HOME > レポート > マンションにおける空家問題

2020.1.24

マンションにおける空家問題

マンションを取り巻くリスク

マンションにおける空家問題

1.全国の空家の現状

 総務省統計局平成30年度住宅・土地統計調査(以下「住宅・土地統計調査」という)によれば、全国の空き家総数は849万9千戸空き家率は13.9%に達している。
 空き家の定義は、下記の4区分となっている。
 ①賃貸用の住宅
 ②売却用の住宅
 ③二次的住宅※
 ④その他の住宅(「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」「二次的住宅」以外の空き家で、転勤・入院などのために居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅のほか、空き家の区分の判断が困難な住宅を含む)
 空家が問題となるのは、建物の管理不全による倒壊等の危険、防犯性、防災性の低下、ゴミの不法投棄による悪臭の発生、景観の悪化などが挙げられる。これらの事象が現れるのは主に「戸建て」における「4その他の住宅」ではないか。
 マンションでも全戸が空家になり、管理者不在、所有者不明、管理費や積立金もないとなれば、戸建てと同様の状況が発生するであろう。しかし、こうした状況に陥るマンションはごく稀な事例であると考えられる。マンションは空家があったとしても、空家住戸の区分所有者から管理費、修繕積立金が管理組合に納入されてさえいれば、適切な管理を行うことができる。空室があっても直ちに建物の倒壊につながることはない。
 マンションにおいて空家が問題となるのは空家であることが原因となって下記のような事象が現れることではないか。最も深刻な問題となる可能性のあるのは①であろう。
 ①管理費や修繕積立金が納入されなくなり、適切な修繕工事ができなくなる
 ②空家住戸の給水管や排水管が長期間利用されないことにより閉塞、亀裂が発生する
 ③専有部分内に立ち入れないことにより消防用設備点検や雑排水管清掃などの点検、清掃ができなくなる
 ④専有部分内に立ち入れないことにより設備の更新工事ができなくなる(管理規約により消防用設備、テレビ共聴設備、インターホン設備等が共用部分と定義されている場合)

※二次的住宅
 さらに別荘とその他に分類されており、「別荘」・・週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅、「その他」・・ふだんすんでいる住宅とは別に、残業で遅くなったときに寝泊りするなど、たまに寝泊りしている人がいる住宅、とされている。

2.マンションの空家の現状

 平成30年度国土交通省マンション総合調査(以下「総合調査」という)では、マンションの空室戸数割合の調査がされている。総合調査における「空室」とは、3ヶ月以上空室であるものと定義されており、住宅・土地統計調査の「空き家」の定義とは異なる。
 総合調査の空室には、賃貸用として募集中の空家や、セカンドハウス利用のため空室となっている住戸も含まれると考えられる。
 総合調査ではマンションの空室戸数割合を下記の3区分に分けて調査している。
 ①0%の管理組合
 ②0%超~20%の管理組合
 ③20%超の管理組合
 築年数別の空家率は図1の通りである。
 総合調査の結果では、築年数が経過するに従い、空室率が高くなる傾向があるが、昭和54年以前のマンションでも空室率0%のマンションが24%を占めている。また、各年次ともに不明率が7%から15%に及ぶ。マンションの空室率はそれほど高くない印象をうける。
 この結果は、総合調査の調査手法がアンケートによるものであることと関係があるのではないか。。管理組合へのアンケートの回答は主に理事長や理事が回答していると推測される。同じマンションに居住する者であってもエントランスですれ違う程度の関係性であれば、どの住戸が空室であるかを把握することは難しい。数ヶ月間顔をあわせないこともあろう。それでも空室と認識された住戸は3ヶ月よりもっと長期間空室であったとも考えられる。

図1:国土交通省マンション総合調査 空室戸数割合(完成年次・平成30年度)より作成

3.水道料金の変動による空家率の調査

 近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県)のマンションでは、水道局からマンション全体での水道使用料が請求され、各戸の検針、各戸への請求は管理組合が行うことが多い。この検針、請求業務を管理会社が管理委託契約に基づき受託する。そのため、当社は近畿圏の受託マンションの水道料金の請求データを保有している。
 生活する上で水道は欠かすことのできないものであるから、水道使用量が生活に必要なレベル以下である場合は空家であることが推測される。東京都水道局「世帯人数別の1か月あたりの平均使用水量」によれば、1人世帯の場合、8.2m³とされている。今回の調査では、東京都の1人世帯あたりの平均使用水量よりさらに少ない7m³以下を生活に必要なレベル以下であると考えた。
 また、水道メーターを毎月検針する管理組合と2ヶ月に1度検針する管理組合がある。
 今回の調査では、毎月、検針する管理組合では3ヶ月連続して7m³以下である住戸、2ヶ月に1度検針する管理組合では2回検針分(4ヶ月相当)連続して7m³以下である住戸を空家と推定した。
 なお、7m³より多い使用量であっても、例えば賃貸用住戸として使用するために内装工事を行った場合などは水道使用量が一時的に増加することから、空家であっても空家に算入されていない住戸もあると考えられる。水道使用量から3ヶ月以上の空家であると考えられる築年数別の割合は図2の通りである。

図2:大阪府・京都府・兵庫県水道料金変動からみる空家戸数割合(大和ライフネクスト2019年10月実績)

 総合調査の図1と比較して、どの築年数でも空家率が0%の管理組合の割合が少なく、0%超~20%の管理組合の割合が多くなっている。検針に基づく水道使用量を集計したものであるから、不明という分類はない。
 図2から総合調査の結果よりも実際の空家率はもっと多いことが推測される。
 また、築年数が経過するに従い、空家率が高くなる傾向は総合調査とほぼ同一であるが、平成22年以降では20%超の管理組合の割合が多くなっている。これは調査した当社受託マンションにまだ入居が進んでいないごく最近分譲されたマンションが含まれていること、セカンドハウス利用の住戸が多いマンションが含まれていることが要因であると考えられる。

4.空室と管理費等の未収金の関係

 空家が増加する原因は何か、また空家となることにより管理費等の未収金につながるのかを仮説を立てて検証した。

[仮説1]外部区分所有者が増加すると、空家が増加し、管理費等の未収金につながるのではないか。
 区分所有者がマンション外部に転出し、賃借人などの入居がない場合に空家となり、賃料の収入が得られないことから管理費費等の未収金が増加すると仮定する。
 この場合、外部区分所有者(マンション内に現に居住していない区分所有者)は内部区分所有者(マンション内に現に居住する区分所有者)よりも管理費等の未収金の発生率が高いことになる。
 当社受託マンションにおける内部区分所有者と外部区分所有者の管理費等の未収金発生率を比較した(図3、図4参照)。

図3:外部区分所有者の築年数別6ヶ月以上の未収金発生率(N=3,574棟)大和ライフネクスト2019年10月調査
図4:内部区分所有者の築年数別6ヶ月以上の未収金発生率(N=4,250棟)大和ライフネクスト2019年10月調査

 内部区分所有者であっても、外部区分所有者であっても、築年数が経過するごとに6ヶ月以上の未収金発生率は増加する傾向がある。しかし、外部区分所有者の未収金発生率はむしろ内部区分所有者の未収金発生率よりも低い。
 外部区分所有者の場合、空家となって賃料収入が得られず、管理費等が支払えない状況となれば、売却することも考えられる。管理会社としての経験でも、管理費等の滞納者は他に居住地がなくマンション内に居住されているケースが多い。また、売買価格が下落し、売買価格よりも抵当権の残額のほうが多額となり、売却できないまま管理費等の未収金につながるケースも多い。
 中古マンションとして流通することができる状況であれば、外部区分所有者が増加することが直ちに管理費等の未収金の発生につながるとは考えにくいのではないか。

[仮説2]相続が発生すると相続人が居住しなくなると空家が増加し、管理費等の未収金につながるのではないか。
 一戸建ての場合、国土交通省平成26年空家実態調査(以下「空家実態調査」という)によれば、「住宅を取得した経緯別の最後に住んでいた人」において「相続した」が最も多くなっている(図5参照)。

図5:住宅を取得した経緯別の最後に住んでいた人(N=2,2140)

 空家実態調査は戸建て空き家を調査したものであり、マンションは含まれていない。マンションの場合も相続が原因で空家となり未収金の増加につながるのかを考察する。
 マンションの区分所有者に相続が発生した場合、その相続人は40代から60代が多いと考えられる。この世代は親の所有するマンションとは別の場所に居住地があることが多く、自ら居住する必要がないため、空家となる可能性は高い。
 当社では所有権の移転原因のデータを保有していない。そのため、サンプルとして5棟のマンションの全戸分の登記簿を閲覧し、所有権保存の時点から2019年までの所有権移転の回数と登記原因を調査した。仮説の通りである場合、相続の発生件数が多いと、管理費等の未収金が多くなると考えられる。

図6:A〜Eマンション相続発生件数

 サンプル調査したA〜Eのマンションのいずれにおいても分譲当初は相続による登記移転はほとんどないものの、築年数が経過することにより年間一定件数の発生がみられる。しかし、築30年を超えるA、B、Eのマンションでも右肩上がりに増加するわけではなく年に数件の発生にとどまっている。また、比較的未収金の多いC、Dのマンションが他のマンションと比較して相続の発生件数が多いとは言えない。相続の発生が直ちに未収金の発生につながるとは考えにくい。

 では、相続により住戸を取得した相続人はその住戸をどうするのか。居住する必要がないとすれば、賃貸用住戸として運用しているか売却していることが考えられる。
 相続により住戸を取得した区分所有者が、次に所有権を移転するまでの期間と、売買により住戸を取得した区分所有者が次に所有権を移転するまでの間の期間を図6、A~Eのマンションで調査した。
 相続で取得した区分所有者は、売買で取得した区分所有者よりも保有期間が短い。おおむね25%の区分所有者が2年以内に売却していることがわかる(図7参照)。

図7:区分 所有者が次に所有権を移転するまでの間の期間
図7:区分 所有者が次に所有権を移転するまでの間の期間

 公益財団法人不動産流通推進センター2019不動産統計集によれば、首都圏中古マンション市場の成約件数は緩やかに増加を続けている。一戸建ての場合、図5で示した国土交通省空家実態調査の通り、売却せずに空家として放置されることがあっても、マンションの場合は売却して相続手続きを終了させようとする意識が働きやすいと考えられるのではないか。
 中古マンションとして流通することができる状況であれば、相続の発生が増加することが直ちに管理費等の未収金の発生につながるとは考えにくい。

5 .考察

 外部区分所有者が増加した場合でも、相続が発生した場合でも、中古マンションとして流通しやすい環境にあることが、空家が直ちに管理費等の未収金につながりにくい要因となっていると考えられるのではないか。これらの相関関係を式に示すと下記の通りとなる。

「管理費等の未収金発生率=空き家率/不動産流動率」

 つまり、空家が多くて不動産流動率が高ければ、管理費等の未収金にはつながりにくい。流動率を維持することがマンションの空家問題の発生防止策、解決策であると考える。
不動産流動率を高めるには良好な管理を維持することも一要素であることから、マンションにおける空室問題を顕在化させないためにも管理は今後も重要なファクターになる。

注)文献等により「空家」「空き家」「空室」等の表現がされているが、本報告書では「空家」と記載する。なお、引用については原文どおり記載。

この記事の執筆者

久保 依子

マンション管理士、防災士。株式会社リクルートコスモス(現株式会社コスモスイニシア)での新築マンション販売、不動産仲介業を経て、大和ライフネクストへ転籍。マンション事業本部事業推進部長として主にコンプライアンス部門を統括する傍ら、一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員を務める。

久保 依子

関連情報 参考文献

平成30年住宅・土地統計調査 総務省統計局ホームページ

マンションに関する統計・データ等 国土交通省ホームページ

もっと知りたい「水道」のこと 東京都水道局ホームページ

平成26年空家実態調査 集計結果について 国土交通省ホームページ

Related post

2018.12.21

コラム

“住みつなぎ”ができないマンションの行く末

2022.1.31

コラム

中古マンションと「人の死」

2019.12.17

コラム

建替え?それとも? 高経年マンションの3つの道

2019.12.19

コラム

高経年マンション、誰が大規模修繕工事を仕切る?