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2020.2.25

マンション管理士の活用の実態について
~国土交通省マンション総合調査結果との比較~

組合運営のヒント

マンション管理士の活用の実態について ~国土交通省マンション総合調査結果との比較~

1 .はじめに

 2001年8月に施行されたマンション管理適正化の推進に関する法律(以下、適正化法という。)で、マンション管理士の資格が定められた。適正化法から引用すると、マンション管理士とは、「専門的知識をもって、管理組合の運営その他マンションの管理に関し、管理組合の管理者等又はマンションの区分所有者等の相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う」とされている。
 国土交通省の発表している平成30年度マンション総合調査(以下、「総合調査」という。)結果では、専門家の活用状況の問いにおいて、「マンション管理士を活用したことがある」と回答した管理組合は1,688組合中219組合(13.0%)であった。
 当社管理の約3,890組合を対象に、2017年12月から2019年12月までの2年間において、総会議案および支払履歴から情報収集を行い集計したところ、マンション管理士を活用している管理組合は86組合(2.2%)だった。これには、マンション管理士事務所および個人名のマンション管理士のほか、マンション管理に特化したコンサルティング会社もホームページでマンション管理士の在籍数を掲載していれば数に含めた。また、行政書士や弁護士の事務所であっても、それらの資格による独占業務以外の観点でマンション管理に携わっている事務所や総会議案にてマンション管理士の資格について触れられているケースは数に含めた。ただし、今回の調査には修繕工事に特化したコンサルティング会社や建築士事務所は含めていない。
 当社管理の組合においての活用の実態を調べ、その結果から考察を行った。

2 .活用内容

 86組合のうち、件数ごとの活用内容の内訳として、最も多いのが「顧問契約」(65組合)、「単発のコンサルティング」(29組合)、「管理者への就任」(1組合)、「理事への就任」(1組合)であった(図1参照。1組合で複数の活用を行った件数を含む)。調査対象の2年間のうちに「顧問契約」と「単発のコンサルティング」の両方を依頼している組合が7つあり、これらは顧問契約とは別に「単発のコンサルティング」として、管理規約全体の見直し(改正原案の作成)や長期修繕計画作成(既存の計画からの見直し)をマンション管理士へ依頼していたものである。またその7組合のうち3組合は、顧問契約とは別のマンション管理士に依頼しており、各得意分野を加味した専門家の活用意識が垣間見える。

図1:マンション管理士の活用内容

 総合調査結果はこれまで過去に活用したことがあるか否かを聞く一方で、前述の当社の実績数はこの2年間における活用数であるため、両者の活用率に差が出ているように見える。その原因としては、適正化法が施行されて以降約18年間経過していること、加えて、マンション総合調査はマンション管理会社に管理事務を委託していない組合(マンション管理業者に基幹事務を委託していない組合)の回答も約15%含まれていることが考えられる。

 総合調査では、外部専門家の選任形式の結果も公表されており、「単発のコンサルティング業務」が61.2%、「顧問契約」が20.4%、「外部役員として理事長等に就任」が4.1%、「無回答」が20.4%である。総合調査のこの数値にはマンション管理士以外の専門家も含むものではあるが、当社管理の組合では、「顧問契約」の方が割合が高い。

3.完成年次別の比較

 総合調査では、「建物の完成年次が新しくなるほど『外部専門家を活用したことがある』の割合が低くなる傾向にある」、という結果を導いている。表1は、総合調査の有効回収数を年次別にし、そのうち「マンション管理士を活用したことがある」と回答した率と、当社管理の完成年次ごとの活用割合とを並べた。総合調査とほぼ同様の傾向が見られる。築年数を重ねるほど、管理組合運営において解決すべき課題が増えるということだろう。例えば、管理委託契約の見直し(管理会社変更)、管理規約全体の見直し(改正原案の作成)や長期修繕計画作成(既存の計画からの見直し)は完成年次の新しい管理組合には縁がないものばかりだ。

表1:完成年次別マンション管理士活用割合比較

4.総戸数規模別

 総戸数規模別で、総合調査と比較した結果が表2である。総合調査結果の分析のとおり、「総戸数規模が大きくなるほど『活用したことがある』の割合が高くなる傾向がある。」が表れている。これもまた、総戸数が大きいほど、管理組合運営における課題は多岐に渡り、かつ、複雑さを増す所以であろう。

表2:総戸数規模別マンション管理士活用割合比較

5.顧問契約の報酬月額

 ここからは総合調査では調査対象となっていない観点について、当社の調査結果について述べる。顧問契約の報酬月額について調査した。管理費会計から一ヶ月ごとに一定額を支出するとなると、戸数が少ない管理組合ほど収支への影響が大きいが、結果としては表3のとおりであり、21戸以上500戸以下に注目すると、平均月額が40,000円~55,000円ので間に収まっている(枠A)。特別に月額の高いサンプルがあると平均値が高くなることが懸念されるため中央値も計算したが、21戸以上500戸以下では30,000円~50,000円の間であった(枠B)。501戸以上では、平均値および中央値ともに一気に高額となるが、以上の集計結果からは顧問契約の月額報酬は総戸数が大きいほど徐々に高くなるとは言いきれない。
 総合調査にマンション管理士の顧問報酬月額を調べた結果はないが、類似の内容として、外部役員の選任を検討している管理組合向けに外部役員に対して支払える報酬の限度額を聞く質問があり、その結果は「5万円未満」が50.2%を占め、次いで「10万円未満」が11.8%である。

表3:総戸数規模別マンション管理士顧問契約の報酬月額

6.顧問契約開始後の経過年数

 顧問契約は1年契約を基本とするものが多いようだが、契約を更新してマンション管理士を活用している管理組合は多い(表4参照)。中には、2003~2004年(マンション管理士資格が適正化法で定められてまもなくの頃)から顧問契約を更新し続けている管理組合がある。他には、マンション管理士の活用は継続しているが、途中で別のマンション管理士に変更している管理組合が7件あった。変更の理由としては、価格面を理由に挙げるものが多い一方で、課題が移り変わることにより現行の課題を得意とするマンション管理士への交代も見受けられた。

表4:顧問契約開始後の経過年数

7.顧問契約を開始した年次

 また、顧問契約を開始した年次(管理組合事業年度の期)について調査した結果は表5である。中には管理組合が設立されてすぐの1期から、マンション管理士との顧問契約を結んでいる管理組合もあり、マンション管理士の活用を開始するきっかけは、管理組合ごとに様々であろうと推測する。

表5:顧問契約を開始した年次

8.単発のコンサルティング契約の場合

 顧問契約とは異なり、マンション管理士を単発で活用している事例について、その依頼内容は図2のとおりであった。最も件数の多い「管理委託契約見直し支援業務」においては、結果として管理会社変更を伴っているものが大半を占める。図2に並ぶ依頼内容は、管理会社変更、新たな管理規約・細則等の総会承認、大規模修繕工事の完工など一定期間で業務が完遂するものだ。なお、管理委託契約見直し支援業務や管理規約・細則等見直し支援業務は、単発の契約とはせずに顧問契約の業務内容に含んでいる管理組合もある。
 前述のとおり、調査対象の2年間のうちに「顧問契約」と「単発のコンサルティング契約」の両方を依頼している組合が7組合あった。それとは別に、調査対象期間外の単発の依頼事案がきっかけで、しばらくして新たな課題が出てきた際に過去にお世話になったマンション管理士との顧問契約を開始しているものが、確認できただけでも6件あった。課題に応じて、顧問契約または単発のコンサルティング契約を使い分けて臨機応変に活用していることが伺える。

図2:単発のコンサルティング契約の依頼内容

9.調査結果を受けて

 今回、マンション管理士活用の理由やきっかけについても、その当時の総会議案書および議事録を確認した。トラブルの実態や抱える問題の背景が明記されていたものや将来的な不安など抽象的な理由を挙げているものがある一方で、具体的な理由やきっかけが不明なものもあり、確度の高さにばらつきがあるため集計することは困難であった。しかし、複数の管理組合の総会議案書および議事録を読み解くなかで、マンション管理士活用に求められる3つのキーワードにいきついた。
 まず一つ目は「専門的知識」。マンション管理には、法律・会計・保険・建築および設備技術などの高度な専門性が求められるが、組合員一人一人にこれらを求めるのは現実的ではない。この点、マンション管理士は国家資格の有資格者であることにより、マンション管理に特化した専門的知識を有することは明らかである。さらに、調査した顧問契約の中には業界の最新の情報提供を求めているものが複数あり、マンション管理士任せにせず、管理組合自身が勉強熱心に運営を行っている印象を受けた。
 次に二つ目は、「継続性」である。役員は輪番制である管理組合が多いが、管理組合を取り巻く課題の解決には複数年かかるものもある。課題の進捗を新しい役員に引き継ぐにも一筋縄ではないかないのが現実で、役員交代時の引き継ぎ支援を顧問契約に含む管理組合もあり、マンション管理士による継続性は役員の負担軽減にもつながっているようだ。単発のコンサルティング契約ではなく複数年に渡り顧問契約を結んでいる管理組合は、この継続性を重視していると言える。
 最後に三つ目は、「第三者的立場による意見」だ。ここでいう第三者とは、管理組合でも管理会社でもないという意味である。管理会社が管理委託契約に基づき行う業務や別途提案する事業に対し、管理組合に代わりチェックし、その結果を管理組合運営に生かすことを目的にマンション管理士を活用している例は多かった。また、複数の顧問先を抱えるマンション管理士に対し、他の管理組合の運営実例さらには他の管理会社の対応実例を求める管理組合もあった。管理会社との一定の緊張感を保つことで、費用対効果の高いパフォーマンスを期待していることがわかり、管理会社の立場としては襟を正す思いだ。

以上

この記事の執筆者

大野 稚佳子

マンションみらい価値研究所研究員。管理現場にて管理組合を担当する業務を経験後、マンション管理の遵法対応を統括する部門に異動。現在は、マンションみらい価値研究所にて、これまで管理現場にて肌で感じた課題の解決へつながる研究に勤しむ。

大野 稚佳子

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