというふうに考えられる(略)。区分所有者全員で構成をして区分建物とその敷地の管理を行う団体が第三条に言うところの団体であるということになる(略)。現在のいわゆる管理組合はこれらの要件を満たしておると申しましょうか、当てはまるわけでありますから、第三条の団体にほかならない(略)。

2.他国の立法例

 ここで、他国の立法例をごく簡単に確認する。マンション管理に関わっているうちに、区分所有法自体には管理組合や理事会の規定がないということに慣れるが、以下の立法例では、そうした慣れを必要としない面がある。


(1)フランス※
 フランスでは、区分所有者の団体は法人となることが規定され、管理者の設置も義務となっている。なお、こうした義務を果たしておらず、管理不全に陥ったマンションを荒廃区分建物と定義し、公権力が介入できるようになっている。
 ちなみに、フランスは専門家による管理者管理が多い国である。

※参考)フランスにおける区分所有建物管理制度の概要、直面する課題と法改正寺尾仁(日本不動産学会誌2009年第22巻第4号)
※参考)フランスのマンション管理者制度の実態阿部順子(日本不動産学会誌2009年第22巻第4号)


(2)カナダオンタリオ州※
 区分所有法の中に、我が国の標準管理規約にあるような理事会の規定が置かれている部分がある。また、制限行為能力者が理事になれないことや利益相反取引行為の禁止なども規定されている。
 理事会方式が取られており、我が国のマンションの団体の運営に近いものがあるとされる。

※参考)カナダオンタリオ州のマンション法角田光隆(日本マンション学会学術委員会マンション学第60号2018年)

3.マンションの団体の3分類

ここで、マンションの団体を3つに分類したい。

(1)準共有パターン:マンションの団体を構成しているだけのもの(社団性なし)
 区分所有法に基づいてマンションの団体を構成しているだけのものとなる。従って、任意となる管理者が置かれておらず、規約もない。特に大きなことを決める場合には、集会を開いて(もしくは全員で)、決定することとなる。民法の共有に近い状態と言える。この状態では、いわゆる権利能力なき社団の要件を充たさないため、マンションの団体として工事業者などとの契約をすることには不都合が生じる懸念がある。

(2)管理者パターン:区分所有者が管理者を選任し、管理を任せるもの(社団性あり)
 昭和50年代にマンション管理会社などで行われていた管理のパターンであり、前述のフランスやドイツのパターンとなる。理事会は置かれていないので、区分所有者は理事になる必要はない。昭和57年の当初の標準管理委託契約書は、このパターンにも対応が可能であることが想定されていた。
 ヨーロッパのマンション管理の研究者の方は、しばしば「管理組合はない」という表現を使う。「管理組合」という言葉には、自治的、間接民主制といったニュアンスが含まれるため、我が国における「管理組合」という団体はないという表現につながることが理解できる。


(3)理事会パターン:区分所有者が(多くの場合区分所有者からなる)理事を選任し、その理事の互選で理事長(管理者)を選任し、管理者の権限を制限し、自治的な運営および管理を行うもの(社団性あり)
 これが、現在一般化していており、適正化法なども前提としているパターンとなる。標準管理規約が想定しているパターンでもある。

4 .いわゆる「管理組合」のあり、なし

 「3.マンションの団体の3分類」における(1)準共有パターンと(2)管理者パターンを「管理組合がない」と呼ばれることが多いようである。管理不全マンションの議論の中においては、「管理組合がない」という状態を法的に問題があるようなニュアンスで書かれていることがあるが前述の通りそうとも言い切れない。
 一方で、東京都の検討会資料を見ると、(1)準共有パターンにあるマンションの多くは昭和58年以前のマンションである。管理不全の懸念が高まっている背景には、マンションの団体のパターンの問題というだけではなく、我が国の超高齢社会に伴い、区分所有者が調整したり、意思決定したりすることが困難になって来ていることが指摘できるかもしれない。

5 .まとめ ※

 我が国では、民法の共有からスタートした区分所有法がある。その最初の立法が昭和37年のことであった。この立法ではヨーロッパが参考とされ、管理者パターンが想定されていた。
 その後、マンションブームが到来するが、区分所有法が想定していなかった理事会パターンが広まった。
 昭和58年の区分所有法改正においては、昭和37年の民法の共有概念に、一般社団法人や株式会社のような団体法の概念を取り入れようとした。ただし、団体の法律制度にまったく方針転換をすることはなかった。そうしてできたのが前述の区分所有法の第三条となる。
 なぜ、理事会パターンが一般化したのかについては、深く論じたものは余り見かけないが、明治大学名誉教授の丸山英気先生は、著書や講演において、地方から都市への移住に伴って、地方の自治的な制度を取り入れられたこと、日本人はリーダーを選ぶにあたって、会社においても外部の経営のプロより、社内のプロパーを好む傾向があること、を上げている。
 我が国の現代の仕組みの多くは、高度経済成長の時代につくられたと言われる。会社における年功序列や終身雇用などはそうした典型ともいわれる。区分所有法が想定していない方向で運営がされてきた我が国のマンションの団体の運営もそのひとつともかも知れない。マンションを巡る社会的な課題を検討するにあたっては、過去の経緯をあらためて見直して、対策を検討することも必要ではないだろうか。

※参考)これからのマンションと法序論:マンションと法丸山英気(日本評論社2008年)

以上

この記事の執筆者

田中 昌樹

マンションみらい価値研究所研究員。一般社団法人マンション管理業協会出向中。現在は、マンションみらい価値研究所にて、防災・減災に関する統計データの活用や居住者の高齢化や災害の激甚化などの社会的な課題について、調査研究や解決策の検討を行っている。

田中 昌樹

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