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2023.4.19

令和4年度
国土交通省「マンション管理適正化・再生推進事業」
中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果、分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究

組合運営のヒント

マンションを取り巻くリスク

中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果、分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究

第1部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果

管理の質や修繕の実施状況が中古マンションの売買価格に与える影響についての調査分析

図1 高価格帯のあるマンションの中古価格

概要

管理に関わる数値化可能なデータを用いて市場価格への影響を説明すること、すなわち管理と市場評価を定量的に結びつけることは重要であると考えられる。つまり、ヘドニックアプローチは、モノの価格は機能や性質によって決定されるという概念に基づくものであり、そのアプローチにより中古分譲マンションの管理体制が市場価格などに与える影響について推定することを目的とする。本研究は全体にわたる変化に関して、特に、供給の側面に着目したものである。 そのために以下の5つの作業上のポイントを設けた。

1)ヘドニックアプローチにより、中古分譲マンションの価格とその変化を目的変数として、これを説明するために各マンションのもつ属性、周辺環境そして各マンションの管理体制を説明変数として推定・評価することを第1の作業とする。各マンションのもつ属性、周辺環境、管理体制が直接的、もしくは相互および外部に作用することにより間接的に影響すると考えられ、これら説明変数の各々がどれほど取引に影響するかを推定した。

2)管理体制からマンションの価格構造を推定し、かつ価格変化に着目した研究は既往論文のレヴューからは見られなかった。本研究では、重回帰分析による分析方法を利用してマンションの価格構造を推定することを第2の作業とする。マンション価格は近隣のマンション価格とマンション内外の環境が影響を与えると考えられるが、ここでは、価格構造に管理体制が与える影響を推定するため、中古取引価格を用いた。客観性のある不動産取引データにより、簡易に適正な管理費を算定に用いた。

3)マンション中古価格はある価格帯の中で小刻みに上下に移動する。逆に下落するマンションもあり、これらは下落し続け市場から姿を消し負債のような扱いになることがあり、これを管理体制の適正化によって防ぐにはどうすれば良いかを考える。 これらとは別に、特に、上昇するマンションを探り示唆を得ようという試みも行った。マンションが市場に評価されている状態とは、すなわち取引価格が維持、もしくは上昇している状態を指すものを、適正状態とする。市場に評価されているマンションの管理体制の状態を定量的に示すことを第3の作業とした。取引を築年数と成約坪単価で散布図を作成すると図1のように負の相関が見られることがわかった。

4)ここから地価の影響を取り除くことを第4の作業とする。Y=0になる点より下は不動産価格が地価を割り負債的扱いとなる。しかし、図1のようにあるマンションに着目すると価格上昇の傾向が見られ、このようなマンションでは重要な管理が行われているという理由から価格上昇している可能性がある。以上の仮説のもと価格を上昇させる要因について推定した。

5)不動産市場全体に着目すると、図1のように取引時の築日数と成約価格をプロットすると点が雲のように分布する。こういった事柄を通じた価格変化を観察しようという試みを第5の作業とした。全体としては築年月を経るごとに価格が下がることが観察される。一方、個々の物件に着目すると、図1のように上位の価格帯に位置しかつ価格が上昇しているもの、図2のように中位の価格帯に位置しかつ価格変化も少ないもの、あるいは、図3のように下位の価格帯に位置しかつ価格変化の少ないものもある。

このようにマンションの価格変化は様々なパターンがある。価格上昇の点から見ると、望ましいものは上位の価格帯に位置し続ける、もしくは価格が上昇しているものである。一方価格上昇の観点から見ると避けたいパターンは、竣工時には比較的上位に位置しながらも、 価格が下落しているものである。このようなマンションは維持管理が上手くなされず、 買い手から評価を受けられないと考えられる。さらに価格上昇の観点から見ると最も避けたいパターンは下位の価格帯に位置しながら、かつ価格が下落しているものである。 このようなマンションは市場から姿を消す可能性がある。

もういちど不動産市場全体に着目し、築日数と中古制約価格グラフに着目すると中古価格に関して、歪な、下方硬直性がみられる。つまり雲の下位に分布が集中していているものの、より下位には急激に分布が少なくなるのである。ある価格帯に達すると、それより価格の低い取引が無くなり、もうこれ以下に下がらなくなったのである。この要因を見ると、マンション価格が地価と同等になったことによってその地価より下がらなくなった可能性がある。より深刻な場合としては地価相当分の価格をつけることもできず、取引が行われなくなったことが挙げられる。このような場合買い手からすれば当該マンションは負債とも捉えられるため、他に何か強いメリットが無ければ成約に至らないことは明らかである。

個々のマンション価格については2つの異なる変化がみてとれる。1つはグラフ上で上下に微動する変化であり、もう1つは全期間にわたって移動する変化である。気温が日々変化しながらも春全体では上昇する現象に似ている。ひとつに中古マンションは個々の物件の一つ一つの取引に対して、需要と供給の市場原理が働くことが表れている。つまり売り手と買い手の背景にある事情や意思決定要因が微動を生じていると想起できる。もう1つの全体にわたる変化が重要でありこちらも需要と供給の両方が関係していると想像できる。購入者の需要の側面としては、土地価格が関係していると考えられる。つまりマンションの立地が相対的に人気が出たか無くなったかのどちらかである。供給の側面としては、ハードやソフトが関係していると考えられる。つまりマンションの建物自体が修繕などによって、相対的に、魅力的になったとか、逆に、問題が生じてマンション自体が買い手から避けられている可能性もある。

第2部 中古マンション市場価格に影響するマンション管理項目とその効果Part2

1.研究目的

 中古マンション市場の健全性を保つためには、価格の変動させる因子を特定することが必要である。本調査研究では、昨年度の埼玉県K市に引き続き、埼玉県S市を対象に、中古マンションの市場価格について、管理体制に関わる項目を変数として用い、モデル式を作成することで価格の変化に影響する変数の抽出とその効果の度合いを示すことを目的とする。

2.研究方法

 埼玉県S市における中古マンション(計45棟)を対象とし、「平均坪単価」「成約坪単価差」「傾き」の3つを分析時の目的変数・説明変数(以下記載)を選択し、重回帰分析を行った。さらに、昨年度の対象地である埼玉県K市も含め主成分分析を行い、比較を行った。

目的変数、説明変数

3.まとめ

●重回帰分析結果
<モデル式①>
平均坪単価(円/坪)=450012.046ー7779.506X1 + 261841.823X2 +2424321.293 X3
[ここでX1=積立金未収金(円/坪・年)、X2=決議数毎年(件/年)、
X3=排水管連続未実施率(%/年)とする]
※昨年度同様の説明変数では、モデル式の決定係数が規定値未満であったため、排水管清掃実施率及び未実施率を変数に加えている。
 
<モデル式②>
平均坪単価(円/坪)= 458529.247+15.711X1 + 2178200.532X2 ー7333.818 X3
[ここでX1=修繕支出総額単価(円/坪・年)、X2=修繕支出総額の使用率、
X3=積立金未収金単価(円/坪・年)とする]
※モデル式①より、昨年度(埼玉県K市)同様、決議数が価格を上昇させる因子であったため、決議数をさらに分類し説明変数に加えている。
 
【解釈】
 モデル式①を解釈すると、積立金未収金が専有面積1坪あたり、年間1円増えると、中古物件として売却時、専有面積1 坪あたり、約7,780 円程度価値を下げることを意味する。これは、昨年度のK 市の結果を補完するものである。将来もしくは現状の修繕」に対する不安から不動産価値を下げていると想定できる。また、決議数毎年については、昨年度同様プラスの影響が確認された。決議数が年間1 件増えると、売却時、専有面積1 坪あたり約261,800 円程度価値を上げることを意味する。決議数は、適正な管理組合であることを示す指標として捉えられていることが判断できる。排水管2 期連続未実施率が価格にプラスの影響を与えるという結果が確認された。これは、一般的に考えると、相反するように感じられるため、別物件でも調査が必要である。
 モデル式②を解釈すると、修繕支出総額単価が1坪あたり、年間1円増えると、約15,700円価格が上昇することを意味する。また、同様に、修繕支出総額の使用率もプラスの効果を与えるものであった。モデル式①同様、積立金未収金はマイナスの効果が確認された。昨年度の研究では得られなかった結果(積立金未収金が不動産価格を下げる効果があること)が確認され、結果として補完されたと考えられる。
 
●昨年度の研究対象地との比較
管理に関する説明変数の特徴を掴むため、主成分分析を行った(図1)。結果を以下まとめる。

【結果】
①次期繰越積立金・修繕支出総額単価
→将来への備えとして重要だと感じているが、関心が薄い。
②積立金未収金単価
→昨年度とは異なる結果でありエリアによる特徴が見受けられた。K市では、将来の備えとして位置していた。S市では現状に対する修繕への意識が強い。
③修繕支出総額の使用率
→昨年度と比較し、より間接関与に向かっているため、現状の改善と意識はあるものの関心のなさが見受けられる。
④決議数
→昨年度同様、将来への不安意識に分類される。
⑤管理組合運営費単価
→S市では、決議数同様、将来への不安意識に分類されるため、管理組合への出資は悪いこととは考えられていないことが読み取れる。

図1 主成分分析結果

第3部 分譲マンションの一生における中古取引価格の変動パターン及び要因に関する研究

1. 研究目的

 マンション管理の健全性を確保するためには、適正な積立金を徴収し、適宜改修工事を実施することは欠かせない。一方で、管理会社との打合せでは、区分所有者との会話で「大規模修繕工事実施後にマンションを売却することになったが、予想よりも高く買い手が付いた」というものがあると言う。今後の管理の適正化をはかるためには、大規模などの修繕工事と資産価値の関連について明らかにすることは、政策的にも市場的にも重要である。本研究は、マンション管理組合が、マンションの一生(建替え・終活・長期修繕計画等)を考える上で、判断材料となりえるもの(中古分譲マンションの修繕工事が市場価格及びその変化に与える影響について推定するもの)を提供することを目的とする。

2.研究方法

 本研究では、既往研究であるマンションみらい価値研究所が2021 年に公表している「築40 年を経過したマンションの修繕工事費の実績(事例研究)」のデータを追記し、不動産価格データ(1990年から2022年)との照合を行った。修繕支出額や修繕積立金残高などが、特徴的な動きを見せると、それが各マンションの成約価格にまで影響を与えるかどうか把握を行った。加えて、補足調査として、各物件において、当該物件の周辺環境などについて変化が生じているかをフロント担当者にヒアリングを実施した。
【分析項目】
1. 大規模修繕工事と不動産価格の関係性
2. 大規模修繕工事間における不動産価格
3. 代表的な事例比較(模式図)

3.まとめ

●大規模修繕工事と不動産価格の関係性
 各事例に対する精査から、特に、大規模修繕工事は、不動産取引価格の下落傾向を抑える効果や上昇させる効果が複数の物件で確認される。大規模修繕工事の際に、不動産取引価格が上昇しないもしくはより下落傾向にあるマンションは、共通して資金ショートもしくは資金ショートに近い状態が確認される(報告書3部:44頁以降)。

45年間の工事金額と積立金残高の推移

●大規模修繕工事間における不動産価格
 大規模修繕工事を軸とし、不動産取引価格の推移の傾きに着目し分析を行ったところ、第1 回から第2回大規模修繕工事の間の価格変動と第2 回から第3 回大規模修繕工事の間の価格変動の間には違いが見受けられ、第3 回目大規模修繕工事以降もさらに異なる傾向が見受けられた。

Aマンションの価格推移

●代表的な事例比較(模式図)
 大規模修繕工事の第1 回目と第2 回目については、取引価格の低下が見られるものの、第3 回目以降については、資産価値の維持もしくは上昇が見受けられる。これには、工事実施に伴う資金状況が大きく関連しており、借入があったり、改修工事後に資金状況が枯渇すると資産価値の下落が見られる。

模式図

 修繕積立金の月額と資産価値に関してはプラス(ポジティブ)な相関が明らかになっていない。しかしながら、中長期的にみれば、資金の潤沢さと資産価値にプラス(ポジティブ)な価値があることが見られる。これは、政策的にも市場評価的にも、広め、啓発的に用いる価値のある結果であると考える。

この論文の執筆者

大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所 久保 依子
大和ライフネクスト株式会社 マンションみらい価値研究所 田中 昌樹
国立研究開発法人建築研究所 専門研究員 博士(デザイン学) 太田英輝
筑波大学芸術系 教授・博士(工学) 花里俊廣
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 デザイン学学位プログラム 博士前期課程(建築デザイン領域)野口翔矢

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